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『こなもん屋馬子』(田中啓文) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 大阪のどっかにある謎の店。お好み焼、たこ焼き、うどん焼きそば豚まんにピザ、熱々の「こなもん」が奇跡を呼び、客が抱える難問を見事に解決。『UMAハンター馬子』で読者を翻弄した馬子&イルカの師弟コンビが再登場する大阪B級グルメミステリー連作短篇集。単行本(実業之日本社)出版は2011年10月です。

 その店は大阪のどこかにある。メニューは「こなもん」(小麦粉ベースの大衆料理を大阪ではこう呼ぶらしい)全般、なんでもアリマ温泉。「お好み焼き、焼きそば、タコ焼き、明石焼き、イカ焼き、ホルモン焼きうどん、チヂミ、うどん、ラーメン、ソーメン、麸、豚まん、ギョーザ、ピザ、スパゲティ」、「ただしモンジャと広島風お好みは死んでも作らん。死にたかったら注文してみ」(単行本p.12、13)。

 なぜか店ではちょっとした奇跡が起こり、客が抱えていた悩みや問題がたちまち解決。大喜びの客はお礼を言うために再び店に行こうとするが、不思議なことに、二度とその店に辿り着くことは出来ないのでした。

 このパターンを繰り返す連作短篇集です。毎回、どれか一つの「こなもん」がテーマとなる趣向で、お好み焼き、タコ焼き、うどん、焼きそば、ピザ、豚まん、ラーメン、総計七篇の短篇が収録されています。

 『食堂かたつむり』あたりを狙ったと思しき短編集ですが、雰囲気はかなり違います。何しろ店主は「がさつで図々しくて目立ちたがりでいちびりで、電車待ちの順番を守らず、ポーチに氷川きよしの写真入りのブローチを入れ、大量の飴を所持している、あの猛獣」(単行本p.221)と伝えられるコテコテの「大阪のおばはん」、蘇我家馬子。従業員はもちろんイルカ。そう、『UMAハンター馬子』の馬子&イルカの師弟コンビ、まさかの再登場ですから。

 『UMAハンター馬子』との関連性はほとんどないので、前作を読んでなくても問題なし。無茶苦茶な性格してる店主と客との掛け合い、ひたすら苦労する不憫な弟子、しょうもない駄洒落、ちょっとした謎解き、ほろりとくる人情噺。どちらかと云えば、『笑酔亭梅寿謎解噺』の姉妹編といった趣です。

 出てくる料理の描写には力が入っていて、実にうまそう。読んでいて腹が減って、お好み焼きとかタコ焼きとか焼きそばとか、何でもいいからガツンとくるもん喰いたいのう、ソースと青ノリたっぷりかけて、みたいな頽廃的気分に。

 というわけで、『UMAハンター馬子』または『笑酔亭梅寿謎解噺』のいずれかを気に入っている方なら間違いなく楽しめる作品。そうでなくても、大阪のおばはんが不思議な力で町中に愛と笑いをふりまくの、いや笑いはともかく愛はちゃうやろ、という小説を読んでみたい方は、びびらずにどうぞ。

[収録作]

『豚玉のジョー』
『たこ焼きのジュン』
『おうどんのリュウ』
『焼きそばのケン』
『マルゲリータのジンペイ』
『豚まんのコーザブロー』
『ラーメンの喝瑛』


タグ:田中啓文
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