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『機龍警察』(月村了衛) [読書(SF)]

 『SFが読みたい!2011年版』において、ベストSF2010国内篇第13位に選ばれた警察ハードボイルド戦闘メカSF。文庫版(早川書房)出版は2010年3月です。

 凶悪化の一途をたどる機甲兵装(軍用パワードスーツ)犯罪に対抗するために特設された、刑事部・公安部などいずれの部局にも属さない専従捜査員と突入要員を擁する警視庁特捜部SIPD(ポリス・ドラグーン)。通称『機龍警察』。

 龍機兵(ドラグーン)と呼ばれる三体の次世代機を駆使するSIPDは、元テロリストやプロの傭兵など警察組織と馴染まないメンバーをも積極的に雇用し、もはや軍事作戦やテロと区別のなくなった凶悪犯罪に立ち向かう。だがそれゆえに警察特殊捜査班や特殊急襲部隊SATとは極端に折り合いが悪く、むしろ目の敵とされていた。

 そんなとき、機甲兵装による地下鉄駅立てこもり事件が発生。一見して偶発的と思われたその事件の背後には、巨大な謀略が渦巻いていた。壊滅的ダメージを受けたSAT、孤立し追い詰められるSIPD。敵の狙いは何か。拉致されたパイロットの安否は。待機するドラグーンのシェル内に指示が響き渡る。<突入!>

 なんだかアニメ調だなあと思ったら、作者は『NOIR』(ノワール)などで注目された人気アニメ脚本家。これが小説デビュー作とのこと。なるほど。

 警察+人型機動兵器と言えば『パトレイバー』が連想されますが、本作はパトレイバーに敬意を払いつつも、ずっとハードボイルドな雰囲気になっています。むしろ、警察小説+傭兵部隊もの、という印象。機甲兵装やそれを使った犯罪が普通に存在することを別にすれば、背景世界は現代の日本そのもの。SFらしさは割と薄めです。

 警察内の軋轢や反目に苦しむ捜査員たちの地味な捜査活動、いかにもアニメの登場人物っぽいドラグーンパイロットたち(昔の戦友と「宿命の対決」をしたり、過去を引きずって苦しんでいたり、虚無的なクールビューティだったり、いずれもいかにもそれらしい設定)のドラマ、そして機甲兵装の派手な戦闘(“ドラグ・オン!”と叫んで最高機密の特殊戦闘モードにチェンジしたり、東京のど真ん中で地対地ミサイルを連射したり)が、何の違和感もなく溶け合って、一つの緊迫した物語を構成しているのには感心させられます。

 だいたい二時間の劇場版アニメ長篇映画(最初の30分と最後の30分に戦闘活劇シーン、その間の60分が警察ドラマパート)の構成だと思って間違いありません。

 というわけで、地味で渋いハードボイルド警察小説と派手で豪快なロボットアニメを融合させた贅沢な娯楽作品です。どちらのジャンルも苦手、という方を別にすれば、誰でも楽しめること間違いなし。あと、戦闘ロボットものは好きだけど、いわゆるラノベ感覚はちょっと苦手、できれば重厚でハードボイルドな雰囲気の小説を読みたいんですけど、という方にはまさにお勧め。

 なお、ストーリーは完結しておらず、いくつかの謎(敵の正体と目的など)は先送りになりますが、これも「お作法」といってよいでしょう。実際に続編が書かれることを期待したいと思います。


タグ:月村了衛
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