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『サウス オブ ヘブン』(奥秀太郎、黒田育世) [舞台(コンテンポラリーダンス)]

 コンテンポラリーダンスカンパニー「BATIK」を率いる黒田育世さんが演劇作品に出演するというので、昨日(2011年2月27日)は夫婦で渋谷パルコ劇場に行ってきました。

 ネットで公開されている配役表に「振付」とあったのでもしやと思っていたのですが、ラスト数分間、黒田育世さんが踊ってくれました。嬉しい。

 で、この最後のダンスシーンのことだけ書きますけど。

 すっかり静まり返った舞台上で、それまで止まっていた黒田さんがゆるやかに、何とも言えぬ迫力に満ちたダンスを始めます。前に後ろに宙をかく手の動き、蝶の羽ばたきのような指先のひらめき、流れるような姿勢の変化、いきなり時間は止まり、こちらも息をのみます。

 枕を引き裂いて中の羽根を雪のように振りかけながらゆっくり舞台を一周する、といったベタな演出も、黒田さんがやるとこれがもう、ぐっ、ときて。それまで過剰に使われていた背景映像も消し、静かな音楽と照明だけを残して、最後の数分間、舞台の全てを黒田さんのダンスに託したのは大正解でしょう。

 というわけで、演劇作品としては正直いかがなものかと思いましたが、黒田育世ソロダンス公演(90分におよぶ長い前振りつき)として感銘を受けました。

『サウス オブ ヘブン』

脚本・演出・映像: 奥秀太郎
主演・振付: 黒田育世(BATIK)
出演: 長谷川寧(冨士山アネット)、畠山勇樹、鈴木雄大、岡本孝、あらいまい、内田悠一、幸田尚恵、森一生、倉持哲郎、續木淳平、大島朋恵、宗田唱、二階堂瞳子、古木将也、武並律夢、早崎瑛子


タグ:黒田育世
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『酔って記憶をなくします』(石原たきび 編) [読書(教養)]

 渋谷で朝まで飲んでいて、ふと気がつくとそこは成田空港ターミナル駅改札。いったいどこに逃げようとしたのか。mixiのコミュニティ「酔って記憶をなくします」に投稿された酒にまつわる爆笑ものの失敗談の数々をまとめた一冊です。文庫版(新潮社)の出版は2010年10月です。

 酒を痛飲して記憶がとんでしまい、一緒に飲んでいた友人から聞いたところでは、みたいな武勇談を集めた本です。こんな感じです。


[男性の体験談例]

・なぜか雪山でバック転の練習

・旧新宿コマ劇場のあたりで、「お、俺は北斗神拳伝承者だーー!!」と絶叫。

・徒歩で帰宅中、友人に電話して「ここ時速30km制限の道なんだけど、俺、走っても30km出ないよ~」と泣きながら相談。

・後輩に、ニワトリのゴム製マスクを買わせ、それをかぶって歩道橋で高らかに鳴いてそのまま歩道橋の階段から舞い落ち、だらだら出血しながら走り回って、道路で倒れ息絶えた、かと思ったらまた起き上がって「コケコッコー!!」と叫んだとのこと。

・酔いをさまそうと海にゆき、キラキラ光る砂浜を見て喜びのあまりそちらに向かって走り出したとたん落下。そこは砂浜ではなく海面まで3mはある岸壁でした。運良く落下中に船をもやうためのロープにつかまって助かりました。そうでなければ冬の真夜中に泥酔したまま海に落ちていたところでした。

・目が覚めると部屋に薬局のサトちゃん人形が。親によると、連れて帰ったサトちゃんに「遠慮しなくていいから上がり~」、「早く寝な~」などと言いながら布団を敷いてやっていたそうです。


[女性の体験談例]

・川崎で飲んでいて目が覚めたら熱海にいたので、そのまま公園のベンチで野宿。朝になって名も知らぬ男性がかたわらにそっと食パンを置いていってくれた。

・男友達にひたすら求婚し、誰かの車の後部座席で全開の窓から対向車に向かって松山千春を熱唱していたことは覚えているが、次の瞬間にはもう築地にいて、その男友達といっしょに早朝のマグロの競りを見学していた。

・一目惚れした男の顔面にイチゴアイスを思いっきり投げつけ、その後で思いっきりビンタをかまして一人で爆笑。今、その人とつきあっています。

・夜中にむっくり起きて、全裸で物干し竿にぶらさがって「ミーンミーン」と鳴いていたとのこと。まったく覚えてません。

・泥酔したままフィリピン人の少年二人の車にヒッチハイク。そのまま大使館に同行して、彼らのビザ取得のために「嫁」の役をやった。後で年下の少年から「危ないからヒッチハイクはもうしちゃだめ」と説教された。

・気がつくと公園でホームレスのおじいちゃんと共に泣きながら日本の将来について熱く語り合っていた。

・酔いが回って「25か26になったら地元に帰りたいんよおぉ」と真剣に語っていたそうです。(そのとき私は27歳でした)

・「今の世の中、31歳でモテモテなのは安室奈美恵か私!」と豪語。もちろん記憶はありません。

・いきなり真顔で「これからは公園で詩を詠む生き方が流行る」、「詩とはポエムだ」と断言。しばらく「ポエマー」と呼ばれていました。

・会社の飲み会で「岡山では料金の代わりに桃を渡せばバスに乗せてくれる」というウソを大真面目な顔で語ったらしく、同僚が本気で信じていた。

・季節は冬で、しかも雨が降っているのに、なぜか「落ちなきゃ!」と思ってアパートの二階から一階まで階段を転げ落ちた。

・飲み会にて、『海辺のカフカ』(ハードカバー・上下巻)の角の固いところで後輩の頭を執拗に殴り続けた。記憶はないけど、後輩の春樹さん、すいませんでした。

・夏祭で飲んだ上に踊ったために酔いがまわり、なんとか子供たちを連れて帰宅直後に意識消滅。長女が泣きながら友達の家に電話して「お母さんが死んだ~!」と救援要請。ママ友が駆けつけてみると、パンツ一枚で倒れていたそうです。

・バーで飲んでいたら、午前3時半ごろに会社の先輩から電話があり、「明日の国会のぶらさがり取材、代わりに行ってきて」と言われ、そのまま午前5時までずっと飲んで、それから国会へ。ふらふらで転びそうになった私を小泉首相(当時)が支えてくれようとしたものの、いきなり「酒くさっ!!」と言われてしまいました。以来、首相に「酒くさい」と言われた女として記者会で有名に。


 女性の体験談の方がはるかに面白いというか、味わい深いというか、大丈夫ですか皆さん。

 ちなみに巻末には、作家の恩田陸さんと編集者の大竹聡さんの酔っぱらい対談が収録されています。恩田陸さんのファンは要チェックです。


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『嬲嫐(なぶりあい)』(星野智幸) [読書(小説・詩)]

 星野智幸さんの著作を順番に読んでゆくシリーズ“星野智幸を読む!”、その第3回。今回は著者の第二作品集を読んでみました。単行本(河出書房新社)出版は1999年10月です。

 まず表題作のタイトルがすごいインパクト。そもそも、「男」と「男」の間に「女」がはさまれている“嬲”が「なぶる」という意味になること自体、改めて考えてみると、何やら不穏な気配を感じさせます。逆に「女」と「女」に「男」がはさまれた“嫐”という字は、男をとりあう女どうしの嫉妬や諍い、怨霊を表すのだそうです。ひでえ女性蔑視だわな。

 この二つの不穏な漢字を並べて「なぶりあい」と読ませるわけですから、これはさぞや不穏な話なのではないか、と変な期待を抱きつつ読んでみました。

 実は、このタイトルは、字の意味とは無関係に、登場人物たちの「性自認のゆらぎ」を表現する記号なんですね。

 すなわち語り手は生物学的には男性なのですが、ジェンダー的に自分が「男」であるという確信が持てません。かといって「女」だという自覚があるわけでもなく、「女」になりたいわけでもなく、同性愛者でもなく、ただ周囲から「男」として扱われることに強い違和感があって、そのために恋愛やら人づきあいやらに悩みを抱えています。

 そんな語り手は、あるとき二人組の女性と出会います。二人のうち小柄な女性は「女からオカマに性転換した」と自称しており、語り手とちょうど逆パターン。すなわち、語り手は「男」だけど内側に「女」がいて、彼女は「女」だけど内側に「男」がいる。漢字で表すなら「嬲」と「嫐」、というわけ。

 意気投合して一緒に住み始めた三人ですが、その快適な関係を崩さないように細心の注意を払いつつ(例えば決して性交しない)、自分たちがはみ出さざるを得ない社会に対する「テロ」を繰り返すことで、一体感を維持しようとします。

 「テロ」といっても、ボートを乗り逃げするとか、街路樹に爆竹を仕掛けるとか、銭湯の栓を抜いて逃げるといった、子供じみた悪戯ばかりですが。エスカレートした三人は、覆面をつけて銀行に押し入り無理やり金を置いてくるという「銀行強与」という本格的な犯罪に挑むのですが・・・。

 何だか『パン屋再襲撃』(村上春樹)を思わせる展開になりますが、単純に犯行シーンの面白さだけを比べれば、こちらの方が上でしょう。三人の関係がどう変わってゆき、どのような結末をむかえるのか。最後まで気を抜けない作品です。

 性自認の問題をシリアスに追求しつつも、あまり重苦しい印象ではなく、むしろ次々と繰り出されるプチテロ(というか新聞記事で「悪質な悪戯」と書かれるような)シーンの楽しさで読ませてくれる作品。

 他に、ペルーの日本大使公邸占拠事件を扱った『裏切り日記』、官能的な恋愛幻想譚から劇画調の活劇へと展開する『溶けた月のためのミロンガ』の二作が収録されています。

 ひたすら文章で読ませるデビュー作『最後の吐息』と比べると、次に刊行された本書では、読者の五感を過剰に執拗に刺激する描写はそのままに、物語やストーリー展開にも力が入っており、かなり読みやすくなっています。ただ、うまくバランスがとれてない印象も受けますが。この先どのようになってゆくのか楽しみです。

[収録作]

『嫐嬲』
『裏切り日記』
『溶けた月のためのミロンガ』


タグ:星野智幸
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『女子中学生の小さな大発見』(清邦彦) [読書(サイエンス)]

 あまりにユニークな着想、首をかしげるようなチャレンジ、単なる手抜きなのか一生懸命に考えた末の迷走なのか微妙、そんな奇天烈な研究レポートの数々。理科の自由研究という課題に対して、普通の女子中学生たちが提出した報告を、理科の先生が数年分まとめた一冊です。単行本(メタモル出版)は 1999年1月、私が読んだ文庫版(新潮社)は2002年8月に出版されています。

 清水義範さんが解説で次のように述べておられます。

--------
 この本のことを説明するのは案外むずかしい。女子中学生の理科に関する研究レポート集だということに一応はなるのだが、研究レポートにしては、大部分のものが非常にお手軽である。

●Sさんは公園のハトはどこまでついてくるか実験しました。エサをやり続けるかぎりどこまでもついてくることがわかりました。

というレポートは、はたして理科の研究だろうか、と考え込んでしまうではないか。この本に集められているレポートの約半分は、そういう日常観察や素朴な疑問にすぎない。(中略)

●Kさんはお正月の酔っぱらいの観察をしました。「帰る」と言って、30分飲んでいて、また「そろそろ帰る」と言って帰らず、1時間たって3回目の「帰る」で帰りました。

 この本には、女子中学生によるそういう珍レポートがどっさりとつまっている。
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(文庫版p.178)

 というわけで、「そういう珍レポート」が1ページあたり4つから5つくらいつまった、そんな素敵な一冊です。

●Oさんは万歩計をつけて寝てみました。朝までに12歩、歩いていました。

●Sさんは三日間リンゴだけを食べるとダイエットできると聞き実験を始めましたが、一日目の夜の時点でこの実験は中止となってしまいました。

●Kさんはイヌは何を食べるか、キュウリ、プリン、ミカン、紙、ジャガイモをやってみました。Kさんの家のイヌは何でも食べてしまうことがわかりました。

●Tさんはネコのどこを踏むと一番怒るか調べました。しっぽが一番でした。

●Nさんはカタツムリのカラを取ったらナメクジになるか調べようとしましたが、どうしても取れませんでした。

●Tさんは、炭酸水を凍らせるとドライアイスになるかやってみましたが、なりませんでした。

●Iさんがスキーに行ったとき、ポテトチップスの袋がパンパンになっていました。家に持ち帰ったら元どおりになりました。スキー場で買ったのはどうなるかと思ったのですが途中で食べてしまいました。

●Sさんの研究によると、扇風機の前で「アー」と声を出すと「アウアウアウアー」となるのは、扇風機からの距離が35cm以内までだそうです。

●Kさんがアリの頭と胴をカッターナイフで切ってみると、必死になって動いていて11分後に頭も胴体も同時に死にました。

●Uさんはワープロの感熱紙にアルカリ性の虫さされ薬を塗ると字が消え、酸性の酢をその上に塗るとまた字が浮きでてくることを発見しました。

●Tさんは冷ややっこのとうふは沈むのにお味噌汁のとうふはなぜ浮かぶのか、もめんどうふと絹ごしどうふの大小2種類を熱い味噌汁と冷たい味噌汁に入れてみましたが、結局全部沈んでしまったようです。

●Aさんは、40人の人に「手を出して」といって、左右どちらの手を出すか調べました。右手を出した人は全員右きき、左手を出した人は左きき、両手を出した人は全員血液型がB型でした。

●Nさんは水に物質を溶かすと重さはどうなるか、5gの水酸化カリウム、硝酸ナトリウム、硫酸銅、ホウ酸、食塩、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムを加えてみましたが、どれも重さが5g増えただけでした。

●Mさんはタンポポの綿毛の数を数えました。233本ありました。

●Nさんはミカンの皮のツブツブの数をボールペンでつぶしながら数えました。4334個ありました。部屋中ものすごいミカンの匂いになりました。

●Kさんは夏みかんの袋の中の粒を数えました。多いものでは383粒もありました。

●Eさんはシラスの数を数えました。10gだけでも193匹いました。

●Hさんは168gのスジコの中にイクラの粒がいくつ入っているか数えました。1505個ありました。

●Nさんはイチゴの種を数えました。1つのイチゴに222個もの種がありました。

 最初は笑いながら読むわけですが、ときどき「ほおっ」と感心するような発見が出てきたり、まぎれもないちゃんとした研究があったり、あからさまに間違った考えを堂々と書いていたり、読み進めるにつれて、ここに並んでいるのはもしや「科学の原点」ではあるまいか、などという妄想にとらわれてしまいます。

 教科書や参考書を読んで書いてあることを暗記して理科の成績を上げる、という当たり前の「勉強」とは全く違う活動に、感心するもよし、笑うもよし、中学生にもなってこんなに無知で大丈夫なのかと日本の将来を憂えるもよし。ここはむしろ、あえて何も指導せず、黙って全てのレポートを受け入れる、著者の「理科の先生」としての度量の広さに感心するべきかも知れません。


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『ジョークで読むロシア』(菅野沙織) [読書(教養)]

 グローバル金融危機はロシア経済にどのような影響を与えたのか。プーチンはなぜ尊敬されているのか。別荘(ダーチャ)、賃貸住宅、観光から和食ブームまで、ロシア政治風刺小話(いわゆるアネクドート)の新作を織りまぜながら、ロシア出身のエコノミストが解説してくれる祖国の今。新書(日本経済新聞社)出版は2011年1月です。

「さて、ニュースが二つある」
「いいニュースから初めてくれ」
「誰が、いいニュースがあるっていったんだ?」(新書p.5)

「金は悪なんかじゃない。悪はそんな簡単に消えたりしない」(新書p.32)

「小さなビジネスを始めたいんです」
「わかった。それなら、まず大企業を買収しなさい」(新書p.30)

「ここにあるのはお値段ですか、それとも電話番号ですか」(新書p.140)

「税金に投資したいのですが」
「税金・・・ですか?」
「ええ、来年は税率が相当上がると耳にしたもので」(新書p.199)

「ロシア政府が、汚職払拭キャンペーンの延期を発表した。その理由は、キャンペーンに割り当てられた50億ルーブルの資金の行方がわからなくなったからである」(新書p.90)


 国家崩壊、社会体制の激変、ハイパーインフレ、デフォルト(債務不履行)、そしてグローバル金融危機。次々と降りかかる危機にロシアはどう対応し、そして生き延び、成功をつかんできたのか。

 ロシアが抱えている課題の根深さと、それでも巧みに危機を乗り切ってゆくしたたかさ。打ちのめされても意気消沈せず、アネクドートに託して笑いとともに本音をぶちまける国民のたくましさ。意外と知らなかったロシアの実像が明らかになってゆきます。

 さすがにエコノミストなので、金融危機への対応、天然資源依存など経済が抱えている課題、といったテーマに多くのページが割かれています。次にプーチンの話題。庶民生活の話題としては、ダーチャ(別荘)の現状、モスクワで食べられる和食の味、ロシア料理、内装“別売り”マンション売買、国際観光、ソチ冬季オリンピックなどの話題が登場します。

 政治経済の話題だと日経新聞の解説記事のように、専門家らしい硬い調子で書かれるのに、食事の話になると、タイトルからして「ロシア人の主食はパンです」とか「ピロシキの焼き方を覚えたら一人前の嫁」といった、くだけた感じになるのが楽しい。

 というわけで、タイトルだけ見るとロシア小話集かと思いますが、アネクドートは導入というか各章のマクラに使われているだけで、収録数も少なく、それがメインではありません。現代のロシアで何がどうなっており、指導者は何をやろうとしており、国民は何を考えて生きているのか。ロシアの今を、ざっと分かりやすく紹介してくれる本です。


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