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『Lost & Found』(Shaun Tan、ショーン・タン) [読書(小説・詩)]

 『アライバル』のショーン・タンによるグラフィックノベル短篇集。『The Red Tree』、『The Lost Thing』、『The Rabbits』の短篇三本が一冊に収録されたお値打ち品です。単行本(ハードカバー)出版は2011年3月。

 『The Red Tree』は、憂鬱感や失望感に悩んでいる少女が小さな希望を見つける物語。『The Lost Thing』は浜辺で奇妙な生き物を拾った少年の物語。そして『The Rabbits』は、海の向こうからやってきた白ウサギたちが原住民であるカンガルーたちを蹂躙して大陸を植民地化してしまう物語。

 『アライバル』と違ってカラーですが、その渋い彩色はとても魅力的です。物語は文字(英語)で語られますが、辞書がなくても読める程度の簡単な文章ですし、はっきり言って読まなくても絵をみるだけで話は分かります。そこは気にしないで下さい。

 その絵ですが、著者のページにサンプルが掲載されていますので、まずはご覧ください。

    The Red Tree
    http://www.shauntan.net/books/red-tree.html

    The Lost Thing
    http://www.shauntan.net/books/lost-thing.html

    The Rabbits
    http://www.shauntan.net/books/the-rabbits.html

 何とも奇妙で不思議で魅力的な、生き物や建物や光景。ショーン・タンが生み出す驚異の異世界が次から次へと飛び出してきます。

 この三話が一冊にぎゅっと詰まったのが本書。上の各ページにある絵を見て、気に入った方はそのまま購入して間違いはありません。

    『Lost & Found』(Shaun Tan)
    http://www.amazon.co.jp/dp/0545229243/

 さらに、本書が気に入った方には、『アライバル』も合わせて購入することをお勧めしたいと思います。私はどちらの本も、夢に出てくるほど気に入りました。

    『The Arrival』(Shaun Tan)
    http://www.amazon.co.jp/dp/0439895294/


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『猫とあほんだら』(町田康) [読書(随筆)]

 シリーズ“町田康を読む!”第39回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、名作『猫にかまけて』、『猫のあしあと』に続く猫エッセイ第三弾です。あの奈奈もすでに七歳。町田家の飼い猫たちは近頃どんな様子なのでしょうか。単行本(講談社)出版は2011年5月。

 今回は熱海の新居への引っ越し騒動が中心となります。不動産屋さんに案内されて物件を見て回っている最中にいきなり仔猫を二匹も拾ってしまってさあ大変、というところから始まって、新居における猫間確保までの苦労、脱走騒動の顛末、などが、思わず笑ってしまうユーモラスな文章でつづられています。

 『猫かま』、『猫あし』で情が移ってしまった猫たちの「その後」が気になっているのに、猫の話題は『テースト・オブ・苦虫』シリーズなどのエッセイで断片的に触れられるだけで詳しい事情がよく分からず、ようやく、と思った『膝のうえのともだち』にも猫の近況は書かれておらず、隔靴掻痒のおもいをしていた読者にとっては、まさに待望の続編です。

 前二作は、最初のうち思いっきり笑わせて、途中ものすごい“泣かせ”を繰り出してくる(つまり猫が死んだ事情を詳しく書く)という凶悪な構成で、油断していた私は通勤電車の中でぼろぼろ泣くという醜態をさらしたのですが(二冊とも)、幸いにして、今回は最後まで明るいトーンのままです。猫が死ぬシーンもありますが、そこはさらりと流して、必要以上に読者の涙腺を刺激しないよう配慮してくれているのはありがたいことです。

 というわけで、著者の猫に対する敬意と愛情に心うたれる名エッセイ。前二作の愛読者にはもちろん、『スピンク日記』が気に入った犬好き読者の方々にも、ぜひ読んでほしいと思います。


タグ:町田康
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『アライバル』(ショーン・タン) [読書(小説・詩)]

 故国に家族を残し、鞄一つを手に海を渡った男。彼を待っていたのは驚異の新世界だった。奇妙な動植物、未知の慣習、そして見知らぬ人々との交流。一人の移民が体験した異世界のありようを美しい緻密な鉛筆画で描いた言葉のない絵本。単行本(河出書房新社)出版は2011年3月、私が読んだ原書は2007年10月に出版されています。

 読者は右も左も分からない異国にたどり着き、そこで自分の運命を切り開いてゆく体験を味わうことになります。言葉が通じない、標識も読めない、慣習も法律もよく分からない、建物も食べ物も見知らぬものばかり。心細さと不安、そして希望が交差する異国体験。現地の、あるいは同じように故郷を追われてきた人々との交流を通じて次第に土地になじんでゆく感覚。

 モノクロの鉛筆画で丁寧に描かれた異世界が、驚くべきリアルさを持ってせまってきます。ページをめくる度に現れる、これまで見たことのない想像したこともない奇妙な景観や生物の姿。ときに恐ろしく、ときに滑稽な、様々な風景や事物や人物像が、この本の中にしか存在しないはずの世界に確かな実在感を与えています。

    著者による紹介ページ
    http://www.shauntan.net/books/the-arrival.html

 最近、日本語版が出たのですが、何しろ文字のない絵本(グラフィック・ノベル)なので、原書『The Arrival』(Shaun Tan)を購入しても問題ありませんでした。読める文字で書かれているのは著者による「あとがき」くらいですし。むしろ、表題など外国語で表記されている方が“異国”の雰囲気があってよいかも知れません。

 とにかく素晴らしいの一言。装丁を含めて最高の一冊です。熱烈推薦。

    アマゾンでも購入できます。(原書)
    http://www.amazon.co.jp/dp/0439895294/


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『NOVA4 書き下ろし日本SFコレクション』(大森望 責任編集) [読書(SF)]

 全篇書き下ろし新作の日本SFアンソロジー『NOVA』、虎視眈々の第4弾。京極夏彦の名のもとにジャンル外の読者を誘い込み、北野勇作と斉藤直子がからみつき、山田正紀までまっしぐら。文庫版(河出書房新社)出版は2011年5月。

 「いかりやがうしろにいることを、実は志村は知っている」

 「こんなのざるうどんじゃなあああい」

 というわけで、今回の執筆者は9名。SF書きがSF読みに向けて全力投球してきた観のある前巻に比べると、他ジャンルの読者をSFに引きずり込むのを狙ったような作品が集まっています。

 ホラー、ミステリ、落語、寓話、デニケン、などなど。読んでいて、これ『異形コレクション』の新刊じゃないの、何度もそう思いました。誰もがSFだと認める作品は、おそらく山田正紀さんの『バットランド』くらいでしょうか。

 さて、その『バットランド』ですが、主人公はボケがきた老齢の詐欺師。つまり作者のことですね、などと失礼なことを考えてはいけません。

 その主人公は安っぽいアクション映画もどきの連続活劇に巻き込まれ、どことも知れぬ暗闇を舞うコウモリの鳴き声は二進数でコード化された情報を伝え、640光年の彼方では巨大ブラックホールが急激に蒸発しつつあった。まるで関係なさそうなこれら複数のプロットが量子もつれによってつながる、驚嘆と興奮のハッタリSF。

 往年のSF読者なら、かつて『かまどの火』でボクたちを幻惑した天才詐欺師が、30年の歳月を経て、同じようなネタをひっさげて還ってきた、さあ、また騙されてはしゃごうぜ、と言えばお分かりのことと思います。

 SFに慣れてない読者の方々、次から次へと繰り出される天文学や物理学の専門用語に怯えたり、「理解できない」と投げ出したりしないで下さい。このあたりイメージというか、要するにハッタリなので、雰囲気だけ感じながら読み進めればそれでOK。

 小さなコウモリが巨大ブラックホールに戦いを挑む、なんていう物語をレトリックの力で強引に成立させてしまうことに感動できるなら、あなたもSF読みの素質充分です。

 といいながら個人的に最も気に入ったのは、『社員食堂の恐怖』(北野勇作)。触手ネタと大会社の不条理をからめているうちに気がつけば梅田地下オデッセイ、というか何というか、「戦慄!! 社員を食らう社員食堂  クラゲ怪獣クゲラ登場」というような話です。好み。

 昭和ネタと落語ネタで笑わせる『ドリフター』(斉藤直子)も素晴らしい。でも冒頭一行で笑えない人にはちょっとお勧めしにくいかも。

[収録作]

『最后の祖父』(京極夏彦)
『社員食堂の恐怖』(北野勇作)
『ドリフター』(斉藤直子)
『赤い森』(森田季節)
『マッドサイエンティストへの手紙』(森深紅)
『警視庁吸血犯罪捜査班』(林譲治)
『瑠璃と紅玉の女王』(竹本健治)
『宇宙以前』(最果タヒ)
『バットランド』(山田正紀)


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『ますます酔って記憶をなくします』(石原たきび 編) [読書(教養)]

 mixiコミュによせられた酔っぱらい体験談集その第二弾。夫と娘の前でいきなり服を脱ぎ、全裸で踊ろうとして転倒、肋骨を2本折った女。英国からの極秘指令によりチェコに飛ぶべく泣きながら荷造りを開始した男。なぜ君らは飲むのか、そんなにしてまで。文庫版(新潮社)出版は2011年5月です。

 『酔って記憶をなくします』の続編ですが、いやあ、まったく反省というものが感じられません。心に残った、残ってしまったエピソードを少しばかりご紹介しましょう。

・飲んだ翌朝、バッグを開けたら、生きたサワガニがわさわさと出てきた。(34歳 女)

・マクドナルドで「バブルバーガー、パティを一枚抜いて」とわけの分からない要求(39歳 女)

・「クレオパトラはこうやって酒を飲んだのよ」と言い張り、大切な指輪をシャンパンに入れて飲んだ。翌朝、嘔吐したら出てきた。下からでなくて良かった。(39歳 女)

・口から落として股間付近についた米粒を「とって食え」と男に要求(24歳 女)

・「受け身も知らずにこの現代社会をどうやってサバイブするつもりか!」と一喝、公園のぬかるみで泥だらけになって受け身の猛特訓。続いて「特訓その2 木登り」に進む。(30歳 女)

・送ってくれた友人の車から飛び下り。道路に転倒するもすくと立ち上がり猛ダッシュ。「今から暴れるから来い!」と自分で警察に通報し、かけつけてきた警官に「こっちは命がけで毎日やってるんやぁ!」と叫んで暴れる。(30歳 女)

・失恋してやけ酒を飲んだ挙げ句、タクシーを降りてその前に仁王立ち。運転手に「私を轢いてください!」と叫ぶ。(22歳 女)

・ニワトリに挨拶したのに無視されたのが悲しくて、そのまま小学校に侵入し服を着たままプールに飛び込む。超気持ちよかった! (25歳 女)

 何だか「女」の体験談ばかり選んでしまいましたが、どういうわけか女性の所業の方が心に響くのですね。編者も「まえがき」でこう書いています。

 「前編も同様なんですが、通読すると男性より女性のほうが、“クリエイティブな失敗”をする傾向にあることがわかります。(中略)男性陣のさらなる奮起(?)を期待したいところですね」(文庫版p.3)

 やはり女性の方が色々と屈折し深く深くたまっているものがあるのかも知れません。でも男性諸君は張り合おうとしない方がいいと思う。

 巻末には、恩田陸さんと茂木健一郎さんの対談も収録されています。前作に引き続きの登場で“名誉あとがき対談者”認定された恩田陸さん、遅刻してきて最初の発言がこう。

 「すみませんすみません。お待たせしました! ちょっと二日酔いで・・・。(中略)朝方まで飲んでて最後の記憶がなくて」(文庫版p.235)

 というわけで、他人事として笑ってすませる酔っぱらい武勇伝。前作が気に入った方は買いです。あと恩田陸さんのファンも要チェック。


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