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『アライバル』(ショーン・タン) [読書(小説・詩)]

 故国に家族を残し、鞄一つを手に海を渡った男。彼を待っていたのは驚異の新世界だった。奇妙な動植物、未知の慣習、そして見知らぬ人々との交流。一人の移民が体験した異世界のありようを美しい緻密な鉛筆画で描いた言葉のない絵本。単行本(河出書房新社)出版は2011年3月、私が読んだ原書は2007年10月に出版されています。

 読者は右も左も分からない異国にたどり着き、そこで自分の運命を切り開いてゆく体験を味わうことになります。言葉が通じない、標識も読めない、慣習も法律もよく分からない、建物も食べ物も見知らぬものばかり。心細さと不安、そして希望が交差する異国体験。現地の、あるいは同じように故郷を追われてきた人々との交流を通じて次第に土地になじんでゆく感覚。

 モノクロの鉛筆画で丁寧に描かれた異世界が、驚くべきリアルさを持ってせまってきます。ページをめくる度に現れる、これまで見たことのない想像したこともない奇妙な景観や生物の姿。ときに恐ろしく、ときに滑稽な、様々な風景や事物や人物像が、この本の中にしか存在しないはずの世界に確かな実在感を与えています。

    著者による紹介ページ
    http://www.shauntan.net/books/the-arrival.html

 最近、日本語版が出たのですが、何しろ文字のない絵本(グラフィック・ノベル)なので、原書『The Arrival』(Shaun Tan)を購入しても問題ありませんでした。読める文字で書かれているのは著者による「あとがき」くらいですし。むしろ、表題など外国語で表記されている方が“異国”の雰囲気があってよいかも知れません。

 とにかく素晴らしいの一言。装丁を含めて最高の一冊です。熱烈推薦。

    アマゾンでも購入できます。(原書)
    http://www.amazon.co.jp/dp/0439895294/


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