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『前進する日もしない日も』(益田ミリ) [読書(随筆)]

 『すーちゃん』や『結婚しなくていいですか』など、30代独身女性の生活と悩みを描いたコミックで読者の共感を呼んだ益田ミリさんの最新エッセイ集。文庫版(幻冬舎)出版は2011年2月です。

 同じ著者の『今日も怒ってしまいました』では昔の思い出(主に怒髪体験)を扱ったエッセイが多かったのですが、本作では現在(30代後半から 40歳)の出来事や身辺雑記が中心となっています。最近、着物の気付け教室に通い始めた、少しずつだけど格好がつくようになってきた、とか、そんな話題が中心です。

 さすがだなあと思うのは、そんな日記に書くようなネタでも、読者の心のツボを押してくる「共感ポイント」を必ず用意するところ。

 例えば前述の着物の話であれば、洋服を誉められると「無理して誉めてくれてるんじゃないか」などと気を回してしまうけど、着物だと素直に「がんばって着てみました」と素直に言えるのが楽、という具合。想像するに「なるほど、それ分かる気がする」と思う女性読者も多いんじゃないでしょうか。

 短大を卒業してから将来が決まらず、不安で不安で、夜になると布団の中で泣いていた。「春が来るたび、怖い怖いって泣いていた二十歳の自分を思い出す。あれは、大人になるための涙だったのだと思う」(文庫版p.77)とか、世代も性別も違う私でも共感してしまいます。

 涙といえば、歯痛に苦しんでいたとき、歯医者さんから「本当に辛かったですね」と言われて、その場で泣いてしまったという話もあります。それだけなら日記ネタですが、そこですかさず「人前だとか、そんなのはどうでもよかった。大人になったんだから、泣きたいときに泣いたっていいや、と思った」ともってゆくのが共感ポイント。

 個人的に気に入ったのは、平均年齢40歳の仲間8名で「大人の修学旅行」に出かける話。著者が幹事となって、ちゃんと「旅のしおり」を作る。表紙は「すーちゃん」のイラスト。幹事が勝手に色々と決めても、「大人の修学旅行は事後報告でOK」というのがルールなので無問題。

 何しろ修学旅行なので、みんなてんでばらばらに行動。「みんなと一緒に来ても、ひとりでいていい気楽さ」、「ぜんぜん窮屈じゃない。一緒にいるけど、ひとりひとりの旅も楽しめる」、「みんなきままに、アイス最中や、ソフトクリームや、たこ焼きや、たこせんべいを途中で買い食いして歩く」。いいなあ、大人の修学旅行。というか、修学旅行という言葉の意味を取り違えているような気がしないでもありませんが。

 というわけで、超個性的な感性や、あまりに鋭い洞察、尋常ならざる体験などで読者を引きずり込むエッセイもよいのですが、むしろごく普通の感性で「あるある」と共感を覚えるありふれた体験や感情をすーっと書いたエッセイを好む読者、特に30代後半から40代前半の女性読者にお勧めのエッセイ集です。


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