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『クモの網  What a Wonderful Web!』(船曳和代、新海明) [読書(サイエンス)]

 クモが織りなす様々な形の網。芸術的ともいえるその美しさに魅せられ、これまでに2000枚を超える「網の標本」を採集してきた研究者のコレクションから厳選された美麗クモ網写真集。同じく日本蜘蛛学会の専門家による解説付き。単行本(INAX出版)は、INAXギャラリーにおける「クモの網展 What a Wonderful Web!」と併せて2008年3月に刊行されました。

 というわけで、様々な種類のクモが作り出す網の標本を集めた一冊です。

 クモの網なんてものをどうやって標本にするのか。まず網に白ラッカーを吹きつけ、それから色付きダンボール紙の表面に糊を塗ったものを背後からそっとあてがって、静かにすくい取るのです。そうすると白い網がくっきりと浮かび上がって、それはそれは美しい標本が出来上がり。

 世界中にはクモが4万種、日本だけでも1300種のクモが棲息しているそうです。その半分、つまり500種を超える種が網を張るのです。種によって網の形状は様々。そのバリエーションだけでも圧倒されます。

 円形、三角形、キレ網、ドーム状、ハンモック状、二段重ね、筒状、一本釣り、さらには長さ数メートルにもなる巨大な集団円網から、蛾を転がして鱗粉をはぎ取る梯子網まで。繊細で美しいその形に魅了されてしまいます。

 一つ一つの写真には、それを作るクモの紹介と、どうしてそのような形になっているのか、その特徴とポイントを解説した、クモの専門家による短い解説記事が添えられています。クモという不思議な生き物について、色々と知ることが出来ます。

 糸に粘性がある網ばかりではなく、縦に張った網に引っかかった虫が下の横網に落ちてきたところを捕食するタイプもある。オスの網とメスの網が二段重ねになったタイプ、川に「浮き」を流して水面の虫を捕らえるタイプ、地面に向かって垂れた糸の下端に粘球があり、地面を歩く虫が接触したら支え糸が切れて空中に釣り上げるタイプ。

 「隠れ帯」と呼ばれる特殊な構造体が取り付けられた網も多く、隠れ帯の形にも、X形、棒状、丸型、ジグザグ、刺繍ステッチ風など様々なものがある。隠れ帯の目的は分かっておらず、クモが身を隠すため、鳥に警告するため、網を補強するため、網全体の張力を調整するため、紫外線を反射して餌を誘因するため、など諸説紛々。研究者の間でも議論が続いているそう。

 他にも、網の横糸が「同心円状」になっている(普通はもちろん螺旋状)クモが発見されたときには専門家たちが大騒ぎになったとか、古い網を壊してからわずか30分後につくられた新しい網を構成している糸の成分の80~90パーセントが、もとの網糸を食べて「消化吸収」したタンパク質を再利用したものだったという報告があるとか、空腹時と満腹時で網の形を変えることによって網に投資するコストを細かく調整する倹約家のクモがいるとか、興味深いエピソードでいっぱい。

 普段は邪魔者に過ぎないクモの網が、実はこんなに魅力的な研究対象だとは思いもよりませんでした。美しい自然の造形をとらえた写真集として楽しむも良し、クモに関する雑学に唸るも良し、心と頭に響く素敵な一冊です。


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