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『天空のビバンドム』(ニコラ・ド・クレシー) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 フランスにおけるコミック作品(バンド・デシネ)の代表作の一つとして知られる『天空のビバンドム』が翻訳されていたので、読んでみました。日本語版(飛鳥新社)の出版は2010年11月です。

 フランス語圏においては、日本のマンガとも、また米国のアメコミとも違う、独特のコミック作品が生み出されており、それを総称して「バンド・デシネ」(略称B.D.)と呼ぶのだ、ということを新聞記事で読むまで、私はぜんぜん知りませんでした。

 これでは恥ずかしいので、とりあえず一冊読んでみることにしました。それがニコラ・ド・クレシーの『天空のビバンドム』です。ちなみに本書を選んだ理由は、帯の「荒木飛呂彦もハマッたアアアーーッ!!」というアオリですね。まんまと。

 さて、ページをささっとめくってみると、これがかなりのインパクト。渋い筆致で彩色された不気味で重厚で美麗な画が、ページにぎっしりと並んでいます。ひとコマひとコマが独立した絵画のように見えます。

 効果線や特殊コマ割りといった技法は使われておらず、効果音やオノマトペ(擬声語)もほとんどありません。コマ内部における動きの表現は乏しく、それぞれのコマは、一つの情景を、あるいは特定の瞬間を切り出して、その奇怪な造形を執拗なまでに丁寧に描いた絵、と見なすことが出来ます。

 赤と黒を基調とした彩色は素晴らしく、特に「赤」はとりつかれているかのように様々な色調で繰り返し登場し、作品全体を支配しているように見えます。たぶん、地獄の色なんでしょう。

 こうして並べられた絵とセリフを眺めて、そこから自由にストーリーを読み取ってゆけばよいのですが、セリフの大半が意味不明で、話の展開がよく分からないのが辛いところ。

 ニューヨークのようなところにやってきた一頭のアザラシをめぐって、ヒト、悪魔、犬、鳥といった様々なグループが、彼の「物語」を我がものにせんとして陰謀をめぐらす、というような話ですが、たぶん読み取れる物語は読者によって違ってくると思われます。寓話的ロールシャッハテストみたいな。

 そういう意味で、ストーリーやキャラクターを期待して読むべき作品ではありません。あくまで美術作品として鑑賞し、その渋い色彩や異様な造形に感心する、というのがよいかと思います。個人的にはさほど気に入ったわけではないのですが、美的センスが合う読者ならシビれるでしょう。


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