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『ダイナミックフィギュア(上)(下)』(三島浩司) [読書(SF)]

 四国に落下した異星構造体が作り出した接近不能なフィールド。突如そこから現れる怪生物の群れ。短期間で「進化」を続ける彼らの本州上陸を阻止すべく、日本は二足歩行ヒト型巨大ロボット兵器「ダイナミックフィギュア」を開発。周辺諸国の懸念をよそに、ついに実戦投入に踏み切った・・・。定番ストーリーを徹底的に練り直し、巨大戦闘ロボットSFの新たな基準を打ち立てる渾身の力作。単行本(早川書房)出版は2011年2月。

 王道、という言葉が似合う堂々たる巨大戦闘ロボットSFです。何といっても、王道であることに甘えることなく、考え抜かれた設定を執拗に積み重ねて、巨大戦闘ロボットという「大嘘」にリアリティと説得力を持たせることに成功しているのがすごい。

 どうして三体しか作れないのか。なぜパイロットが直接搭乗するのか。しかも危険な頭部に操縦席があるのはどうしてか。なぜ戦況が悪化するまで出動しないのか。なぜ定期的に来襲する敵と戦って撃退するばかりで、敵本拠地に向けての反撃を避けるのか。というより、そもそも攻撃機やミサイルや戦車ではなぜ駄目なのか。

 周到に組み立てられた設定と世界観が、これら長年の疑問に一つ一つ合理的な回答を与えてゆきます。そこから立ち上がってくる驚くべきリアルな存在感。執念の力作というべきでしょう。

 前半の戦闘シーンは非常に現実的。陸軍との共同作戦の展開も緻密に書かれていて興奮させられます。転倒すると内燃機関が緊急停止して一定時間動けなくなる、敵に背後から殴られたらパイロットが病院送りに、戦場まで輸送するのに陸路が使えず海を自力で泳ぐはめに、といった具合に、あくまでリアルさにこだわります。

 ストーリーはやや冗長ですし(例えば、政治的なごたごたはもっと短くてもよかったのではないでしょうか)、後半の展開である渡来体(異星人)とのコンタクトにはかなり無理を感じるのですが、何しろ読んでいる間は「自分をあえて騙さなくても、巨大戦闘ロボットの実在を素直に信じていられる時間」という貴重なものが手に入るので、細かいあらはそんなに気になりません。

 というわけで、巨大戦闘ロボット、特にリアルロボットが好きな方に強くお勧めいたします。

 そんな辛気臭いリアルロボット小説は嫌だなあ、と思う方もご安心あれ。大きな声では申せませんが、終盤にいたるや、あらゆる攻撃を防ぐ無敵バリアを身にまとい、マッハで空を飛び、飛来する核ミサイルも一撃粉砕、ついには宇宙に飛び出してラスボスとの肉弾戦に突入、最終兵器は「熱血魂」だ! というような次第になりますので、スーパーロボット派のアナタもぜひお読みください。


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