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『スウィートな群青の夢』(田中庸介) [読書(小説・詩)]

 田中庸介さんの第二詩集です。単行本(未知谷)出版は2008年11月。

 「日本はアジアの東のはずれだから/大変よいスープ麺を食べることができる/その紹介から始めよう」(『冷房病のひとに』より)

 冒頭から「ラーメンのうまさ」を紹介する詩です。続いて、白玉タピオカぜんざい、すいか、梅昆布飴、ぶっかけうどん、うな丼をうたった詩が登場。なかでも、すいか、うどん、素敵。

 その間に、部屋が散らかってて手がつけられない様をよんだ詩、初夏の夜に自転車をとばしたらすげえ気持ちよかったという詩、アニメキャラのコスプレについての詩、などが挟み込まれます。ここまでが前半。

 読んでもいないのに頭にこびりついていた「現代詩、難解だから」という先入観をあっさり洗い流してくれる作品ばかりです。ちっとも難解じゃない。むしろうまそう。

 後半は少し難しい作品も混じってきますが、ちゃんと「夏野菜のカレー」のうまさをうたった詩、レモンやみかんのうまさをうたった詩も出てきて一安心。自身の離婚をうたった詩には、しっかり「ヒグチさん、イトーさん、ヒラタさん」といった先輩詩人の方々が登場し、「みんなうれしそう」にしてたり。

 すごいのは『数字短歌自歌七番』という作品。数字短歌というのは、一例を挙げると「11112 3313233 22223 2233133 2331222」といった具合に数字だけで構成された短歌のこと。このような作品による歌合(競技)という趣向なのですが。

 判者これを評していわく「岩間にこだまする朝の風音のような1112の幽玄からいきなり盛り上がる3313233の高みへ。そして高原を吹きぬける風のごとき2の多用」。

 こういう数字短歌どうしの七番勝負と選評を完全収録。

 詩歌の評論から感じられるある種の滑稽さというか馬鹿馬鹿しさを表現しようとしているのでしょうが、しかし大真面目に「3313233にただ一つ使われている2が、第二番左歌や第三番右歌とはまた趣を異にして心に触れる」などと言われると、確かにそんな気がしてくる不思議。罠。

 というわけで、ページをめくればいつでも夏の午後のすっぽ抜けた困惑感が味わえる気持ちよい一冊です。読みやすく、何が書かれているのかもよく分かるし、とてもうまそう。私と同じく「現代詩」なるものに苦手意識を持っている方に特にお勧めします。


タグ:田中庸介
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