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『一一一一一』(福永信) [読書(小説・詩)]

 『コップとコッペパンとペン』、『アクロバット前夜90°』、『星座から見た地球』といった得体の知れない不可思議な作品で多くの読者を困惑させてきた福永信さんの最新長篇。単行本(河出書房新社)出版は2011年11月です。

 印象的な登場人物が提示され、その人となりやら抱えている事情やら動機が説明され、読者の感情移入を促しつつ、結末に向けてそれなりに論理的にストーリーが展開してゆく、というような常識を、てんで無視した破天荒な小説。というかそもそも福永信さんが書くものを小説に分類してよいのか、まずそこからして悩んでしまいます。

 最新作も、タイトルからして意味不明で困ってしまいますが、何といってもこの奥付が素晴らしい。

 [初出一覧]

  一二  「文藝」平成二二年春号 「一一一一三」を改題
  一二三 「文藝」平成二〇年秋号 「一一一一」を改題、改稿
  一    「文藝」平成二一年春号 「一一一一二」を改題、改稿
  一    同上
  一    同上
  二一  「すばる」平成二二年一月号 「・・・・」を改題

  ニ〇一一年一一月一一日 初版印刷
  ニ〇一一年一一月二一日 初版発行


 もしやこれこそが「作品」で、残りは長い長い前振りなのではあるまいか、そう思わせるだけの迫力。なお、引用にあたっては、原文の「同右」を「同上」と変更させて頂きました。

 さて、その本文ですが、大部分が二人の会話によって構成されています。

 話者の一方は「こういうことなのでしょう」と相手の事情を勝手にでっち上げ、それに対して相手は「ええ」とか「はい」とか「そのとおり」などと、肯定的な、あるいは投げやりな返事をします。

 それを受けて「しかし、実はこういうことになってしまった、そうではありませんか」とさらにいい加減なことを言い出し、それに対して相手は「じつは、そうなのです」とか「そうでしょうね」とか「おそらくは」とか、肯定的な、あるいは投げやりな返事をします。

 とりあえずの設定と、思いつきだけの展開が、誰も止めてくれないのでそのまま走り続け、ぐるぐる、ぐるぐる、回ってゆく作品。ときどき以前の展開に偶然を装ってつなげてみたり、読者が忘れた頃に同じ会話が繰り返されたり、読者も、ぐるぐる、ぐるぐる、目を回すことに。

 これを二〇〇ページ以上続けたものが、すなわち本書です。

 まるで執筆開始前の作家の脳内をそのまま文章化したような作品で、小説というよりメタ小説、というかプレ小説。

 文章自体は非常に読みやすく、どの部分をとってみても局所的にはまるで筋が通っているかのように、いやむしろベタな展開で分かりやすく、円城塔さんの作品が苦手な人でも大丈夫です。たぶん。

 と思ったら、帯に円城塔さんが推薦文を寄せておられました。「悔しい。」と。


タグ:福永信
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