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『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン (The Show Must Go On)』(ジュローム・ベル) [舞台(コンテンポラリーダンス)]

 昨日(2011年11月13日)は、夫婦で彩の国さいたま芸術劇場に行って、ジュローム・ベルの話題作を観てきました。2001年1月にフランスで初演されて以来、世界50以上の都市で上演されてきた「悪名高い」作品です。

 上演する度にその地域の人々を集めて出演者にするというこの公演、今回は公募した日本人28名による「さいたま芸術劇場バージョン」とのこと。

 とにかくダンス公演の「暗黙の約束事」を次々と破ってゆく作品です。

 例えば、同じ動きをひたすら繰り返すだけの単調なダンスが終わると、出演者たちはどっと疲れた様子を見せ、床に手をついてぜいぜいあえいだり、シャツを引っ張ってぱたぱた風を通したり、舞台袖から水を取ってきて無造作に飲んだり。

 もちろんどれも計算された振付けなのですが、いかにも「バックステージでやっている動作をそのまま舞台でやってしまいました」という感じで、実はこの部分こそが「ダンス作品」というわけです。

 他にも、それまで黙々と仕事をしていた劇場スタッフがいきなり舞台に上がってきて、しかも自分で自分にスポットライトをあてて踊り出したりします。普通、舞台上では「いないことになっている」スタッフが、他の出演者たちを舞台から追い出してしまう。

 舞台から去っていった出演者たちは次の場面で何事もなかったかのように戻ってくるのが普通ですが、これがいつまでたっても戻って来ない。観客は照明に照らされた無人の舞台を延々と観せられるはめに。さらには照明も消して、音楽だけ流して観客に勝手に想像させる。ついには音楽すら消してしまう。

 あからさまに挑発的で、観客は強制的に「そもそもダンスって何?」、「そもそも舞台公演って何?」、「そもそも観客って何?」、「というか俺ここで何してるの?」というようなことをしみじみと考えさせられることになります。怒って席を立ち出て行く、という対応も含めて。

 これだけだと、頭でっかちな学生の実験演劇みたいな退屈なものになってしまうところを、一発ギャグの連続により誰でも楽しめるものにしているのはさすが。

 具体的には、有名なポピュラーミュージックを次々と流し、そのタイトルにちなんだことが舞台で起きるという、まあ脱力系コントです。

 例えば、最初は『トゥナイト』が流れる。舞台は真っ暗。続いて『輝く星座(レット・ザ・サンシャイン・イン)』がかかると照明がつく。そして『カム・トュゲザー』で出演者たちがぞろぞろと出てきて、『レッツ・ダンス』で踊り始める。ひねりなし。そのまんま。

 『見つめていたい』が流れると出演者たちがずらりと並んで観客を見つめるし、『サウンド・オブ・サイレンス』が流れたかと思ったら音が消えてサイレンス。最後は『やさしく歌って』(原題は「やさしく殺して」という意)で出演者が全員倒れて死んでしまい、その後に公演タイトルでもある『ショー・マスト・ゴー・オン』(それでも舞台は続けなければならない)がかかると出演者たちが渋々と起き上がって、はい終わり。

 ベタなネタばかり。しかし最初から最後までこれを続けられると、なんか変に高揚して笑ってしまうんですね。というか笑いでもしないとチケット代が惜しい、という心理に追い込まれる。

 一番おかしかったのは、『タイタニックのテーマ』で舞台がずんずん沈んでゆき、沈みきったところで『イエロー・サブマリン』が流れる、という展開かな。

 他に、出演者全員がそれぞれ別の曲を収録した携帯音楽プレーヤーを持ち、観客から見ると無音の中、ばらばらなタイミングで曲の一部を大声で歌うというシーンもあり。

 それも、私が誰より一番! 我はゆく! 俺の話を聞け! アイワナビー・ア・ポップスター! 生き残りたい! てな具合にわざと自己顕示欲ばりばりの歌詞ばかり選んで歌わせる、というか叫ばせる。馬鹿馬鹿しくて笑えました。あからさまな風刺性については気にしない方向で。

 全体的に、昔ほらよく「脱構築」とかいって作られたポストモダンな実験作が色々とありましたが、あれをポップミュージックと連発ギャグにくるんでソフトにやってみました、という感じでしょうか。「ダンス作品」、「舞台公演」、「観客」、そういったものを問い直す試みなのでしょうが、そんなこと問われても困るなあ、と思いました。

 あと、ジュローム・ベルといえば、「ローザス」のアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルと共演した『3Abschied ドライアップシート(3つの別れ)』をほぼ一年前に観たのですが(2010年11月06日の日記参照)、あそこでも「マーラーの「告別」を演奏しながら演奏家が次々と倒れて死んでゆき、最後は全員が倒れたまま死屍累々」というお馬鹿演出をやっていたことを思い出し、ああ、この人はこの演出が大好きなんだろうな、とも思いました。


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