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『聖女の救済』(東野圭吾) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 遠く離れた場所にいる犯人が、密室内にいる特定の人物を、何の痕跡も残さずに毒殺する。そんなことがありえるだろうか。超常現象としか思えない奇怪な事件の数々に天才物理学者・湯川学が挑む「ガリレオシリーズ」の第二長編が文庫化。単行本(文藝春秋)出版は2008年10月、私が読んだ文庫版は2012年04月出版です。

 自室で毒殺された会社社長。現場を見た女性刑事は夫人が怪しいと感じる。だが夫人には鉄壁のアリバイがあった。現場は密室、あらかじめ毒を仕込んであった痕跡は見つからない。不可能としか思えない遠隔毒殺トリックの謎に、ガリレオ先生こと湯川学が挑む。

 というわけで、探偵ガリレオシリーズの長編です。最初から犯人を明示し、登場人物もわずか数名で、ほとんど遠隔毒殺トリックへの興味だけで読者を最後まで引っ張るというシンプルで力強い構成。

 もちろん最後に明かされるトリックはあっと驚く見事なものですが、それが動機、人物造形、ドラマ性、そして意味深なタイトル、といった要素と分かちがたく結びついているところが最大の魅力です。

 こういう大技トリックの場合、仕掛けが解き明かされると途端に白けてしまう作品も多いのですが、真相を知ることでそこから感動が生じるよう念入りに工夫されています。さすがはベストセラー作家。

 トリックがあまりにも(小説のプロットとして)読者の心をつかむため、むしろどうやって証拠を手に入れるかという点が問題になります。ここまでやった犯人が凡ミスで逮捕されたりするのは、読者として納得できません。

 「おそらく君たちは負ける。僕も勝てないだろう。これは完全犯罪だ」
(文庫版p.289)

 湯川にそこまで言わしめた完璧な犯罪。犯人の誤算がどこにあったかは最後に分かりますが、このための大胆な伏線の張り方には感心させられました。トリックより何より、こういった工夫にこそミステリの面白さがあるような気がします。


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