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『ロズウェルにUFOが墜落した』(ドナルド・シュミット、トマス・キャリー) [読書(オカルト)]

 1947年7月、米国ニューメキシコ州ロズウェルに空飛ぶ円盤が墜落。残骸と搭乗員の遺体が軍により密かに回収された・・・。もはや語り尽くされ、論じ尽くされた観のある「ロズウェル事件」。多くの人々が泥沼化したこの事件から手を引くなか、断固として諦めず、ひたすら真相究明の努力を粘り強く続けている研究家がいる。本書の著者たちである。

 彼らが二十年にわたって集めてきた目撃証言の数々を整理し、理論や仮説ではなく、「目撃者たちは実際に何を語ったのか」を、ただそれだけを提示することで事件の全貌を明らかにしようとする、気迫あふれるレポート。単行本(学研)出版は2010年10月です。

 私も参加させて頂いている超常同人誌『Spファイル』の編集長でもある秋月さん(ペンパル募集さん)が「迫力に満ちた骨太な肯定論が、まだまだ生き続けていたことを実感できた」、「本書を読む時間はとても有意義であると断言する」などと熱く語っていたので、急いで購入しました。というわけで、内容については秋月さんの紹介をお読みください。

    「#ufobooks 『ロズウェルにUFOが墜落した』
    ドナルド・シュミット,トマス・キャリー」(UFOLORE.ORG)
    http://ufolore.org/hangar/390

 まず最初に、本書は徹底した肯定派によって書かれています。むろんロズウェルに空飛ぶ円盤が墜落したことは疑う余地のない事実であり、目撃証言をつなぎ合わせることで真相を明らかにする、というのがその概要です。

 従って、本書を読むときは、懐疑主義的な立場をいったん離れ、関係者は何を証言しているのか、という「事実」に集中する(内容が真実であるか否かは問わず)という姿勢が大切です。そうしてはじめて、本書がはらむ熱気と迫力を存分に堪能することが出来ることでしょう。

 さて、全体は六部構成になっています。

 第一部「物証」では、事件の調査がどのような状況にあるかを概説し、目撃証言の重みが強調されます。

 第二部「発見」では、事件の発端となった残骸の発見から、事件が報告されるまでの数日間に現場に見物にいった大勢の地元住民、軍による公式発表、その撤回まで、一連の動きに関わった人々の証言が並びます。

 第三部「回収」では、残骸と遺体の回収作戦に従事した軍人、格納庫に運びこまれた遺体を目撃してしまった政治家、軍の空港まで回収物を運搬したトレーラーの運転手など、それぞれの立場からの証言が明らかにされます。

 第四部「遺体」では、現地の病院における驚くべき目撃証言、墜落現場での遺体回収からB-29への運び込みとフォートワースへの空輸作戦に従事した軍人たち、さらには葬儀屋や医者など現場にいた民間人による証言が集められています。

 第五部「沈黙」では、軍による情報統制、関係者に対する箝口令や口封じの実態についての生々しい証言が提示され、第六部「告白」ではその沈黙を破り、あるいは臨終を前にしてはじめて告白した証人たちが何を語ったのかが示されます。そして最後の証言として、封印宣誓供述書の全文がそのまま掲載され、その衝撃とともに本書は幕を閉じます。

 通読してまず感じるのは、その異様なまでの高揚感。ロズウェル事件における主な目撃証言について情報としては知っているつもりでしたが、総計600人以上にのぼる証人たちが実際に語った内容を読むと、その臨場感に圧倒されそう。

 著者が勝手な想像でつけ加えたり捏造したりした情報はなく、全てが実際の証言に基づいて構成されている、ということを強調するため、ほぼ段落ごとに「×年×月×日の誰それへの直接インタビューより」といった具合に出典を明記した註釈が付いていて、これがまた説得力を高めています。

 そして個々の証言をつなぎ合わせることで事件の全体像が浮かび上がってくるところが、もう大興奮。個人的に気に入ったのは、トレーラーやB- 29による運搬作戦の詳細。たいていの本では、回収された残骸と遺体は軍用機でどこそこに運ばれた、くらいにしか書かれてないのですが、実際に空輸作戦に従事した人々が語る具体的な手順や様子はまるで映画のように面白く、一気に引き込まれます。

 「どの目撃者も事件の全容を知っているわけではなく、ただ自分が見た、自分がかかわったことを証言しているにすぎないが、私たちはそれらをジグソーパズルのようにつなぎあわせて大きな絵にし、何十年も前に起きた事件の真相を描き出してきた」(単行本p.42)

 空飛ぶ円盤の墜落、残骸と遺体の回収、軍による隠蔽工作。はっきり言って、あまりに繰り返し語られ分析され批判されたせいで、もはや真面目に扱うのが難しくなった陳腐なストーリーが、多くの人々の生々しい言葉と、著者の不屈の熱意によって新たな命を吹き込まれ、子供の頃にはじめて知ったときの興奮が胸の底からぐりぐり突き上げてきます。感動します。

 さらに本書全体を覆っている緊迫感、切迫感、そして使命感がまた印象的です。

 「キャリーは十七年、シュミットは二十年にわたって調査を続けてきたのだ(中略)現在もなおロズウェル事件を活発に調査しているのは、私たちくらいになってしまった。(中略)UFO墜落の物的証拠、いわばロズウェル事件の“聖杯”を探す私たちの旅はいまも続いているのである」(単行本p.25、 p.34)

 「現実問題として、私たち研究家は死と競争しているようなところがあり、調査活動は限界に近づきつつある。(中略)私たちがロズウェルを究極のコールドケースと呼ばざるをえないのは、物的証拠が決定的に不足していること、証拠資料が破棄されたこと、そして何より、六十年という歳月からくる目撃者の減少が原因である」(単行本p.38、p.39)

 「こういう状況でもなお、ロズウェル事件は解決されるべきミステリーとして、二十世紀からいまへと引き継がれている」(単行本p.39)

 もはや常軌を逸しているというか、不可解なほどの情熱。でも、今どき陰謀論にも内ゲバにもハマらず、壮大な仮説やスピリチュアル妄想を掲げたりもせず、ひたすら目撃証言を集めて記録するという地味な仕事を何年も何年も続けるなんて、宗教的なまでの情熱や使命感がないと無理なのかも知れません。

 これだけの証言をもってしても、何しろ物証がない以上、ロズウェルに空飛ぶ円盤が墜落した、という主張を受け入れることは困難です。本書に対する懐疑主義的立場からの批判は簡単でしょう。しかし、本書の読了後、それもこれも全部ひっくるめた上で、証言者、研究家、そしてこの事件そのものに対する、何というか、敬意が生まれたのは確かです。

 やはりロズウェル事件はキング・オブ・UFO事件であり、私たちは長く語り継がれるであろう「伝説」の成立過程を自分の人生に重ねてリアルタイムに見守ることができるという歴史的な幸運に恵まれた世代なのだ、という感慨に、身体が震えるような気持ちです。

 少しでもUFOに興味がある方、子供の頃のあのドキドキ感を懐かしむ方は、まずは本件に関する知識や先入観をいったん捨てて、頭をリセットしてから、著者の情熱と切迫感を共有しつつ読み進めることをお勧めします。そして、かつて「空飛ぶ円盤」や「UFO」という言葉がまとっていた興奮と不安と熱気が、奇跡のように蘇ってくる数時間を、どうか心ゆくまで楽しんで下さい。


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