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『原色の想像力2  創元SF短編賞アンソロジー』(編集:大森望、日下三蔵、堀晃) [読書(SF)]

 第二回創元SF短篇賞最終候補作から厳選した七篇に加え、受賞作家の書き下ろし受賞後第一作を収録した、基本的に新人ばかりによるSF短篇アンソロジー。文庫版(東京創元社)出版は2012年03月です。

 『原色の想像力』から一年あまり、いよいよ第二巻の登場です。今回のゲスト選考委員は堀晃さん。

 既に『結晶銀河  年刊日本SF傑作選』に収録されている第二回創元SF短編賞受賞作『皆勤の徒』(西島伝法)は、何というか、とにかくインパクトが強く、大きな話題となりました。本書は、その西島伝法さんの受賞後第一作を含む創元SF短篇賞アンソロジーです。

 まず最初の『繭の見る夢』(空木春宵)は、王朝文学を現代に蘇らせた(文字通り)作品で、佳作に選ばれました。堤中納言物語より『虫愛づる姫君』を題材に、三角関係の愛憎を丁寧に描く前半、ぶっとび言語SFへと跳躍する後半、それぞれ読みごたえがあります。後半の強引な展開にはちょっと鼻白んでしまいましたが、作者の青臭い気合がひしひしと伝わってくる感じは悪くないと思います。

 『ニートな彼とキュートな彼女』(わかつきひかる)は、就活に苦戦している男性と、婚活に及び腰の女性、二人の出会いを描くボーイ・ミーツ・ガールもの。どちらも政府が提供するホームサーバ(執事、メイドとして、色々と家事の面倒をみてくれるエージェントソフト)と共に暮らしているというのがミソで、なるほど、と思わせるオチがついています。一昔前のショートショートにありそうな話。タイトルの語感がいいですね。

 『What We Want』(オキシタケヒコ)は、「関西弁スペースオペラ」という、田中啓文風というか、世界的に見ても割と狭いサブジャンルの作品。こってこての関西弁でしゃべりまくる大阪商人(外見は美少女)と、レティクル座ゼータ星人の相棒が、宇宙を股にかけて漫才する話。(商売もしますが、あまり描写されてません)

 ノリノリ爆笑ユーモア短編ながら、徹底した市場原理でぎちぎちに縛られている恒星間文明、妙にリアルに設定された宇宙関税システムなど、盛り込まれたアイデアの数々には唸らされます。とにかく掛け合いが楽しい。好み。

 『プラナリアン』(亘星恵風)は、プラナリアに匹敵する再生能力を持った一族の末裔、という伝奇SF。プラナリアを使って色々と実験してみる少年を描いた前半が好き。後半の展開(難病治療のため万能再生細胞を脊髄に注入したら全身の細胞が入れ代わってゆき・・・)はかなり強引で、さほど新味も感じられませんでした。

 『花と少年』(片瀬二郎)は、頭の上に花を咲かせた少年が怪獣と戦う話。大森望賞に選ばれました。頭に花が咲いているため子供の頃からイジメにあっていた少年の前に謎の“長官”が現れて「それは怪獣と戦うために選ばれし者の印」とか言い出す。ちなみに徹底的にシリアス路線です。

 読者としてはつい「頭の上に花を咲かせた若者が、五人揃ってフラワー戦隊サクンジャー」みたいな展開を期待してしまうのですが、私だけですか、そういうありがちな「運命に導かれし戦士たち」という陳腐な物語にあっさり後足で砂をかけてしまうところが心地よい。

 文章も巧いし、母親など脇役も印象的で、定番をさらりとかわしながらむしろ熱血度の高い展開に持ってゆくところが素敵。個人的には、本書収録作中『What We Want』と並んで好きな作品です。

 『Kudanの瞳』(志保龍彦)は、遺伝子操作により人為的に「くだん」を生み出して予言をさせようという研究プロジェクトの話。日下三蔵賞に選ばれました。語り手となる研究員が異形の「くだん」の娘に惚れたことから次第に気が変になってゆき、やがて甘美な破滅を遂げる。古めかしい怪異幻想譚を狙っていますが、どうも空回り気味に感じられます。

 『ものみな憩える』(忍澤勉)は、五十歳を過ぎた語り手が、かつて祖母が住んでいた街に三十年ぶりに立ち寄ってみる話。堀晃賞に選ばれました。丹念な描写を重ねることにより、記憶が蘇ってくる感覚とタイムスリップをごく自然につなげるところが巧み。

 単なる懐古小説に留まらず、あくまで視線は未来を向いているところがSFですが、それを抜きにしても小説としてよく書けており、私のように五十歳前後になってしまった元「夢みがちなSF小僧」を泣かせます。

 『洞の街』(酉島伝法)は、受賞作『皆勤の徒』の作者による受賞第一作。相変わらずぐちゃぐちゃぬとぬとした有機体たちが、言葉遊びで構築された奇怪でグロテスクな世界を舞台に、学園青春ドラマを繰り広げます。

 受賞作と同じテイストの作品で、その輝けるオリジナリティと異様な筆力には感心させられますが、個人的には好きではありません。一番面白いと思ったのは「著者のことば」。

 巻末には最終選考座談会の様子が掲載されています。

  日下 「ぼくはSFとは思わない」
  大森 「完全にSFです」
  堀  「SFじゃないとまでは言えない、かなあ」

といった大人げな・・・白熱の「SFか否か論争」が繰り広げられたり、大森さんが自分が気に入った作品を推すときに、「泣けるだろ!」、「正体不明の異次元からの敵と戦うんだよ?」、「商人だから大阪弁、というのは基本でしょう」、「「皆勤」だって宇宙に行ってるよ!」などと息巻いて叫んでいたり、色々と楽しめます。

[収録作]

『繭の見る夢』(空木春宵)
『ニートな彼とキュートな彼女』(わかつきひかる)
『What We Want』(オキシタケヒコ)
『プラナリアン』(亘星恵風)
『花と少年』(片瀬二郎)
『Kudanの瞳』(志保龍彦)
『ものみな憩える』(忍澤勉)
『洞の街』(酉島伝法)


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