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『NOVA4 書き下ろし日本SFコレクション』(大森望 責任編集) [読書(SF)]

 全篇書き下ろし新作の日本SFアンソロジー『NOVA』、虎視眈々の第4弾。京極夏彦の名のもとにジャンル外の読者を誘い込み、北野勇作と斉藤直子がからみつき、山田正紀までまっしぐら。文庫版(河出書房新社)出版は2011年5月。

 「いかりやがうしろにいることを、実は志村は知っている」

 「こんなのざるうどんじゃなあああい」

 というわけで、今回の執筆者は9名。SF書きがSF読みに向けて全力投球してきた観のある前巻に比べると、他ジャンルの読者をSFに引きずり込むのを狙ったような作品が集まっています。

 ホラー、ミステリ、落語、寓話、デニケン、などなど。読んでいて、これ『異形コレクション』の新刊じゃないの、何度もそう思いました。誰もがSFだと認める作品は、おそらく山田正紀さんの『バットランド』くらいでしょうか。

 さて、その『バットランド』ですが、主人公はボケがきた老齢の詐欺師。つまり作者のことですね、などと失礼なことを考えてはいけません。

 その主人公は安っぽいアクション映画もどきの連続活劇に巻き込まれ、どことも知れぬ暗闇を舞うコウモリの鳴き声は二進数でコード化された情報を伝え、640光年の彼方では巨大ブラックホールが急激に蒸発しつつあった。まるで関係なさそうなこれら複数のプロットが量子もつれによってつながる、驚嘆と興奮のハッタリSF。

 往年のSF読者なら、かつて『かまどの火』でボクたちを幻惑した天才詐欺師が、30年の歳月を経て、同じようなネタをひっさげて還ってきた、さあ、また騙されてはしゃごうぜ、と言えばお分かりのことと思います。

 SFに慣れてない読者の方々、次から次へと繰り出される天文学や物理学の専門用語に怯えたり、「理解できない」と投げ出したりしないで下さい。このあたりイメージというか、要するにハッタリなので、雰囲気だけ感じながら読み進めればそれでOK。

 小さなコウモリが巨大ブラックホールに戦いを挑む、なんていう物語をレトリックの力で強引に成立させてしまうことに感動できるなら、あなたもSF読みの素質充分です。

 といいながら個人的に最も気に入ったのは、『社員食堂の恐怖』(北野勇作)。触手ネタと大会社の不条理をからめているうちに気がつけば梅田地下オデッセイ、というか何というか、「戦慄!! 社員を食らう社員食堂  クラゲ怪獣クゲラ登場」というような話です。好み。

 昭和ネタと落語ネタで笑わせる『ドリフター』(斉藤直子)も素晴らしい。でも冒頭一行で笑えない人にはちょっとお勧めしにくいかも。

[収録作]

『最后の祖父』(京極夏彦)
『社員食堂の恐怖』(北野勇作)
『ドリフター』(斉藤直子)
『赤い森』(森田季節)
『マッドサイエンティストへの手紙』(森深紅)
『警視庁吸血犯罪捜査班』(林譲治)
『瑠璃と紅玉の女王』(竹本健治)
『宇宙以前』(最果タヒ)
『バットランド』(山田正紀)


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