SSブログ

『どろんころんど』(北野勇作) [読書(SF)]

 『SFが読みたい!2011年版』において、ベストSF2010国内篇第二位に選ばれた北野勇作さんの長篇。単行本(福音館書店)出版は2010年8月です。

 少女型アンドロイドであるアリスが目覚めたとき、世界はいちめんの泥の海に変わっていて、指示を与えてくれる人間はどこにもいなかった。ひたすらヒトの真似を続ける(でもどこかずれている)泥人形のようなヒトデナシ、寡黙なレプリカメ(模造亀)と共に、ヒトを探すアリスの不思議な旅が始まる。

 というわけで、北野さんの「いつものやつ」です。世界の様子も、レギュラーといっていい脇役たちも、いつも通り。みんな何食わぬ顔で登場します。とは言っても他の作品とは独立していますので、本書だけ読んでも問題ありません。

 何だかよく分からないヘンな世界を旅しながら、アリスは真面目に考え続けます。ホンモノとは何か、ニセモノとは何か。自分はアンドロイドだから、その心はニセモノなのか。では、ヒトの心や、ヒトがやっていたことは、はたしてホンモノだったのだろうか。

 他の作品と大きく違うのは、最後に「世界の秘密」がちゃんと説明されることでしょう。北野作品に限ってそんな親切なことはしないと思っていたのですが、本書は「ボクラノSF」シリーズの一冊であり、主要対象読者が中学生ということで、あまり若い読者を困惑させないようにとの配慮かも知れません。ちなみにその秘密ですが、かなりSFっぽくて、というか普通にSFなので、びっくりです。

 アリが這い回って文字をどけたり、文章がくねくねと曲がったり、文の繰り返しがページの端まで続いてそこで半分に切れていたり、あちこちに仕掛けられたタイポグラフィが楽しく、しかも鈴木志保さんのイラストと連動しているのがまた嬉しい。

 鈴木志保さんのイラストは素敵です。若いころ、彼女の『船を建てる』の連載を読むために「ぶ~け」を買っていた頃が懐かしい。

 というわけで、「不思議などろんこ世界を、女子と泥人形と亀ロボットが旅するお話。素敵なイラストと面白い仕掛けが満載だよ」といった感じで、いたいけな中学生をたぶらかして読ませるとよいと思います。自分とは何か、世界はどうしてこうなっているのか、そして、ニセモノの世界で生きることはすなわちニセモノの人生ということなのだろうか、といった哲学的なことに頭を悩ませるのも大切なことです。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: