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『チベットのラッパ犬』(椎名誠) [読書(SF)]

 極秘任務を帯びた工作員が、戦争により生み出された異形生物がうろつき回る中国奥地へと侵入。そこで彼が見たものとは。『アド・バード』、『水域』、『武装島田倉庫』という椎名SF三部作に連なる新作SF長篇です。単行本(文藝春秋)出版は2010年8月。

 戦争でばらまかれた生物兵器やナノマシンのために奇形化した生態系。奇天烈な生物や正体不明のイメージ造語が乱舞する、いかにも作者らしい世界を堪能できる作品です。

 厳しい監視の目をくぐり抜けて任務達成を目指すという、サスペンスあふれる潜入秘密工作員もので始まり、ターゲットたる「ラッパ犬」を追って果てしない追跡劇が始まる、というのが全体のストーリー展開。前半はわくわくするのですが、後半になって展開が一本調子で単調にすぎ、世界観にも慣れてきて、だれてくるのが残念。

 読み所はストーリーではなく、次から次へと現れる奇怪な生物やマシンの数々、そして妙にリアルな現地の生活感でしょう。ただでさえエキゾチックな中国奥地のイメージに、怪しげなアイテムや造語を大量に混ぜこんで、シーナ印のエキスをたっぷり振りかけた、そんな感じ。

 全体的には『水域』の雰囲気に近く、また泥濘地帯の描写や軍による支配の様子、そして戦闘シーンなど『武装島田倉庫』も彷彿とさせます。というわけで、椎名SF三部作が好きな方にはお勧め。そうでない方も「椎名誠が書いた、中国奥地を野良犬が駆け抜ける話」と聞いて気になるようならチェックしてみて下さい。


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