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『ペンギンのしらべかた』(上田一生) [読書(サイエンス)]

 ペンギンに記録装置(ロガー)を装着しようとして、フリッパーで顔を強打される。さらに噛まれる。蹴られる。親ペンギンの吐き戻しを横取りしようとする鳥からさらに横取りする。白髪染めを何箱も購入して不審者扱いされる。ペンギン研究者たちの涙ぐましい努力と苦労を専門家が語った一冊。単行本(岩波書店)出版は、2011年07月です。

 「エンペラーペンギンは564メートルもの深度に達し、27分36秒も潜水することが確認された。(中略)海中を下降していくときは翼(フリッパー)を強く激しく振り続け、上昇(浮上)するときはフリッパーをほとんど動かさず、水中を「グライディング」していることがわかった。しかもそのとき、ペンギンたちは潜水の前にあらかじめ潜ろうとする深度を想定し、吸い込む空気量を調整することで、適正な浮力を得ているらしい」(単行本p.27-28)

 こういったペンギンの驚くべき能力を示すデータが沢山出てきて、それだけでも魅力的なのですが、やはり本書の特徴は、そういった発見の背後で「文字通り日々ペンギンと格闘する」(単行本p.20)研究者たちの奮闘努力について率直に語っているところ。

 「バイオロギングサイエンスは、ハイテクを駆使することによってペンギンの「泳ぎかた」を最もリアルかつ詳細に解明しつつある。しかし、それはハイテク・ギアをいかに素早くペンギンにとりつけ、いかに確実に回収するかという、生身の生きものどうしの駆けひきを抜きにしては成立しないのである」(単行本p.20)

 ペンギンの片足に鉤突き棒をひっかけて引っ張り、「おっとっと」とケンケンしながら近づいてくるペンギンを小脇に抱えこんだり、かと思うとフリッパーで力一杯どつかれたり、逆さにして胃の内容物をバケツにぶちまけさせたり、口うつしで餌を与えている最中の親鳥とヒナのクチバシの間に強引に割り込んで餌の横取りを狙うサヤハシドリの「おこぼれ」を奪って逃げたり、といったペンギン研究者たちの涙ぐましい努力の数々に、思わず笑いが込み上げてきます。

 国際会議で「フリッパーバンドの安全な装着方法」が話題となり、世界各国の研究者たちが「互いをペンギンに見立てて、こうしようああしようと議論しあった」(単行本p.73)といった記述など、さらりと読みとばしてしまいそうですが、まあ想像してみて下さい、いい歳した偉そうな学者さんが両手をぱたぱたさせている同僚に抱きついて腕にバンドを取り付けようと奮闘しながら「いや、そこはこうした方が、でないとこんな風に蹴られるぞ」などと真剣にやっている光景を。

 というわけで、ペンギンというより、「ペンギン研究者」の生態を教えてくれる本。遠隔テレメトリー、バイオロギング、そういった先進的な研究手法の背後で、地味に頑張っている研究者の顔が見えてくる好著です。


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