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『NOVA6  書き下ろし日本SFコレクション』(大森望 責任編集) [読書(SF)]

 全篇書き下ろし新作の日本SFアンソロジー『NOVA』。斉藤直子の落語SFから、北野勇作のとんがりSFを経て、宮部みゆきの中編まで、全10篇を収録した第6巻。文庫版(河出書房新社)出版は2011年11月です。

 さあ、季刊『NOVA』の第6弾です。今巻はほとんどSF色がありません。

 まず『白い恋人たち』(斉藤直子)は、NOVA4に収録され大いに話題になったあの『ドリフター』の姉妹編。風刺SFかと思わせておいて落語に持ってゆく手口が例によって例のごとく。

 『十五年の孤独』(七佳弁京)は、軌道エレベーターを人力で登攀する話。アイデアは魅力的なんですが、ただそれだけで終わってしまった感が強く、もの足りませんでした。

 『硝子の向こうの恋人』(蘇部健一)は、死んだ恋人を救うためタイムトラベルする話。今さらあえてこのプロットで勝負するとは、何か秘策があるに違いない、などと期待しながら読みましたが、特に何も仕掛けはありません。まるで昭和に書かれた短篇が時を超えて現代にやってきたような。はっ、そうか、この作品それ自体がタイムトラベルSFということなのか。

 『超現実な彼女』(松崎有理)は、代書屋ミクラの初仕事の顛末を扱ったラブコメ。理系研究者と花屋の看板娘に振り回される論文代書屋の涙ぐましい奮闘をユーモラスに描いた作品。

 『母のいる島』(高山羽根子)は、離れ小島を舞台に十六人姉妹が戦う、にぎやかで楽しげな話。個人的に、この人の作風はものすごく好み。読んでいると、何だか嬉しい気分になってきます。第一回創元SF短篇賞佳作『うどん キツネつきの』も良かったし、今後に期待したい作家です。

 『リビング・オブ・ザ・デッド』(船戸一人)はたぶん伊藤計劃に、『庭、庭師、徒弟』(樺山三英)はたぶん円城塔に、それぞれ挑戦した作品だと思えるのですが、正直どちらも好みに合いませんでした。

 『とんがりとその周辺』(北野勇作)は、既に滅びてしまったと思しき世界で、既に死んでしまったと思しき人々が、既に意味が失われてしまったと思しきことをしているという、要するに「いい意味でいつもの北野勇作」SFです。
「そのとんがりのなかのとんがりが、他のとんがりを従えるようにして、とんがっている」(文庫版p.315)

 『僕がもう死んでいるってことは内緒だよ』(牧野修)は、何か大きな災害のせいで多くの人々が長期記憶を保持できなくなり、過去もアイデンティティも喪失してしまった世界を描く作品。壊れた世界で壊れた人々がさらに壊れゆく様をこの作者が書くと、やたら生々しくて切ないことに。たぶん、311以降の日本社会を正直に描いた作品。

 『保安官の明日』(宮部みゆき)は、ある「町」で起こった凶悪犯罪に挑む保安官の話ですが、どうもこの町やそこに住む人々はどこか変。しかも、どうやら何度も同じ出来事を繰り返しているらしいことが分かってきます。その真相は。そして保安官の正体は。

 世代宇宙船ではないか、仮想現実ではないか、など読んでいる途中で色々と想像してしまいますが、ポイントは世界の真相というより、その存在目的。さすがベテランだけあって抜群の完成度を誇る中篇です。

 というわけで、新人からベテランまで取り揃えられたバラエティ豊かな書き下ろしアンソロジーですが、残念ながら今巻はこれはと思うような直撃作品がなくてちょっと寂しいかも。

 個人的な好みでは『母のいる島』(高山羽根子)、インパクトでは『僕がもう死んでいるってことは内緒だよ』(牧野修)、短篇小説としての完成度では『保安官の明日』(宮部みゆき)、あたりが印象に残りました。

[収録作]

『白い恋人たち』(斉藤直子)
『十五年の孤独』(七佳弁京)
『硝子の向こうの恋人』(蘇部健一)
『超現実な彼女 代書屋ミクラの初仕事』(松崎有理)
『母のいる島』(高山羽根子)
『リビング・オブ・ザ・デッド』(船戸一人)
『庭、庭師、徒弟』(樺山三英)
『とんがりとその周辺』(北野勇作)
『僕がもう死んでいるってことは内緒だよ』(牧野修)
『保安官の明日』(宮部みゆき)


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