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『プエンテ・デ・トリアナ Puente de Triana』(ラファエル・カンパージョ) [映像(コンテンポラリーダンス)]

 先週末(12月3日)のNHK BS プレミアムシアターでは、2009年モン・ド・マルサン フラメンコ芸術祭における、セビリアのフラメンコ名手ラファエル・カンパージョの公演を放映してくれました。

 6名のバックミュージシャン、5名のダンサーによる、こじんまりとした作品。大半の演目ではダンサーがソロで踊るのみ。ショーアップの要素はほとんどなく、ひたすら真剣にフラメンコを追求した、ストイックな印象すら受ける密度の高い舞台です。

 登場するダンサーはいずれも鳥肌が立つほどのパフォーマンスを見せてくれますが、やはりラファエル・カンパージョが凄い。激しく床を踏み鳴らすタップの響き、気迫のこもった腕の振り、情熱ほとばしる旋回、飛び散る汗、圧倒的な存在感。その迫力に満ちたダンスには激しく引き込まれます。目を離すことが出来ない。

 あまりの白熱ぶりに極度の精神集中を強いられ、途中で気分が悪くなって中断。翌日に再鑑賞しましたが、すぐにまた異常な高揚と集中で頭痛が。ガチのフラメンコを長時間鑑賞するだけの体力がもはや己にないことを痛感させられます。

 不満が残ったのはカメラワークと編集。ダンサーが気迫の動きを見せているときに、バックミュージシャンをのんびりと映したり。超絶的なタップや、衣装の長いすそを見事にさばいているというのに、わざとのようにバストアップショットで上半身だけとらえたり。

 観たいのはダンサーだよ、足さばきだよ、全身表現だよ、ちゃんと映せよ、叫びたくなります。これだけ力のあるダンスなのだから、何の工夫もなく観客目線の固定カメラで撮った方が良いのでは、とさえ思いました。

 という具合に色々と映像作品としては不満もありますが、公演としては恐いくらい素晴らしい。フラメンコに興味がある方は必見でしょう。恐ろしく密度が高い舞台なので、一度に全部観ようとしないで、何回かに分けて少しずつ鑑賞することをお勧めします。


『プエンテ・デ・トリアナ Puente de Triana』(ラファエル・カンパージョ)

放映
  2011年12月3日(土) 23時30分~
  NHK BS プレミアムシアター

収録
  2009年7月10日
  エスパス・フランソワ・ミッテラン

[キャスト]

  ラファエル・カンパージョ
  イサベル・バジョン
  アデラ・カンパージョ


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『トワイライト・テールズ』(山本弘) [読書(SF)]

 ファンタジーとしての怪獣、UMAとしての怪獣、そして神としての怪獣。日本の郊外で、北米の湖畔で、タイの田舎で、コンゴの密林で、世界各地を舞台に怪獣と人間との様々な関わり合いを描く、人気シリーズ『MM9』の番外篇となる短篇集。単行本(角川書店)出版は2011年11月です。

 本格怪獣小説『MM9』シリーズの世界観を元に、世界各地で「ご当地怪獣」が活躍する楽しい短篇集です。

 『夏と少女と怪獣と』の舞台となるのは北米の湖。むろん、レイクモンスターが現れます。それも日本では「ハーキンマー」、というより「スクリューのガー助」として人気の高い、フラットヘッド湖のモンスターが主役なのが嬉しい。少年少女の恋と冒険を描いたジュブナイルですが、ちょっぴりブラッドベリも入っています。

 『怪獣無法地帯』は、多々良島ではなく、アフリカの密林が舞台。アフリカ産UMA総出演の上、キングコングと、当然のように女ターザンも登場して、秘境探検と怪獣対決モノの醍醐味を楽しめます。特定世代の読者であればプロローグを読んだだけでラスボスの見当がつきますが、油断しているとびっくりさせられることに。

 『怪獣神様』は、タイの田舎が舞台。宇宙から降臨した神である怪獣と少女の心の交流と避け得ない悲劇を描きます。暗い話ですが、存在を許されず徹底的に排除される「巨大怪獣」を社会からの疎外感に重ねる物語というのは、怪獣ストーリーの定番の一つなので、やはり外せないでしょう。

 『生と死のはざまで』は日本の郊外住宅地が舞台となります。現実に立ち向かう勇気がなく、安っぽいファンタジーにひたすら逃避する少年が主人公。出現した怪獣を「自分をこの嫌な世界から夢と冒険に満ちた異世界に連れていってくれるドラゴン」だと信じて出現ポイントに向かった彼を待っていた運命は。「トワイライトゾーン」っぽい仕掛けのある、ちょっとイタい話。

 舞台もプロットも雰囲気も様々ですが、とにかく巨大怪獣と美人(および/あるいは)美少女が出てきて活躍する(しかも、けっこう脱ぐ)、心踊る楽しい短篇集。SF度は低めですし、対象読者も『MM9』本編よりやや低年齢層がターゲットのようですが、怪獣ものが好きなら年齢問わず理屈抜きに楽しめるでしょう。

 あちこちにUMAや怪獣映画などのネタが散りばめられており、原典を探すという楽しみ方も出来ます。年号と地名がセットで出てくれば、それは作者の「目配せ」だと思って間違いありません。


[収録作品]

『生と死のはざまで』
『夏と少女と怪獣と』
『怪獣神様』
『怪獣無法地帯』


タグ:山本弘
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『ボンベイ・ベリーウッド Bombay bellywood』(ベリーダンス・スーパースターズ) [映像(コンテンポラリーダンス)]

 先週末(12月3日)のNHK BS プレミアムシアターでは、2009年の初来日時に大きな話題となった「ベリーダンス・スーパースターズ」の最新日本公演(2011年5月)『ボンベイ・ベリーウッド』の舞台映像を放映してくれました。

 ベリーダンスとインド古典舞踊を組み合わせた派手なダンスショーで、13名のダンサーとタブラ(ドラム)奏者により繰り広げられるめくるめくカラフルな舞台。ソロダンスあり、群舞あり、色鮮やかな布が乱舞するかと思えば、多彩なパーカッションに観ているこちらの身体の芯まで揺さぶられる。

 激しいベリーダンスと軽快なインド舞踊、ときにバレエやヒップホップの技法も混ざって、何ともいえずエキゾチックで魅力的な公演となっています。下手な小細工なし、ひたすらダンスのパワーで引っ張ってゆくのも見事。

 最初からあまりの盛り上がりに、途中で飽きるのではないかと心配になりましたが、最後までどきどきしながら観ることが出来ました。これ、いいですよ。ものすごく楽しい。

 派手で、リズミカルで、力強く、自信と歓喜に満ちた踊り。最近、日本でもベリーダンスがブームと聞いていましたが、なるほど、この舞台を観れば、若い女性が「踊ってみたい!」と思うのはよく分かります。

 この番組はNHKオンデマンドでも配信するそうなので、見逃した方はそちらでどうぞ。お勧めです。


『ボンベイ・ベリーウッド Bombay bellywood』(ベリーダンス・スーパースターズ)

放映
  2011年12月3日(土) 23時30分~
  NHK BS プレミアムシアター

収録
  2011年5月29日
  東京 シアター1010

演出・プロデューサー
  マイルス・コープランド

[キャスト]

  サバ、プチ・ジャミーラ、シヴァーニ・タッカー(インド古典舞踊)
  ステファーニャ、モライア・チャッペル、コリーン、エイプリル・ローズ
  ローレン、エデーニア、ヴィクトリア、インカ、オーブレ、ジャイナ

タブラ(ドラム)
  イサーム・フシャーン

振付
  サバ、ミーラ、サミール、ボジェンカ、ジリーナ、
  デビッド・オブ・スカンディナビア、カミ・リドル、モライア・チャペル、
  ゾイ・ジェイクス、プチ・ジャミーラ

照明
  スティーヴ・エルリントン

音響
  ブライアン・チェイス


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『わたしを宇宙に連れてって  無重力生活への挑戦』(メアリー・ローチ) [読書(サイエンス)]

 輝かしい栄光、恐るべき悲劇。有人宇宙飛行の大半を占めているのはそのどちらでもない。食事、排便、排尿、嘔吐、体臭、入浴、自慰。滑稽だったり汚かったり、NASAの広報部が決して喧伝しない、宇宙開発の人間くさい側面に焦点を当てた下品で楽しい科学ノンフィクション。単行本(NHK出版)出版は2011年10月です。

 「NASAは真実を隠蔽している」と主張する本をときどき読むのですが、これが正しいことは本書を読めばすぐに分かります。ただし隠されているのは、異星人の来訪でも火星のピラミッドでもなく、有人宇宙飛行のイメージを損ない、ただでさえ不足している予算を危機にさらす恐れのある事実なのです。

 例えば、「打ち上げ直後の一日か二日、シャトル内の映像がほとんど放映されない」(単行本p126)のはなぜでしょうか。それは「乗ってる全員がどっか隅っこで吐いているから」(単行本p.126)だそうです。

 無重力で楽しそうに浮いている宇宙飛行士の映像を見ると、すごく羨ましく感じるのですが、実際には人は無重力では簡単に嘔吐するらしい。無重力体験フライト用の飛行機を誰もが「ゲロ彗星」と呼ぶのはそのため。

 同乗した人物に本当に唐突に吐かれたとき、「回避行動の適否が運命を分ける」(単行本p.121)と語るのはNASAのEVA管理部のスタッフ。「ふいに直感したんだ。いまからおよそ三秒後に、ゲロが2Gの加速度でこっちに向かってくるとね」(単行本p.121)

 こんな超能力を発現させるまでに、この人はどれほどの修羅場をくぐり抜けてきたのでしょうか。宇宙の過酷な環境が人類をニュータイプにする、というのは本当かも知れません。

 ゲロ吐きが汚い話題だと感じるなら、排泄を扱った章など読めないでしょう。

 「無重力空間では、尿は膀胱の底には集まらない。表面張力によって、膀胱の内壁に張りついてしまう」(単行本p.301)。このため膀胱は満タンになっていることを検知できず、脳は警報を受け取ることが出来ない。結果は・・・。

 さらに大便を肛門から引き剥がす力が存在しない環境では、表面張力が荷物をしっかりと肛門に張り付けるのです。切り離しに成功しても「糞便ポップコーン効果」によって便は飛び散り、漂い始めます。アポロ10号の交信記録をご覧ください。

 スタフォード「ナプキンを取ってくれ。クソがそこに浮かんでる」
 ヤング「俺じゃない。俺のじゃないぞ」
 サーナン「俺のでもない」
 スタフォード「俺のはあれよりもっとゆるかった」
 (単行本p.306)

 飛び交うゲロと浮遊する大便だけでなく、本書には人間くさい話題が満載されています。

 「ある宇宙飛行士は、ハッチを開けて宇宙空間に出たとたん、同僚の脚に両腕を回してしがみついた」(単行本p.74)。もちろん、落下の恐怖に対する反応。

 二週間に渡って入浴も着替えも出来ない宇宙飛行士たちの下着は「股間など身体のくぼんだ部位に張りつき、強い悪臭を放ちながら、崩壊し始め、ひじょうに厄介な状況」(単行本p.218)になるという。

 ジェミニ7号の打ち上げ翌日、これから船外に尿を廃棄すると報告した宇宙飛行士はこう付け加えた。「大した量じゃないよ。ほとんどは僕の下着に染みてるから」(単行本p.219)

 これまでに無重力セックスを体験した人類はいるのか。無重力状態で屁の推進力だけでどれだけ移動できるか。歴代の宇宙飛行士たちが持ち帰った大便が今でも冷凍庫に保存されているというのは本当か。宇宙カプセルの中で排尿するとき犬はどうやって片足を上げるのか。宇宙服に装着される男性用尿採集器のサイズに「大」と「特大」と「超特大」しかないのはどういうわけか。

 著者は大いなる熱意をこめて調査を進めます。

 膨大な資料にあたり、通話記録をかきわけ、関係者にインタビューを試み、さらには無重力体験飛行、閉鎖環境実験施設、月面探査模擬試験場、衝突実験場など、様々な施設で実地体験を試みるのです。その情熱には頭が下がります。

 あまりに興味深い(そして下世話な)話題が満載されているため、思わず笑ってしまい、ときどき気分が悪くなるのですが、本当の宇宙開発というのはこういう問題に一つ一つ対処してゆくことなのだ、ということがよく分かります。

 個人的に感銘を受けたエピソードを一つ。本書にしては珍しく、下品でない話題です。

 アポロ計画におけるクライマックスの一つは、月面に「たなびく星条旗」を立てる、というミッションだった。『月面に旗を立てることに関する政治的および技術的側面』という論文が書かれ、伸縮式の旗竿と横棒(そこから星条旗をカーテンのように垂らして風にはためいているような形にする)が開発された。

 しかし、月着陸船にそんなサイズのものを乗せる余地はない。そこで着陸船の外側に取り付けることになったが、それにはエンジンが発する摂氏1000度を超える熱に耐える必要がある。星条旗セットを守るために特殊な保護ケースが開発された。

 しかし、宇宙服を着たまま星条旗を保護ケースから取り出すのは困難であることが判明。宇宙飛行士は「国旗セット展開・設置シミュレーション」訓練を延々と繰り返すはめになった。

 星条旗を保護ケースに格納する4ステップの工程については、品質管理課長自ら監督するほどの厳重な管理が行われた。月の地面が固く、旗竿が浅くしか刺さらないという予想外のアクシデントに見舞われたものの、国旗セット展開・設置ミッションは無事に成功した。

 それから何十年も経って、当時の記録映像を見た人々が、「空気がないはずの月面上で星条旗がたなびいている。これは捏造に違いない」と騒ぐことになった。これほどの栄誉に恵まれた宇宙ミッションは他にはないかも知れない。


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『水族』(著:星野智幸、イラスト:小野田維) [読書(小説・詩)]

 シリーズ“星野智幸を読む!”、第14回。

 湖底に作られた透明通路で生活するという奇妙な仕事に就いた青年。魚や海獣に囲まれて一人ぼっちで生きているうちに、次第に世界が変容してゆく。ビルの上の密林、水没する東京、水中動物園。懐かしい雰囲気のイラストを多数収録した不思議な絵本。単行本(岩波書店)出版は2009年1月です。

 「ブンガクとビジュアル、実力派小説家と気鋭の画家による花の競演、大人のための絵本」という岩波書店のCoffee Booksシリーズの一冊です。小野田維さんの幻想的な絵が随所に散りばめられ、何だか懐かしい気分。

 地球温暖化による海面上昇で水没してゆく東京を舞台に、水と魚の幻想的イメージにあふれた物語が展開します。あふれる水がビルや密林や空を飲み込んでゆき、鳥も、獣も、街も、人も、すべてが水棲へと変貌してゆく様が描かれます。

 『紙女』という短篇小説の中で、作者自身をモデルにしていると思しき「ホシノ」という作家が「そりゃあもう。ぼくは魚に取り憑かれているところがあるんだ」と語っていますが、あながち虚構ではないのかも。

 読む前は、『無間道』と『俺俺』の間に発表された小説というからにはさぞや陰惨なものに違いない、などと想像していましたが、それほど嫌な話ではありません。まあ確かに湿っぽい物語ではありますが。

 星野さんの小説としては、最も読みやすく、分かりやすい作品で、しかもイラストを除けば正味中篇くらいの長さなので、この著者の作品を試しに一冊読んでみようという方にお勧めです。80ページ弱、B6判というコンパクトサイズ、ハードカバー。絵本というだけあって上製本ですから、クリスマスプレゼントにも向いているかも知れません。

 というわけで、これで現時点で発行されている星野智幸さんの本は全て読みました。個人的には、『植物診断室』以降の新しい作品がやっぱりいいと思う。このところ数年に一冊の頻度でしか本が出てないようなので、新作を読むのはしばらく先のことになりそうです。ちょっと寂しい。


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