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『猫怪々』(加門七海) [読書(随筆)]

 “視える”体質の怪談作家が病気の仔猫を拾ったところ、たちまち始まる現代の稲生物怪録。部屋には動物霊が集まり、仔猫の身体からは羽虫の群れやら巨大飛蝗やら、ついには女の顔まで湧き出てくる始末。でもそんなところが可愛い。猫馬鹿日記とすさまじき怪異遭遇譚が融合した実話猫怪エッセイ。単行本(集英社)出版は2011年11月です。

 ある雨上がりの夜、病気の仔猫を拾った著者。部屋に上げたところ、断末魔の犬が現れ、お札が勝手に床に落ち、お経を唱えるや仔猫の身体から大量の羽虫がわらわらと湧き出てきては消える。

 でもそんなものは序の口。翌日からはこんな感じの毎日が続く。

「ふと気がつくと、私の手の甲に、真っ黒い毛の塊が載り、もぞもぞ動いている」
(単行本p.77)

「人の形をした化け物がふいに現れた。大きさは猫が立ったくらいだが、魚のように瞼のない目が血走っていて、口が大きく裂けている」
(単行本p.78)

「十二月五日
  左肩にアダプターみたいなものが見える。取る。
  尻尾から黒い糸。取る。
  黒い粉少々。腹に女の顔。全部取る。
  光も見える。うとうとしたら「しっかり」という声が聞こえた。頑張ろう」
(単行本p.122, 123)

「猫の丸まった背骨から、ゆっくりと、何かが立ち上がった。黒く、巨大な、飛蝗に似た化け物だ。本物の虫よりも遥かに禍々しく、グロテスクな形状だった」
(単行本p.129)

 どこの稲生物怪録ですか。

 しかし、猫が怪異を呼ぶは当然。それよりも何よりも、この可愛らしさこそ超常体験。

「ビッグバン以上の愛らしさ」

「毎秒ごとに可愛さが増す」

「可愛らしさの次元が違う。軽く七次元は超えている」

「猫に我が儘を言われることが嬉しい」

「迷惑なほど可愛い」

「居間はキャットタワーと猫用サンルームと、猫ちぐら(藁で編んだ小さな小屋)と、ふたつの猫用クッションが置かれ、私はそれらの邪魔にならない隅っこのほうで暮らしている」
(単行本p.211, 212)

「買った椅子は猫に取られ、仕方なく予備を買い足せば見向きもせず、布団は中央を占領した挙げ句、私が起きた後もぐうぐう寝続け、水は皿では飲むこともなく、にゃんと鳴いて蛇口を開けさせ・・・。(中略)「可愛いからいいや」」
(単行本p.212)

 仔猫をキャリーバッグで運んでいるとき、そっくりの雄猫を見かけた著者。とっさにバッグを差し出して叫ぶ。
「お父さん!? お父さんですよね! あなたの娘ですっ」(単行本p.96)

 猫飼いなら誰でも心当たりがあるような猫馬鹿エピソードの数々と、すさまじい怪異体験が、何の違和感もなく普通に混在しているのが凄い。猫はあやかしだけど、そこが可愛い。ですよね。

 というわけで、猫の話、怪異の話、どちらに興味がある読者も楽しめる猫怪エッセイ。書店で探すときは、「猫エッセイ」のコーナーと「怪談」のコーナー、両方を確認した方がいいでしょう。


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