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『戦争論理学  あの原爆投下を考える62問』(三浦俊彦) [読書(教養)]

 米国による広島・長崎への原爆投下は、極悪非道な大量虐殺だったのか、それとも悲劇を未然に防いだ正しい作戦だったのか。今なお(特に日米間で)極端に見解が分かれる問題をあえてテーマに取り上げた、刺激的な論理学実践演習書。単行本(二見書房)出版は2008年9月です。

 パラドクスシリーズの新作『論理パラドクシカ  思考のワナに挑む93問』が面白かったので、同じ著者による実践演習書も読んでみました。

 「第二次世界大戦について、事実と論理のみに従って議論してゆくとどのような結論が支持されそうかというシミュレーション。それが本書の試みたことである」(単行本p.266)

 「論理思考(クリティカルシンキング)演習としては、強烈な情緒的(非論理的)反応を誘発するテーマをあえて用いるほど有効なやり方はないだろう」(単行本p.266)

 「本書は、前3冊とは異なり、純然たる論理演習書ではない。混沌とどこまでも拡がった「歴史」の諸データを関連づけながら、最も合理的で整合的と思われる主張をまとめる実践的訓練である」(単行本p.5)

 ちなみに「前3冊」というのは、『論理パラドクス』、『論理サバイバル』、『心理パラドクス』という、いわゆるパラドクス三部作を指しています。詳しくは昨日(2011年3月14日)の日記参照のこと。

 さて、本書はパラドクス三部作と同じ形式で書かれています。

 まず否定派(原爆投下は悪であった、あるいは回避できたはずだと主張する立場)からの「設問」が述べられます。それに対して読者は肯定派(原爆投下は正しかった、あるいはやむを得なかったと主張する立場)からの反論を求められます。

 その後に著者による模範回答が「答え」として述べられ、それが次の「設問」につながる。この繰り返しで議論は進行してゆきます。例えば最初はこんな感じで始まります。

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 (1ページに渡る主張を提示した後で)「この否定派の原爆批判に対して、肯定派はどう応じることができるだろうか。二種類の反論を考えてください」(設問01より)

 「この定言三段論法を使った議論に対抗するには、三つの方法がある。(中略)二つの前提のいずれかを反駁するのが肯定派のとる戦術となる」(回答01より)

 「前問で見た肯定派の二つの反論に対して、否定派としては、どう応じればよいだろうか。それぞれに対して、二つのやり方を考えてください」(設問02より)
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 副題にあるように、本書は上のような62問の設問と回答から構成されており、260ページに渡ってひたすら「原爆投下をどのように評価するか」という話題に絞った議論が続きます。

 論理学の本なので、議論は徹底的にロジカルに進められ、読者はそれについてゆかなければなりません。論理思考能力もそうですが、まずは思考の持続力というか集中力というか、知的体力が必要となります。

 各設問には、「意図主義」、「ポストホックの誤謬」、「係留ヒューリスティクス」、「わら人形論法」などといった論理学や哲学などの用語が散りばめられ、これらの概念と、実際の議論における使用法を、具体的に学べるようになっています。読み終える頃には、議論で用いられる論法や、思考における認知バイアス、そしてトリックや詭弁の類についても、多くを知ることになるでしょう。

 ちなみに、「原爆投下の歴史的評価」という問題そのものに興味がある方にとっても非常に有益な一冊だと思います。結論ありきの主張本と違って、考えうる限りの論点が挙げられ肯定否定双方の立場から徹底的に議論されますので、この問題について自分で考えるためのよい足掛かりになるはずです。

 というわけで、まずはパラドクス三部作の愛読者にお勧めしたいと思います。ロジカルシンキングや詭弁について学びたい方は、まずはパラドクス三部作を手にとって、気に入ったら実践演習ということで本書に進む、というのがよろしいかと。


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