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『驚くべき雲の科学』(リチャード・ハンブリン) [読書(サイエンス)]

 まさにUFOそっくりのレンズ雲、雲中に出来る光輪(グローリー)、この世の終わりの光景を彷彿とさせるストーム・クラウドの雲底、戦闘機が音速の壁を突破した瞬間に発生する衝撃波雲。奇跡のような珍しい雲をとらえた美麗カラー写真の数々に、どうしてそんな雲が出来上がるのか気象学から解説を加えた、雲のサイエンス本。単行本(草思社)出版は2011年9月です。

 タイトル通り、ページをめくるたびに目に飛び込んでくる、驚くべき雲の写真。こんな雲がある、というより、あり得るとは想像もしてなかった、仰天するような雲の写真が詰め込まれた、基本的には雲の美麗写真集です。

 全体は5つの章に分かれています。

 最初の「1. 雲を上から見る」に掲載されているのは、飛行機や人工衛星から見下ろした雲の写真。雲塊の縁を上から見た写真、軌道上から見下ろした雷雲、美術作品のような雲のカルマン渦、溶岩の湖を見下ろしているような、夕焼けに照らされたフォールストリーク・ホール。そして、ハリケーン「カトリーナ」の目の内部に突入した観測機が写した驚異的な光景。

 最初の章は基本的に「美しい」写真ばかりですが、次の「2. 奇妙な雲」になると、呆然とするような変な雲の数々に目を奪われます。空を覆い尽くす乳房雲、UFOそのままのレンズ雲、手前から消失点の彼方へと真っ直ぐに駆け抜けるようなロール雲、リング状の飛行機雲(あまりに奇妙なので「ケムトレイルだ」と騒がれる)、山頂を覆うキャップ雲。

 そして「3. 光の効果」になると、神々しいというか、絵画のような世界が広がります。雲の中に出来た虹の輪(グローリー、光輪)、雲を突き抜ける虹、雲中に出来た裂け目にかかる虹、妖しい夜光雲の絶景、真っ赤に染まる真珠母雲、そして雲そのものが虹色に輝く彩雲。

 「4. 劇的な雲たち」は、いわば第2章のパワーアップ版。上から迫りくる銀色の巨大母船、竜巻から地表に降り注ぐ電光、サウス・ジョージア島の超現実的なレンズ雲(単行本p.99に掲載されているこの写真が、個人的なお気に入り)、フォールストリーク・ホールから雲が「落下」してゆく写真、ダストストームやガストフロントがこちら目掛けて襲いかかってくる恐ろしい写真。迫力満点の竜巻やトルネードの写真、満載。

 最後の「5. 人間によって作られた雲」では、人為的に生み出された奇妙な雲の写真が集められています。ミサイルが作り出した蛇行する夜行雲(輝く龍そのもの)、戦闘爆撃機の翼をすっぽり覆うウィング・クラウド、旋回するプロペラからリボンのように垂れ下がる雲、打ち上げ直後のスペースシャトルが残した奇妙にもつれた飛行機雲、黒い煙が輪となって雲に貼り付けられている写真、そして最後を飾るのは戦闘機が音速を突破した瞬間に衝撃波によって出来る雲をとらえた珍しい写真。

 それぞれの写真には、そのような気象現象がどのようにして起きるのか、簡単な解説が添えられています。写真に息をのみ、解説を読んで改めて感嘆する。雲という普段から見慣れているはずの現象について自分が何も知らなかったことに気づく、この興奮と喜び。

 というわけで、珍しい雲の写真集にして、分かりやすい気象学入門書です。雲を見るのが大好きな方も、そういえば最近は雲を見上げたことなんてないなあという方も、本屋さんで見かけたらちょっと手に取って眺めてみて下さい。それと、見慣れない雲を見るとすぐ、ケムトレイルだ、地震雲だ、前兆現象だ、と騒ぐ人にもぜひ読んでほしい一冊。


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