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『機龍警察〔完全版〕』(月村了衛) [読書(SF)]

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 屈辱や汚名を雪ぐため、己の罪を贖うため、あるいは自身の有用性を証明するため、彼らは闘争に身を投じる。そこに生じる感情の力学が冒険小説という物語を駆動させる。読む者を昂奮させる。(中略)シリーズの以降の作品を通過したあとに本作を読むと、ライザやユーリや緑の戦いの背後に彼らの過去が重なり、冒険小説としての興趣が増幅される。平たく言えば、泣くのだ。
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Kindle版No.4713、4724

 戦闘メカアクションと重厚な警察小説を見事に融合させ、SF、ミステリ、警察小説、冒険小説、どのジャンルの読者も満足させる人気シリーズ『機龍警察』。その原点たる第一長篇に、これまでに発表されたインタビュー、自作解説、評論などを追加した完全版。単行本(早川書房)出版は、2014年11月、Kindle版配信は2015年3月です。


 凶悪化の一途をたどる機甲兵装(軍用パワードスーツ)犯罪に対抗するために特設された、刑事部・公安部などいずれの部局にも属さない、専従捜査員と突入要員を擁する警視庁特捜部SIPD(ポリス・ドラグーン)。通称「機龍警察」。

 龍機兵(ドラグーン)と呼ばれる三体の次世代機を駆使する特捜部は、元テロリストやプロの傭兵など警察組織と馴染まないメンバーをも積極的に雇用し、もはや軍事作戦と区別のなくなった凶悪犯罪やテロに立ち向かう。だがそれゆえに既存の警察組織とは極端に折り合いが悪く、むしろ目の敵とされていた。だが、特捜部にとって真の〈敵〉は、警察機構の上層部に潜んでいた……。


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我々はこの敵と戦う。我々だけが戦える。それが警視庁特捜部だ。
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Kindle版No.3950


 というわけで、本書は「機龍警察」シリーズの原点である第一長篇に、著者によるエッセイやインタビューなどを追加したものです。

 後の作品を読んで、登場人物たちの過去や人となりを理解してから再読すると、最初に読んだときよりもさらに強く引き込まれます。細かい伏線や、後の展開のための引き等にも気付き、否が応にも盛り上がる昂奮、そして高揚感。


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日本はどんどん薄気味の悪い国になっている。俺はな宮近、これからもっともっと異常なこと……そうだ、今までの常識では考えもつかないようなことが起きるような気がするんだ、この日本でな。
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Kindle版No.1044


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分からんのか、その方が君らのためでもあると言ってるんだ。それでなくても警察内部では特捜部の評判は悪い。いや、憎まれてると言ってもいい。
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Kindle版No.323


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従来のテクノロジーをはるかに超える機体を日本警察が突然持ち得たという事実は不可解という他ない。(中略)開発者及び開発過程を含めすべて極秘。なんなんですか、これは。
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Kindle版No.1385


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三機の龍機兵の中で最大の火力と大量殺傷能力を持つバンシー。私はあの機体が憎い。なのに一番愛着を感じてしまう。(中略)バンシーに乗れるのは確かにあの女(ひと)しかいない……上手く説明できませんが、分かるんです、はっきりと。悔しいんです、そんな自分が。
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Kindle版No.1853


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あの娘は私を憎んでいる。当然だ。なのになぜここまでできるのだろう? バンシーに乗るのは私だというのに。(中略)あの娘にほんの少しの勇気があったなら。いや、勇気の問題ではない。あの娘は勇気がある。
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Kindle版No.3746


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自分も、その、なんと言うか、偉そうに言えた身ではありません。恥ずかしながら荒れていた時期もあります。それでも今は警察官であることに誇りを持っています。(中略)先ほどの警部のお言葉で自分は確信しました。少なくとも今の警部はれっきとした警察官だと。
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Kindle版No.3397


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 自分は戻れるだろうか。初めて刑事を拝命したあの頃に。
 分かっている。その答えは、今を生き抜いてつかむしかない。
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Kindle版No.3668


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部長。だから俺はあのときあんたに訊いた。そんな気がしたんだ。あんたはそれくらいやる人だ。もっとも、そういう指揮官でなければ俺はついていきませんけどね。
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Kindle版No.1083


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危険な橋だが、我々はどんな手を使ってもこれを渡り切る。すべてを覚悟して立ち上げた特捜部だ。
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Kindle版No.553


 各人のセリフを抜き出しただけで、誰がどういう状況で口にしたものか、後の展開でそれがどのように展開してゆくのか、次々と思い出されてきて、じーんと来てしまいます。

 著者自身による解説や、評論なども抜け目なく収録されており、「完全版」と銘打つだけのことはあります。旧版を持っている方も、ちょうどいい再読の機会だと思って、改めて購入するだけの価値はあります。

 なお、後の作品の内容についても書かれているため、本書からシリーズを読み始めようという方は、とりあえず付録には目を通さない(第四長篇を読んでから本書に戻る)方がいいかも知れません。


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警視庁が突入要員として外部の傭兵と契約する、しかもうちひとりはテロリストである----どう考えてもあり得ない状況を〈アリ〉とするにはどうすればいいか。そこで思いついたのが機甲兵装というガジェットであり、〈自爆条項〉を含む契約です。(中略)
 荒唐無稽なフィクションを血の通うエンタテインメントとして最良の形に結実せしむるには、リアルな現実認識と、社会の狭間であがく個人の人間像、怨念や情念といったものの描写とが必要である、というのがかねてよりの私の考えでありました。〈リアルな荒唐無稽〉こそ無敵である、と言ってもいいでしょうか。フィクションでなければ伝えられない何かを伝える、という意味でも。
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Kindle版No.4089、4103


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初心を忘れず、自分を偽らず、ひたすらに手に汗握る、波瀾万丈の物語を綴っていきたいと思います。胸躍る、そして同時に途轍もなく苦い〈現代〉の物語です。
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Kindle版No.4142


タグ:月村了衛
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『オーロラのお針子』(藤本玲未) [読書(小説・詩)]

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小鳥ことりは食べられる小鳥ことりと月夜の列車はゆくよ
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人生の謎すきとおる8月の魚の骨のきれいな宇宙
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糸電話片手に渋谷ぶらついてこちら思春期はやく死にたい
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 思春期の始まりと終わり。持て余す若さを焼きつけたような鮮烈な歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2014年9月です。


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糸電話片手に渋谷ぶらついてこちら思春期はやく死にたい
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あたしすぐ死にたくなるから網棚の上でお願い寝かせておいて
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夏服に着替えた朝はこれまでを忘れてひとりちょっと死にたい
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もし明日会ったら死ねって云われるしなにはなくとも屋上へ行く
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鍵盤はよく眠れますあの椅子のこころもとない感じもいいし
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あのひとの生徒手帳の隙間からふる雪ですよ しにますよ ねえ
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ふと道でしゃがみたくなる月曜日どんな言い訳だってさみしい
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 友だちと喧嘩しても、夏が来ても、月曜日でも、恋をしても、とにかくこちら思春期はやく死にたい。避けて通ることは出来ない思春期のあまりの酷さに、すぐ死にたいと思ってしまう私たち。


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右側がいつも微熱の帰り道今日はときおり傘が触れあう
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これはもう大荒れだから真夜中のコンビニでほら、座って話そ
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窮屈な家から出ちゃえぼくたちはSuicaで月へ行こうじゃないか
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ほんとうは、ではじまることは愚痴にしかならないからさ手紙燃やすね
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 恋愛も、ういういしいわけです、思春期。でも、思春期の避け得ない本質とは、それが終わってしまうこと。死にたがっているうちに終わってしまい、もう二度とやって来ないということ。


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小鳥ことりは食べられる小鳥ことりと月夜の列車はゆくよ
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人生の謎すきとおる8月の魚の骨のきれいな宇宙
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あたらしいことはうれしい畦道を自転車でゆく日々のたしかさ
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はらわたは空洞だったあの夏の蝉に似ている将来のこと
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 苦しく切なく悔しい恋愛を経て、そうして思春期が終わるのです。


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アマゾンのカートを押してあのひとの夜明けに間に合います合わせます
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それでは。で終わる手紙を眺めつつ月の荒野にガソリンを撒く
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肉体の透ける間にたましいが月で養殖されるのを待つ
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ありったけやさしさつれていきなさい世界はあなたを救わないから
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ぶどうひとつぶを机に置いていくわたしの風はこれからよわい
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マンホールにひとりひとつのぬいぐるみ置いてこの星だいすきだった
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 というわけで、思春期のはじまりと終わりを見事にとらえた歌集です。読んでいるだけで息が詰まり、「若さ」という呪いに同情しつつ、でも羨ましいと思ってしまいます。


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『背丈ほどあるワレモコウ』(コマガネトモオ) [読書(小説・詩)]

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平安絵巻の雲居のように
土台の部分はいつも
煙に巻かれる
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『きっかい』より

 異化した日常風景はすでにしてSFかも知れず、口上は流れに流してそのまま煙に巻いてしまう雲居詩集。単行本(思潮社)出版は2006年10月です。


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さては床下にはすでに私の鏡像体でも入っている。押し出されるようにして、ちょうどそいつの分だけ私がさらされてしまっている。鏡像体・Dの存在が、いま、背面を鏡面に仕立て上げる。左の挙手に右手で応えよう。私たちはきっちりとかみ合う歯車である。ちょうどぐるりと回ってしまえば、交代することさえ可能である。思えばうつ伏せのDとはずっと、背中合わせの温もりを感じてきた。温もりを隔てるあわいが歯がゆい。本当に歯がゆい。重力は特に感じようとすれば感じる。とてつもなく引っ張られている。押し潰してしまう。
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『ヒトの背丈ほどあるワレモコウ』より


 個人的に「SFを感じさせる現代詩」が大好物なのですが、意外にびびんと来る作品が見つからないのが残念なのです。

 題材や設定にSF的なものを使っていても、何というか、感性が非SFというか、魂がSFフリーというか。逆に、どこがSFかと問われると口ごもってしまうものの、まぎれもなくSF詩だと感じる作品も、わずかながら存在するわけで、本書もその一つです。


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万年が経ってしまった
もはや
箔がはがれてしまったうえに神代文字で書かれていて読めない
ただ実際は、神代文字ではないことはわかる
なぜなら神代文字などないからだ
開くと中も活字が所々消えている
覚えのないページだが、端が目印に折られている
しょうがない、愛したページから朽ちていく
文字の中でも特に左側、主に偏の脱落が著しい
偏のこの副次性は
言語における右空間認識の優位性を示唆するだろう
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『おや、おまえいつからそこにいた?』より


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細かな気遣いはまだ続く。そうした意味では玄関ホールは腹より喉のあたりと言えるだろうか。入ってすぐの喉越し。右の階段は上がらない。上げられるのだ。下りてくる人がいれば摩擦で発電し、起こった電力で段差が動く。下りは、手すり部分の緩い勾配を滑り台同様滑り下りればよい。自分自身もまた下りで滑ることで、上がるためのエネルギーをためられる。
省エネ仕様の。
下落が上昇につながる永久循環がここに。
美しい、永久循環がここに。
環境指向型住宅ゆえん。
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『ホームスイートホームもぬけ』より


 狙いすぎの妙なユーモアも含めて、SFを感じます、ひっしひし。これがリズムに乗ってサイファイをふるうと、こんな感じに。


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くらくらする、というのかいつもの立ち眩みで
首の具合を補強しようとこめかみに手をかけたあたしは
あたしは手動に切り替えぜんまい、
何しろそのころ電気も止まっていましたから自動制御つまりあたしあた
しぜんまいあたしの手はぜんまい、知らず知らずのうちにぜんまい、
締めていました
なれませんでした慣れませんでした最後まで
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『商・三つの手を順に数え上げる』より


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(御)仁を呼び込み、有(難)い説法を施すためには
口上は流れに流すべきで

  (御)みそしる
  御)御)御)つけ(重量級)

(理)不尽に、
  う)そ)を)つけ(モスキートー)
というのはひどすぎるけれど
このようになるたけ
方違えによって(申)(し)(上)(げ)るのだった。
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『みまくり草紙』より


 というわけで、書き写しているうちにどこがSFだと感じたのか自分でも判らなくなってきましたが、言葉の浮遊具合とウケ狙いっぽいユーモアがいーい感じの素敵な詩集です。


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優しい風を春風と呼ぶならば
春風の伝播に沿って 花々が
次々と耳をふさぐ
ふさぐような音でもないように思えたが、
一斉に耳をふさぐ
ミロのヴィーナスは肩から先の印象がおぼろげだが
記憶では
なんとなくその時耳をふさがなかったただ一人の
女であったように思う
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『子午線通過』より


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『偉大なる失敗 天才科学者たちはどう間違えたか』(マリオ・リヴィオ、千葉敏生:翻訳) [読書(サイエンス)]

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本書で説明している過ちはいずれも、何らかの形で、大発見への橋渡し役を果たした。だからこそ、「偉大なる失敗」と呼んでいるわけだ。科学の進歩というのはふつう、小さなステップの連続だ。そこにときおり、飛躍的な進歩が訪れる。五人の犯した過ちは、科学の進歩をさえぎっていた霧を振り払う、きっかけのような役割を果たしたのである。
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Kindle版No.217

 一流の科学者たちも深刻な間違いを犯している。しかし、それらはしばしば単なる失敗ではなく「偉大なる失敗」と呼ぶべきものになる。これこそが、科学を前進させてゆく原動力なのだ。科学史上に名高い失敗と誤りをとりあげ、科学という営みの本質を明らかにする興奮の科学ノンフィクション。単行本(早川書房)出版は2015年1月、Kindle版配信は2015年2月です。


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 アインシュタインのオリジナルの論文の20パーセント以上には、何らかの間違いが含まれている。途中で何度も間違いを犯しても、最終結果はやはり正しいというケースもいくつかある。多くの場合、これこそ真に偉大な理論家の特徴といえよう。
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Kindle版No.5122


 科学史上に燦然と輝く天才たち。彼らは決して間違いを犯さなかったわけではなく、ときに偉大なる間違いによって科学を前進させてきたのです。本書は、五人の天才科学者を取り上げ、彼らの失敗とその意義について詳しく紹介してくれる一冊です。


チャールズ・ダーウィン
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ダーウィンが遺伝学の初歩的な事実を誤解していたことを考えれば、彼の理論の大部分が正しかったことは、まさに驚きとしか言いようがない。
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Kindle版No.1104


 まず最初の話題は、ダーウィンの時代に知られていた遺伝学を前提にする限り「自然選択」は充分に機能しないはずだ、という意外な事実。

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私は融合遺伝の考え方を採用したことがダーウィンの過ちだとは考えていない。ダーウィンの過ちとは、融合遺伝の仮定のもとでは、彼の自然選択のメカニズムは期待どおりに作用しえないという点を(少なくとも当初は)完全に見落としてしまったことにあるのだ。
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Kindle版No.746

 ダーウィンがこの「完全な見落とし」をしなかったとしたら、もしかしたら『種の起源』は出版されなかったかも知れません。というのも、この「見落とし」は簡単に解決できるものではなかったからです。

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 変異や生存率という現象に対する定量的なアプローチを確立し、ダーウィンの自然選択とメンデルの遺伝学を完璧に融合するという難題が解決するまで、およそ70年の年月を要した。
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Kindle版No.1085

 逆に言うと、ダーウィン進化論は「見落とし」によって生まれ、そして「結果的に」正しかった、ということになるわけです。本書で最初に提示される「偉大なる失敗」に相応しい印象的なエピソードだと言えるでしょう。


ケルヴィン卿(ウィリアム・トムソン)
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ケルヴィンの最大の過ちは、放射性崩壊に気づかなかったことではなく(もちろん、いったん放射性崩壊が発見されたら、それを無視するのは正しいとはいえないが)、ペリーが提唱した地球のマントル内部の対流の可能性を始めのころ無視し、その後も否定しつづけたことなのだ。
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Kindle版No.1849


 地球の年齢を「計算」する。それまで聖書の記述に頼っていたこの問題を、純粋に科学的な課題として取り上げ、その推定値を示したケルヴィン卿。しかし、その結論は2つの要因によって間違っていました。放射性崩壊熱、そしてマントル対流です。

 著者はこう指摘します。結果としての間違いではなく、自らの過ちを認めない態度こそが過ちなのだと。にも関わらず、ケルヴィン卿の挑戦は真に「偉大なる失敗」だと言えるでしょう。

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 ケルヴィンの地球の年齢の計算が過ちだったのは事実だが、私はそれでも、彼の計算は実に見事だと思っている。ケルヴィンは、地質年代学をあいまいな憶測から、物理法則に基づくれっきとした科学へと変えたのだ。
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Kindle版No.1967


ライナス・ポーリング
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皮肉な話だが、へリックスでの大勝利が三重らせんでの大敗北に寄与したことは間違いない。ポーリングは、へリックスの成功をもとに、三重らせんでも同じ成功を再現できると思い込んだのだ。そういう意味では、これは「帰納的推論」の典型例だった。
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Kindle版No.2783


 ワトソンとクリックよりも早くDNAの構造を「発見」したポーリング。しかし、その結論は「三重らせん」だった。なぜ彼は間違えたのか。そして、その間違いはどのように偉大だったのか。

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ポーリングの手法、考え方、そして複雑なタンパク質分子の研究で見せた過去の驚くべき成功が、ワトソンとクリックの刺激や知力の源になったことは確かである。
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Kindle版No.3049


フレッド・ホイル
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ホイルの理論そのものは大胆で、きわめて巧妙であり、当時存在していたあらゆる観測的事実とも一致していた。ホイルの過ちとは、どれだけ自説と対立する証拠を積み上げられても、自分の理論の破綻を認めようとしない、腹立たしいくらいの頑固さと、ビッグバン理論に対しては厳しく定常理論に対しては甘い判断基準にあったといえよう。
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Kindle版No.4133


 生涯に渡ってビッグバン宇宙論を否定し、定常宇宙論を擁護し続けたフレッド・ホイル。偉大なる奇人天才はなぜ定常宇宙に固執したのか、そしてそれが現代宇宙論をどのように前進させていったのか、その壮大な歴史が語られます。

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 かつて、リース卿はホイルについて、「彼の世代でもっともクリエイティブで独創的な天体物理学者」と表現した。私も一介の天体物理学者として、この意見に心から賛成だ。ホイルの理論は、たとえ結局は間違いだとわかったものであっても、常に刺激的であり、間違いなく分野全体を盛り上げ、新しい説の生まれる引き金になった。
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Kindle版No.4258


アルベルト・アインシュタイン
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宇宙定数によって静的宇宙が実現すると考えたのは悔やまれるミスに違いないが、本書で紹介するほど大きな“過ち”には当てはまらないだろう。アインシュタインの本当の過ちとは、宇宙定数を取り去ったことだったのである!
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Kindle版No.5104


 アインシュタインが一般相対性理論の公式に付け加えた宇宙定数。後にそれは取り去られ、さらに本人の死後にまた不死鳥のように蘇ることになりました。静的宇宙から膨張する宇宙へ、加速膨張する宇宙、インフレーション、ダークエネルギー。宇宙論が発展していく上で、アインシュタインの宇宙定数はどのような役割を果たしたのでしょうか。

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 アインシュタイン自身は間違いなく、どちらの種類の誤りも犯したが、彼の比類なき物理的洞察力のおかげで、多くの場合は正しい道を歩んだ。残念ながら、われわれ凡人には、彼のような才能をまねることも、獲得することもできない。
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Kindle版No.5129


 五人の天才科学者の物語はどれも、主題となる「失敗」だけでなく、当時の状況やそこに至るまでの議論、その後の展開など詳しく解説されており、それだけ取り出してもサイエンス本として読みごたえがあります。文章も読みやすい。

 また科学史上の謎や通説(アインシュタインは宇宙定数の導入を「最大の過ち」と本当に言ったのか、ケルヴィン卿の計算結果が正しくなかった主な原因は放射性崩壊熱だという通説は本当か、ルメートルの論文の英訳で「ハッブル定数」を算出した段落を削除した犯人は誰か、など)を自ら徹底調査して真相を明らかにしてゆくくだりは、歴史ミステリを読んでいるような興奮に包まれます。

 というわけで、通読することで「科学の目標は、間違わないことではなく、間違いを正してゆくことだ」ということがよく分かります。間違いを恐れない意志と洞察力、そして間違いを認める勇気と柔軟性、それらが合わさって科学を前進させてゆくのだと。科学者のイメージを大きく変えてくれる、優れたポピュラーサイエンス本です。


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 私が本書で追い、描いてきた五人の人物は、過ちを犯したにもかかわらず、いや、もしかすると犯したからこそ、各々の科学分野の中で革新を巻き起こしただけでなく、非常に優れた知的創造物をも生み出してきた。同じ学問分野の専門家だけをターゲットにした多くの科学研究とは異なり、五人の巨人たちが生み出したものは、科学と一般教養の垣根を越えた。彼らのアイデアの影響は、直接的な意義をもたらした生物学、地質学、物理学、化学のはるか先にまで及んでいる。そういう意味では、ダーウィン、ケルヴィン、ポーリング、ホイル、アインシュタインの研究は、どちらかというと文学、芸術、音楽における功績と性質的に近い。どちらも幅広い知識に影響を及ぼすのだ。
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Kindle版No.5214


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『2014 PSI白書』(一般社団法人潜在科学研究所) [読書(オカルト)]

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 当法人では、UFOや超能力、UMAなど、「超常現象」と呼ばれる現象全般について、情報収集や分析を行っております。(中略)
このたび、平成26年を通じた関連報道に基づいて、「2014PSI白書」をとりまとめ、ご参考までにこの分野に関心のある方々のご高覧に供することとしました。
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白書p.2


 PSI(一般社団法人潜在科学研究所)から発行された『2014 PSI白書』(2015年2月20日発行)を入手しましたので、内容を簡単にご紹介いたします。

 まずは「まえがき」「活動報告」に続いて、「2014年の超常現象関連報道一覧」が23ページ分掲載されています。これは、2014年に報道された超常現象関連記事173本を、1月から12月まで時系列順に整理したものです。それぞれの記事にはソースと日付が明記されており、追跡調査に便利。ソースが「ロシアの声」だったりすると、ほっとしますね。

・船井幸雄氏死去(1月)
・6年絶食のダイオウグソクムシが死亡(2月)
・アップル・マップにネッシーらしき姿が写っているのを発見(3月)
・フィギュアスケートの羽生結弦がつけているペンダントの秘密(4月)
・山形大学のチームがナスカで新たな地上絵を発見(5月)
・高周波活性オーロラ調査プログラム「HAARP」閉鎖、陰謀論者に衝撃(6月)
・沖ノ島の海底に人工的な階段や壁、広場のようなものを発見(7月)
・ムービングロックの謎解明(8月)
・ストーンヘンジ周辺地下で新たな建造物群発見(9月)
・アイスランドのUMA、ラーガルフリョゥト・ワームの映像が本物と判定される(10月)
・磁石人間になったロシアの少年(11月)
・ノストラダムスの2015年の予言公表(12月)

 こんな感じの記事(一部記事には解説や分析つき)が173本もずらりと並んでいる様は壮観。あー、あったあった。でも、「これ去年の話題だっけ?」と驚いてしまうことも度々で、オカルト・超常現象に関する記憶の風化がいかに早いか痛感させられます。

 続いて「2014年の超常現象関連番組一覧」はタイトル通り。今でも平均して毎週何本か放映されている、というのは結構意外でした。

 そして「2014年のUFO・異星人関連報道」14ページ分。これは前述の「2014年の超常現象関連報道一覧」からUFO・異星人関連ネタだけを集めたもの。「便宜上まっとうな異星人関係報道も含めた」(白書p.35)とあり、そうではない報道が大半だと暗黙に示しているのが微笑ましい。

・元CIA職員スノーデンが「米国はエイリアンに支配されている」と証言(1月)
・全国で相次ぐ目撃情報「UFO祭り」の謎(2月)
・行方不明のマレーシア航空機、月面で発見される(3月)
・プラモデル「アダムスキー型UFO」発売(4月)
・火星で木製の十字架が発見される(5月)
・火星で17年間暮らした米国の元海兵隊員が、火星人との戦闘について証言(6月)
・インドでUFO や異星人を描いた1万年前の岩絵が発見される(7月)
・火星で人間の大腿骨発見(8月)
・ドイツ南部にひさしぶりにミステリーサークルが出現(9月)
・エアバスのパイロットが高度1,000メートル上空で空飛ぶ人間を目撃(10月)
・ポルトガルにエンジェルヘアーが降る(11月)
・地球外生命が日本の原発を監視(12月)

 続いて「2014年の予言検証」では、話題になった予言者が「2014年に起こる」と予言した事件を並べて、的中したか否かを判定。さらに特別企画「2014年 FIFAワールドカップの予言」として、ブラジルW杯に関する予言および的中判定をずらりと掲載。やっぱタコ最強だなタコ。

 特別記事として、八甲田雪中行軍遭難事件現場の近くにある無人の別荘から深夜に119番通報があったという事件(6月)の顛末について書かれたエッセイ『無言の119番電話』(若島利和)。

 オマケとして、過去の予言研究の成果をもとに作成された「2015年大予言」がついています。これは作成者が「的中率には自信を持っている。来年の検証を楽しみにしてもらいたい」(白書p.72)とうそぶくだけのことはある代物。

・日本でマグニチュード6クラスの地震が発生する
・日本で健康情報番組が人気となる
・中国で何か重要な事件が起きる
・火星の写真に奇妙な物体が発見される
・地球に衝突する恐れのある新しい小惑星が発見される
・ある程度の規模の水難事故が起き、死者が何人も出る
・2015年のアセンションはない。第三次世界大戦も発生しない。

など、はなっからリスクを負う気がない「予言」が並んでいます。もちろん予言者の皆さんに対する厭味なんでしょうけど。

 というわけで、数年もたてばすぐに忘れて散逸してしまうオカルト・超常現象まわりの時事情報まとめとして保存しておきたい一冊。お問い合わせは、以下のホームページに掲載されている連絡先までどうぞ。

一般社団法人潜在科学研究所
http://www.zf.em-net.ne.jp/~senzaikagaku/


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