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『ラン』(森絵都) [読書(小説・詩)]

 フルマラソンを完走すれば、死んでしまった家族に自力で会うことが出来ると知った日から、彼女の挑戦が始まった。孤立癖の強いヒロインがランナー仲間との交流を通じて少しずつ成長してゆく姿を描いた感動作。単行本(理論社)出版は2008年6月、私が読んだ文庫版(角川書店)は2012年2月に出版されています。

 幼くして家族をすべて失い、天涯孤独の身となったヒロイン。他人との交流をなるべく避け、ひっそりと生きていた彼女だが、あるとき「あの世」に到達して家族と再会する方法を見つける。ただし、そのためにはフルマラソンに相当する距離をノンストップで完走しなければならないのだった。

 かなり強引な設定で始まるスポーツ長篇です。何しろ、この世で生きて行くのが辛くて、あの世に逃げ込んで家族と暮らしたい、というむっちゃ後ろ向きな目的でランニングに励む、という話なのです。

 最初はそれこそ死人のように暗い雰囲気をまとっていたヒロインですが、身体を鍛えているうちにどんどん高まる生命力。やがては一緒に走る仲間も出来て、苦手な人との付き合いや職場のイジメにも対処できるようになり、さらにはボーイフレンドも獲得。まるで幸運のペンダントか何かの宣伝みたいな展開に。

 孤独癖の強い主人公が、仲間との交流を通じて次第に人間的に成長してゆく。そのシンプルで、ひねりのない真っ直ぐなストーリー展開に、むしろ意表を突かれる思いです。ここまでストレートな長篇小説って、あまり読んだことがない。

 というわけで、仲間の友情に支えられながら目標に向かって努力する若い女性の姿を真正面から書いたストレートなスポーツ小説、という路線が大好きな読者ならきっと泣けるであろう感動作です。個人的には、やや物足りませんが。


タグ:森絵都
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