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『ピタゴラ装置DVDブック(3)』 [読書(サイエンス)]

 アルゴリズムたいそう、アルゴリズムこうしん、などで有名なNHK教育テレビ(ETV)番組『ピタゴラスイッチ』。そのシンボル的存在である「ピタゴラ装置」の映像集、第三弾です。書籍ですが、付録としてDVDが付いており、新作42本の映像が収録されています。むしろ書籍の方がオマケ、というかDVDの解説書と思って間違いありません。

 ビーダマやら何やらがレール上を転がり出し、途中でシーソーやらテコやら回転板やら磁石やら様々なガジェットを作動させてゆき、あっちこっち動作が連続した挙げ句、最後に「ピタゴラスイッチ」と書いた紙が掲示される、という仕掛け。ありふれた家庭用品・事務用品だけを組み合わせて作ってあるのもポイント。

 第一弾、第二弾とも凄かったのですが、今作で集められた作品は、一段とレベルが上がっています。観客の予想を裏切る意外な動き、まさかと思うような微妙なバランス、作り手の意志というか演出意図を感じさせる傑作ぞろいで、何というのか、映像作品としての完成度が高くなっています。

 通常のピタゴラ装置の他に、小動物が活躍する「びっくりリス」、「かけ軸金魚」、「がんばれハムスター」という、どうぶつ装置の映像が三本収録されているのも素敵です。個人的にはリスのやつが好き。

 特典映像として、ピタゴラ装置のメイキングというか、試作途中の映像(第一試作、第二試作、第三試作と完成度が上がってゆく様子)を見せてくれます。他に教育用ショートショートフィルムが一本。

 本編23分、特典映像6分、カラー写真満載の解説書が付いて2800円ですが、高くないと思います。下手な映画を観るよりはるかに楽しめる30分の驚異を是非ご覧ください。


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『Jiri Kylian Forgotten Memories + Wings of Wax』(イリ・キリアン) [映像(コンテンポラリーダンス)]

 現代最高のコレオグラファの一人、イリ・キリアン。彼が自らの人生について語るドキュメンタリーフィルムです。制作は、Don KentとChristian Dumais-Lvowski。

 幼少期の思い出、故国への思い、師ジョン・クランコのこと、妻のこと、そしてもちろんダンスとNDTのこと。カメラに向かってキリアンが語り、そこに様々なイメージ映像、レッスン風景、舞台映像が挿入されるという作りになっています。収録時間は52分。

 日本語字幕は付いていませんが、キリアンの英語は発音・表現ともに簡潔にして明瞭で、聞き取りに困ることはありません。なお、事前にキリアンの来歴を調べておくことをお勧めします。(よく知られていること以外、特に目新しいことは言ってません)

 まあ、無理に聞き取らなくても、ただ次々と流れるキリアン作品の映像に酔いしれるだけで充分かも知れません。これまでに市販されている舞台映像のハイライトシーンが詰め込まれています。

 初めて観る映像もいくつかあったのですが、作品名が分からないというのは残念。最後にドキュメンタリー内で使用した作品のリストがまとめて提示されますが、どれがどれだか確認するのはかなりの手間。舞台映像シーンで作品名を表示してほしかったと思います。

 また、付録としてキリアン作品『Wings of Wax』の舞台映像が収録されています。収録時間は24分。

 天井から逆さまに吊るされた木、その周囲をゆっくりと周回する光源。いや、たぶん舞台こそが(樹上に拡がる)天上界で、その周囲を回る光源は太陽なのでしょう。この印象的な舞台で、数名のダンサーが踊ります。

 特に明確なストーリー(例えばタイトルから連想されるイカロスの物語)があるわけではなく、いわゆる抽象ダンスです。ドキュメンタリーでキリアンは「舞台に人間が立っている限り、“抽象”ダンスなんてあり得ない」と断言していましたけど。

 ドキュメンタリーに挿入されている映像も、『Wings of Wax』の舞台映像も、いずれも素晴らしい。まとめて観るとキリアン作品の凄み、その恐ろしいほどの吸引力、動きの斬新さ、色あせないシャープな演出、全てに感激を禁じ得ません。

 何より驚かされるのは、作風が多彩なこと。同じ振付家の作品とは思えないほどバラエティに富んだダンス、しかもどれも心を揺さぶられるような傑作ばかり。キリアン作品に興味がある方には、まずは入門としてこのディスクをお勧めします。


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『ぶたぶたは見た』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

 毎年、年の暮れが近づくとやってくる素敵なクリスマスプレゼント。矢崎存美さんの人気シリーズ「ぶたぶた」最新作です。今回は長篇。職業は、タイトルからも明らかなように、家政夫さん。派遣先の家庭でぶたぶたが見たものとは。彼の身に危険が迫る(?)。文庫版(光文社)出版は2011年12月です。

 外見はかわいいぶたのぬいぐるみ。心はしっかり中年男。家族は奥さんと二人の娘。そんな山崎ぶたぶた氏に出会った人々に、少しだけ幸福が訪れる。「ぶたぶた」シリーズはそういう素敵な物語です。愛読者には女性が多いそうですが、私のような中年男性をも、うかうかとファンにしてしまう魅力があります。

 というわけで、今年もやってきました、これがないと年の暮れを無事に迎えることが出来ないとまで云われる、「ぶたぶた」シリーズの新作。夏に『ぶたぶたさん』が出ているので、今年は二冊も読めるわけで、とても嬉しい。2011年は良い年だった、と思うことにしましょう。

 母親が交通事故で入院したため、会社員である父親、大学生の息子、中学生の娘という平凡な家庭にハウスキーパーさんがやってくる。ピンク色のぶたのぬいぐるみである、という点を除けば何の変哲もない家政夫さんだったが、家事の腕前は超少女明日香なみ。

 “マイ脚立”をえっちらおっちら運んできて(カバーにも描いてありますが、これがラブリー)、それに乗って料理、掃除、洗濯と何でもてきぱきこなしてしまう働き者。すっかりなついてしまう家族の面々。

 しかし、この幸福な家庭に怪しい影が忍び寄る。家族に付きまとう謎の男。不審な怪電話。警察がやってきて言う。奥さんが事故にあったとき、背後から誰かが背中を押した、という目撃証言があると。彼女は殺されかけたのだろうか。誰に、なぜ。そして犯人は今も機会をうかがっているのだろうか。

 果たして事件の真相やいかに。

 ぶたぶたの名推理(ネットで検索して見つけました)、バイオレンス(ぶたぶたをつかんで投げつける犯人。ぽふっ)、そして犯人との息詰まる対決(ご飯できましたよ、ここに置いておきますね)、という具合にサスペンスミステリー仕立てです。帯も「ミステリーしてます」と主張してますし。

 しかし、まあ、いつものぶたぶただと思って間違いないです。どちらかといえば、ぶたぶたの活躍によって家族が絆を取り戻すハートウォーミングな物語、という方が正直なところ。活躍というか普通にお仕事ですが。ともあれ気持ちよく読了することが出来ますので、ご安心。

 今年は色々とつらいこともありましたが、本書を読んで温かい気持ちになり、家族のことをちょっと振り返ってみたりするのもいいかと思います。


タグ:矢崎存美
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『第84回 バロック・オペラの日 最新最強コラボによる“ 2 1世紀のラモー”』(鈴木優人、黒田育世) [舞台(コンテンポラリーダンス)]

 本日(2011年12月09日)は、夫婦で白寿ホールに行って、黒田育世さんが鈴木優人さんと共演した公演を観てきました。演目は、ジャン・フィリップ・ラモーのオペラ・バレ『優雅なインドの国々』より抜粋したものです。

 舞台向かって右側に演奏者たち、中央にソプラノ歌手、そして(主に)左側で黒田育世さんが踊ります。およそ1時間の舞台でした。

 脚立、風船、人形などの小道具を用いて、あるときは優雅に舞い、あるときは滑稽な仕種でおどけ、ときどき鬼気せまるような動きも出てくるなど、様々な雰囲気で踊ります。コラボレーション作品であるためか、曲調に合わせた割と素直な表現が多かった印象です。

 しかし、バロックの調べが風雅であろうと、オペラの声楽が響きわたろうとも、舞台で踊っている黒田さんはやはり人外の存在。その動きからは、人ではない何かを見てしまった、という感じがひしひしと伝わってきます。すごい。

 こじんまりとした公演ではありましたが、今年最後に観る舞台で黒田育世さんのダンスを堪能することが出来て幸福です。来年も良いダンスを沢山観ることが出来ますように。


[出演]

指揮・演出・チェンバロ: 鈴木優人
振付・出演: 黒田育世
ソプラノ: 野々下由香里

フラウト・トラヴェルソ: 築城玲子
オーボエ: 三宮正満、森綾香
ファゴット: 村上由紀子
ヴァイオリン: 若松夏美、荒木優子
ヴィオラ: 成田寛
ヴィオラ・ダ・ガンバ: 平尾雅子
ヴィオローネ: 西澤誠治


タグ:黒田育世
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『宇宙ヨットで太陽系を旅しよう  世界初!イカロスの挑戦』(森治) [読書(サイエンス)]

 宇宙空間に広げた巨大な帆に太陽の光を受けて加速する、燃料も推進剤も必要ない宇宙ヨット、ソーラーセイル。人類初のソーラーセイル宇宙機「イカロス」はどのようにして開発されたのか。新書(岩波書店)出版は2011年10月です。

 2010年6月。小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡的な地球帰還に日本中が注目している頃、金星探査機「あかつき」と共に打ち上げられたソーラー電力セイル実証機「イカロス」は、宇宙空間におけるソーラーセイル展開に成功するという人類初の快挙をなし遂げました。

 セイル展開に続いて、カメラ分離とセルフポートレイト撮影、金星フライバイ、薄膜太陽電池による発電、そしてソーラーセイル航行の実証など、全てのミッションを完遂。将来の木星・トロヤ群小惑星のソーラーセイル探査への道を切り拓いたのです。

 本書は、「はやぶさ」の話題に隠れてしまった感のある、この「イカロス」について開発者が熱く語った一冊。

 まずは、イカロスに用いられた様々な技術についての解説。

 マストを使わずセイル自体を回転させることで展開・姿勢維持するスピン方式。光の反射率を変えることが出来る液晶デバイスをセイルに貼り付け、そのオンオフによりセイルを操る操船技術。搬送波(キャリア)にデータを乗せるのではなく搬送波そのもののオンオフで行う極低レート通信(というか、ほとんどモールス信号)による通信不可能期間の短縮。などなど。

 その開発はどのようにして行われたのでしょうか。

 驚いたことに、イカロスの開発は、金星探査機「あかつき」を打ち上げる際にロケットの振動を抑えるための「オモリ」が必要ということから、せっかくだからオモリの代りに何か他の宇宙機を乗せよう、というところから始まったのだそうです。

 基本的に「あかつき」のためのオモリだから、予算も時間もかけられない。予算は通常の1/10。開発期間は2年半という非常識な短さ。しかも開発が間に合わなかったら、打ち上げてもらえないのではなく、未完成のまま「あかつき」のオモリとして打ち上げて宇宙に捨てられるという運命。

 このあり得ないような悪条件で「やります」と手を上げる根性には、感心するより前にあきれてしまいます。

 とにかく、金なし、時間なし、人手なし。プロトタイプモデルを作る余裕がないから、振動試験や熱真空試験は、ばっさり省略。それどころか、「はやぶさ」のプロトタイプモデルをひっぺがして部品や材料をかき集める、他の宇宙機開発プロジェクトで余った部品をもらってくる、「あかつき」の部品を開発したメーカーに“まったく同じ部品”を安く作ってもらう、などの涙ぐましい努力が続きます。

 涙ぐましいといえば、真夜中のスケートリンクを借りてのセイル展開実験というのも凄まじい。手巻きしたセイルをリンク中央につるして、セイルの先端マストにカーリングのストーンを付け、氷上で四つのストーンを押してから「よいしょっ」と離し、うまくセイルが展開するか試す。学園祭の余興みたいな。

 展開中にストーンがはずれて跳んできたときには、「スーパーマリオみたいに、決死のジャンプでした。(中略)セイル膜を助けるためにストーンの回っているつるつるのリンクを突進するなど、今思うと本当に怪我がなくてよかったなあと思います」(新書p.72)

 怪我がなくてよかったなあ、で済ませていいのか。日本の宇宙開発。

 苦労話に感動する一方で、こういう開発環境で育った技術や学生に、はたして将来性があるのか、疑問を感じるのも確かです。何だか「貧乏人のやりくり上手」みたいな人材ばかり育って、大きな予算を使った巨大プロジェクトを実行できるような人も組織も育たないのではないか。ちょっと不安になります。

 ともかく、2010年代のうちに「イカロス」のソーラー電力セイルと「はやぶさ」のイオンエンジンを組み合わせた、次世代探査機による木星圏探査を計画しているとのことで、予算が厳しくてもがんばって実現してほしい、と思います。

 余談になりますが、なぜ「イカロス」という名前にしたのか、という裏話が面白い。通常は公募で決める(応募数が一番多かった名前に自動的に決まる)のですが、そうすると「このソーラーセイルの名前を公募すれば、きっと「タコ」になってしまいそうだ・・・と予想がつくのです」(新書p.165)。なるほど。

 人類初のソーラーセイル実証機の名前が「タコ」になるのが嫌さに、公募を止めたというのです。神話のイカロスは太陽に近づきすぎて墜落する、だからその名前は縁起が悪い、という意見もあったそうですが、「そこまで高く飛んだのだから、仮にそうなったとしても、むしろ本望」(新書p.167)と言い切ったそうで、かっこいいなあ。でも個人的には「タコ」でもそれはそれで良かったんじゃないかと思います。


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