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『女子中学生の小さな大発見』(清邦彦) [読書(サイエンス)]

 あまりにユニークな着想、首をかしげるようなチャレンジ、単なる手抜きなのか一生懸命に考えた末の迷走なのか微妙、そんな奇天烈な研究レポートの数々。理科の自由研究という課題に対して、普通の女子中学生たちが提出した報告を、理科の先生が数年分まとめた一冊です。単行本(メタモル出版)は 1999年1月、私が読んだ文庫版(新潮社)は2002年8月に出版されています。

 清水義範さんが解説で次のように述べておられます。

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 この本のことを説明するのは案外むずかしい。女子中学生の理科に関する研究レポート集だということに一応はなるのだが、研究レポートにしては、大部分のものが非常にお手軽である。

●Sさんは公園のハトはどこまでついてくるか実験しました。エサをやり続けるかぎりどこまでもついてくることがわかりました。

というレポートは、はたして理科の研究だろうか、と考え込んでしまうではないか。この本に集められているレポートの約半分は、そういう日常観察や素朴な疑問にすぎない。(中略)

●Kさんはお正月の酔っぱらいの観察をしました。「帰る」と言って、30分飲んでいて、また「そろそろ帰る」と言って帰らず、1時間たって3回目の「帰る」で帰りました。

 この本には、女子中学生によるそういう珍レポートがどっさりとつまっている。
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(文庫版p.178)

 というわけで、「そういう珍レポート」が1ページあたり4つから5つくらいつまった、そんな素敵な一冊です。

●Oさんは万歩計をつけて寝てみました。朝までに12歩、歩いていました。

●Sさんは三日間リンゴだけを食べるとダイエットできると聞き実験を始めましたが、一日目の夜の時点でこの実験は中止となってしまいました。

●Kさんはイヌは何を食べるか、キュウリ、プリン、ミカン、紙、ジャガイモをやってみました。Kさんの家のイヌは何でも食べてしまうことがわかりました。

●Tさんはネコのどこを踏むと一番怒るか調べました。しっぽが一番でした。

●Nさんはカタツムリのカラを取ったらナメクジになるか調べようとしましたが、どうしても取れませんでした。

●Tさんは、炭酸水を凍らせるとドライアイスになるかやってみましたが、なりませんでした。

●Iさんがスキーに行ったとき、ポテトチップスの袋がパンパンになっていました。家に持ち帰ったら元どおりになりました。スキー場で買ったのはどうなるかと思ったのですが途中で食べてしまいました。

●Sさんの研究によると、扇風機の前で「アー」と声を出すと「アウアウアウアー」となるのは、扇風機からの距離が35cm以内までだそうです。

●Kさんがアリの頭と胴をカッターナイフで切ってみると、必死になって動いていて11分後に頭も胴体も同時に死にました。

●Uさんはワープロの感熱紙にアルカリ性の虫さされ薬を塗ると字が消え、酸性の酢をその上に塗るとまた字が浮きでてくることを発見しました。

●Tさんは冷ややっこのとうふは沈むのにお味噌汁のとうふはなぜ浮かぶのか、もめんどうふと絹ごしどうふの大小2種類を熱い味噌汁と冷たい味噌汁に入れてみましたが、結局全部沈んでしまったようです。

●Aさんは、40人の人に「手を出して」といって、左右どちらの手を出すか調べました。右手を出した人は全員右きき、左手を出した人は左きき、両手を出した人は全員血液型がB型でした。

●Nさんは水に物質を溶かすと重さはどうなるか、5gの水酸化カリウム、硝酸ナトリウム、硫酸銅、ホウ酸、食塩、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムを加えてみましたが、どれも重さが5g増えただけでした。

●Mさんはタンポポの綿毛の数を数えました。233本ありました。

●Nさんはミカンの皮のツブツブの数をボールペンでつぶしながら数えました。4334個ありました。部屋中ものすごいミカンの匂いになりました。

●Kさんは夏みかんの袋の中の粒を数えました。多いものでは383粒もありました。

●Eさんはシラスの数を数えました。10gだけでも193匹いました。

●Hさんは168gのスジコの中にイクラの粒がいくつ入っているか数えました。1505個ありました。

●Nさんはイチゴの種を数えました。1つのイチゴに222個もの種がありました。

 最初は笑いながら読むわけですが、ときどき「ほおっ」と感心するような発見が出てきたり、まぎれもないちゃんとした研究があったり、あからさまに間違った考えを堂々と書いていたり、読み進めるにつれて、ここに並んでいるのはもしや「科学の原点」ではあるまいか、などという妄想にとらわれてしまいます。

 教科書や参考書を読んで書いてあることを暗記して理科の成績を上げる、という当たり前の「勉強」とは全く違う活動に、感心するもよし、笑うもよし、中学生にもなってこんなに無知で大丈夫なのかと日本の将来を憂えるもよし。ここはむしろ、あえて何も指導せず、黙って全てのレポートを受け入れる、著者の「理科の先生」としての度量の広さに感心するべきかも知れません。


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