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『スピンク日記』(町田康) [読書(随筆)]

 シリーズ“町田康を読む!”第38回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、著者の飼い犬が日常生活のあれやこれやを、犬らしく楽しげに語ってくれる作品です。単行本(講談社)出版は2011年2月。

 まずカバー写真(裏表紙も要チェック)が強烈なインパクト。この珍妙な犬こそ、語り手であるスピンク(正式名:ラブリー・スピンク)君です。プードルです。作者のうちで飼われています。

 兄弟のキューティー(正式名:キューティー・セバスチャン)と、主人・ポチ(正式名:町田康)と、奥さんと、たくさんの猫たち(詳細は、『猫にかまけて』、『猫のあしあと』を参照)といっしょに暮らしています。その生活の様をスピンク君が語ってくれるのです。

 もちろん飼い犬ですから、最大の関心事は主人・ポチの言動です。スピンクにマウントされて「スピンク、痛い、スピンク、痛い」と泣いたり、スピンクが黒い目でじっと見つめるとふいに「スピンクー」と絶叫して抱きしめてきたり、文学の鬼になると称して自室に閉じこもり焼き芋を食べてたり、わけのわからない歌を熱唱したり、そのような作家の生態が赤裸々に書かれています。

 何しろ観察者がプードルなので、しかも飼い主とはいえ明らかに自分より劣位犬と見なしている相手のことなので、その筆致にはまったく容赦というものがありません。

「ポチが真面目に生きるのはもう無理だと思います」(単行本p.114)

「この主人というのがいつもまでも子供で困ります。子供なだけでなく変コです」(単行本p.192)

 内容的には『テースト・オブ・苦虫』シリーズと似ていますが、何しろ町田康のあれやこれやを犬の視点から語り、しかも犬の立場から冷静にツッコミを入れるわけで、これがあまりにも可笑しい。思わず吹き出してしまいます。

 ぼろぼろ泣ける猫エッセイに比べて、語り手が犬なので、しかもプードルなので、全体的に気楽で楽しい雰囲気になっています。悪質業者による犬虐待といった深刻な話題も出てきますが、何しろ犬なので、すぐに気分が良くなって、うわんわんわん、楽しくなってしまいます。

 というわけで、『猫かま』や『猫あし』の犬版かと思って読み始めたのですが、むしろ爆笑エッセイ『テースト・オブ・苦虫』シリーズの後継といった方がよいかも知れません。スピンクやポチやキューティのカラー写真も満載で、ぺらぺらめくるだけでも何だか楽しくなってくる一冊です。

 個人的に犬には興味がなかったのですが、スピンクと主人・ポチが見苦しいほど楽しく遊んでいる描写を読んで、犬を飼うのもいいものだなあ、などと思いました。


タグ:町田康
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