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『名被害者・一条(仮名)の事件簿』(山本弘) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 名探偵が存在するように、この世には名被害者だって存在する。ただ、殺されてしまうため世に知られないだけだ・・・。次から次へと殺人未遂事件の被害者になる女子高生、一条(仮名)を主人公としたコメディ連作短篇集。新書版(講談社)出版は、2012年04月です。

 本作のヒロイン、一条(仮名)はラノベによくある無感動タイプの美少女だが、一つだけ際立った属性を持っている。それは彼女が「名被害者」であること。彼女がいるだけで、まるで引き寄せられるように命を狙ってくる犯人たち。ただし、きちんとした犯人はやはり名探偵の方に引き寄せられるようで、彼女に寄ってくるのはマヌケで駄目な犯人ばかり。

 「私を殺そうとする人って、みんなしょぼいんですよねえ。美学がないし、計画はずさんで、ろくなトリックも用意してないし・・・・・・あんなんじゃ殺され損ですよ」(新書版p.90)

 こうして今日も、カルト教団の教祖が奇跡を見せるために、トンデモ本の著者が自説の正しさを証明するために、オカルトマニアのおじさんが魂の重さを測るために、そして陰謀論者が女子高生に化けている爬虫類人の正体を暴くために、一条(仮名)の命を狙うのであった。

 というわけで、全五話を収録した連作短篇集です。ユーモアミステリだと思って読み始めたのですが、謎解きとか、意外な真相とか、そういうのはほとんどありません。ほぼ純粋なコメディ小説です。

 毎回、ヒロインが襲われるのですが、犯人のあまりのマヌケっぷりに不憫になって、殺害計画の穴を指摘したり、助言したり、色々と協力するものの、どうにもうまくゆかず、結局は犯人が勝手に自滅しちゃておしまい、というような展開が繰り返されます。

 あと、言うまでもないかも知れませんが、ヒロインの脱ぎっぷりがハンパなく。ほぼ毎回、何やかや理由をこじつけては裸にされます。さらに、氷漬け全裸美少女にされかかったり、コスプレ緊縛されて巨大タコの触手にいたぶられたりと、作者の、いや犯人の、趣味嗜好がストレートに炸裂。

 「どうも「自己表現」と「恥知らず」の境界が分かっていないように感じます」(新書版p.134)

 それと当然ながら漫画やアニメや特撮やSFやオカルトのネタが頻出しますが、いくら何でも昭和すぎるだろうというか、今どきの女子高生が知っているというのは設定に無理があるのではないか、とも思うのですが、そもそも設定に無理がある、というようなことを言っても仕方ありません。

 ミステリの「お約束」をからかった作品というのは多くのミステリ作家が手がけているのですが、例えば東野圭吾さんの著名作あたりと比べたときの、このマイナー感ときたら。

 最終話でSFにもってゆきますが、こうきたか、というか、最初からこのネタを出すためにこれまでの話を用意したのか、というか。ニーヴン的なネタで強引にまとめてきます。まぎれもなくバカSFなので、そういうのがお好きな方は最後まで読み通して下さい。

 というわけで、ミステリ要素は極めて希薄、コメディ要素は山盛りだけど方向性がちょっとアレ、バカSF好きは黙って最後まで読め、という一冊。話がSFになだれ込むと途端に活き活きと弾ける感じがして、この作者はやっぱりミステリ畑じゃなくてSF沼の人なんだなあ、と感じます。


タグ:山本弘
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