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『オーロラのお針子』(藤本玲未) [読書(小説・詩)]

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小鳥ことりは食べられる小鳥ことりと月夜の列車はゆくよ
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人生の謎すきとおる8月の魚の骨のきれいな宇宙
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糸電話片手に渋谷ぶらついてこちら思春期はやく死にたい
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 思春期の始まりと終わり。持て余す若さを焼きつけたような鮮烈な歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2014年9月です。


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糸電話片手に渋谷ぶらついてこちら思春期はやく死にたい
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あたしすぐ死にたくなるから網棚の上でお願い寝かせておいて
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夏服に着替えた朝はこれまでを忘れてひとりちょっと死にたい
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もし明日会ったら死ねって云われるしなにはなくとも屋上へ行く
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鍵盤はよく眠れますあの椅子のこころもとない感じもいいし
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あのひとの生徒手帳の隙間からふる雪ですよ しにますよ ねえ
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ふと道でしゃがみたくなる月曜日どんな言い訳だってさみしい
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 友だちと喧嘩しても、夏が来ても、月曜日でも、恋をしても、とにかくこちら思春期はやく死にたい。避けて通ることは出来ない思春期のあまりの酷さに、すぐ死にたいと思ってしまう私たち。


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右側がいつも微熱の帰り道今日はときおり傘が触れあう
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これはもう大荒れだから真夜中のコンビニでほら、座って話そ
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窮屈な家から出ちゃえぼくたちはSuicaで月へ行こうじゃないか
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ほんとうは、ではじまることは愚痴にしかならないからさ手紙燃やすね
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 恋愛も、ういういしいわけです、思春期。でも、思春期の避け得ない本質とは、それが終わってしまうこと。死にたがっているうちに終わってしまい、もう二度とやって来ないということ。


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小鳥ことりは食べられる小鳥ことりと月夜の列車はゆくよ
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人生の謎すきとおる8月の魚の骨のきれいな宇宙
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あたらしいことはうれしい畦道を自転車でゆく日々のたしかさ
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はらわたは空洞だったあの夏の蝉に似ている将来のこと
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 苦しく切なく悔しい恋愛を経て、そうして思春期が終わるのです。


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アマゾンのカートを押してあのひとの夜明けに間に合います合わせます
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それでは。で終わる手紙を眺めつつ月の荒野にガソリンを撒く
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肉体の透ける間にたましいが月で養殖されるのを待つ
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ありったけやさしさつれていきなさい世界はあなたを救わないから
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ぶどうひとつぶを机に置いていくわたしの風はこれからよわい
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マンホールにひとりひとつのぬいぐるみ置いてこの星だいすきだった
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 というわけで、思春期のはじまりと終わりを見事にとらえた歌集です。読んでいるだけで息が詰まり、「若さ」という呪いに同情しつつ、でも羨ましいと思ってしまいます。


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