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『論理パラドクシカ  思考のワナに挑む93問』(三浦俊彦) [読書(サイエンス)]

 深刻な自己矛盾を引き起こす命題、直観に反していながら論理的に正しい推論など、「パラドクス」と呼ばれる興味深い問題について、パズルを通じて学ぶ論理学入門書。シリーズ第四弾です。出版(二見書房)は2011年3月。

 著者のパラドクスシリーズ(本書出版までは「パラドクス三部作」と呼ばれていた)の最新作になります。これまでに出版されたシリーズは次の通り。

    『論理パラドクス  論証力を磨く99問』二見書房、2002
    『論理サバイバル 議論力を鍛える108問』二見書房、2003
    『心理パラドクス  錯覚から論理を学ぶ101問』二見書房、2004

 「嘘つきのパラドクス」や「アキレスと亀」のような古典的なものから、確率・集合に関する難問、心理・社会学におけるジレンマ、多世界やタイムパラドクスのようなSF的思弁に至るまで、様々な分野に登場するパラドクスについて知ることが出来る名著です。いずれも理屈抜きに面白い、というか、理屈過多で面白い。

 さて、本書ですが。

 「パラドクスたるもの蠢動範囲が広く、どんな仕事をしていても行く先々、新種珍種に遭遇します。ついに今、黙視できなくなって、パラドクス・コレクションを累計401題に伸ばすこととなったわけです」(単行本p.3)

とのことで、これまで漏れていた面白い話題、これまで提示した問題をさらに発展させた話題など、シリーズのテイストを継承しつつ、新しい試みを盛り込んだ一冊となっています。

 新しい試みとしては、量子論におけるパラドクスなど物理学の話題も大きく取り上げていること、ジェンダー問題や歴史問題など社会学や倫理学の話題、さらにはホメオパシーや心霊映像などオカルトネタにまで踏み込んでいることでしょう。

 本書において個人的に興味を持った問題は次のようなものです。

・量子論における多世界解釈が正しいとしたら、主観的不死(量子不死)は保証されるだろうか。保証されない理論的理由を2つ、実証的理由を1つ、示しなさい。

・量子論における多世界解釈の正しさを検証する思考実験として「量子自殺」がある。だが、これを繰り返しても多世界解釈の正しさは主観的にしか証明できない。他人に対して証明するにはどうすればいいだろうか。

・数ある数学的パラドクスの中でも最大級の反直観的驚きをもたらすものとして有名な「バナッハ・タルスキーのパラドクス」(一つの球を5個以上の有限個の断片に分割してから、それらを組み合わせることで、元の球と同じものを2つ作ることが出来る。これは数学的に証明済)は、実のところ、どこがそんなに「驚き」なのだろうか。このパラドクスを「脱不思議化」するにはどうすればよいか。

・数学的に「0の0乗」はいくつだろうか。数学の本には次の4つの説が登場する。
 「1」、「0」、「定義不能」、「不定」
 論理学の観点から、どれが最も適切な答であるか示せ。

・「スミス氏には二人の子供がいる。少なくとも一人は男である。二人とも男である確率はいくつか」(マーティン・ガードナーの問題)は有名であり、直観に反して答が1/3であることはよく知られている。この問題文の「一人は男である」という部分を「一人は火曜日に生まれた男である」と修正したらどうなるか。新しい問題の答は、何と13/27となり、最初の問題とは異なってくる。その理由を説明せよ。

・この世界はすべて5分前に創られた(オムファロス仮説、世界5分前誕生仮説)という説と、世界は137億年前のビッグバンのときには存在していた、という説を比べて、後者の方が「論理的に」有力であることを説明しなさい。

・科学的根拠がない(どころか否定的検証結果が出ている)ホメオパシー療法が、登場した200年前に速やかに普及したことと、現代でも廃れないことには、それぞれ別々のメカニズムが働いている。その違いを示しなさい。

・心霊フェイクドキュメンタリーにおいて、鑑賞者に「本物の心霊映像」と信じさせるうえで最も効果を上げている手法は何か。

 きりがないのでこの辺にしておきましょう。こういった話題については、読んだだけで興奮して考え込む読者と、何が面白いのかさっぱり分からない読者に、きれいに分かれそうな気がします。もちろん本書は前者のような方々にしかお勧めできません。

 というわけで、これまでのシリーズ読者は迷わず新たな93問に頭を悩ませるとよいでしょう。まだシリーズを読んだことがなく、興味が湧いた方は、まずは既刊本を出版順に読んでゆくことをお勧めします。


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