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『猫とあほんだら』(町田康) [読書(随筆)]

 シリーズ“町田康を読む!”第39回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、名作『猫にかまけて』、『猫のあしあと』に続く猫エッセイ第三弾です。あの奈奈もすでに七歳。町田家の飼い猫たちは近頃どんな様子なのでしょうか。単行本(講談社)出版は2011年5月。

 今回は熱海の新居への引っ越し騒動が中心となります。不動産屋さんに案内されて物件を見て回っている最中にいきなり仔猫を二匹も拾ってしまってさあ大変、というところから始まって、新居における猫間確保までの苦労、脱走騒動の顛末、などが、思わず笑ってしまうユーモラスな文章でつづられています。

 『猫かま』、『猫あし』で情が移ってしまった猫たちの「その後」が気になっているのに、猫の話題は『テースト・オブ・苦虫』シリーズなどのエッセイで断片的に触れられるだけで詳しい事情がよく分からず、ようやく、と思った『膝のうえのともだち』にも猫の近況は書かれておらず、隔靴掻痒のおもいをしていた読者にとっては、まさに待望の続編です。

 前二作は、最初のうち思いっきり笑わせて、途中ものすごい“泣かせ”を繰り出してくる(つまり猫が死んだ事情を詳しく書く)という凶悪な構成で、油断していた私は通勤電車の中でぼろぼろ泣くという醜態をさらしたのですが(二冊とも)、幸いにして、今回は最後まで明るいトーンのままです。猫が死ぬシーンもありますが、そこはさらりと流して、必要以上に読者の涙腺を刺激しないよう配慮してくれているのはありがたいことです。

 というわけで、著者の猫に対する敬意と愛情に心うたれる名エッセイ。前二作の愛読者にはもちろん、『スピンク日記』が気に入った犬好き読者の方々にも、ぜひ読んでほしいと思います。


タグ:町田康
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