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『機龍警察〔完全版〕』(月村了衛) [読書(SF)]

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 屈辱や汚名を雪ぐため、己の罪を贖うため、あるいは自身の有用性を証明するため、彼らは闘争に身を投じる。そこに生じる感情の力学が冒険小説という物語を駆動させる。読む者を昂奮させる。(中略)シリーズの以降の作品を通過したあとに本作を読むと、ライザやユーリや緑の戦いの背後に彼らの過去が重なり、冒険小説としての興趣が増幅される。平たく言えば、泣くのだ。
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Kindle版No.4713、4724

 戦闘メカアクションと重厚な警察小説を見事に融合させ、SF、ミステリ、警察小説、冒険小説、どのジャンルの読者も満足させる人気シリーズ『機龍警察』。その原点たる第一長篇に、これまでに発表されたインタビュー、自作解説、評論などを追加した完全版。単行本(早川書房)出版は、2014年11月、Kindle版配信は2015年3月です。


 凶悪化の一途をたどる機甲兵装(軍用パワードスーツ)犯罪に対抗するために特設された、刑事部・公安部などいずれの部局にも属さない、専従捜査員と突入要員を擁する警視庁特捜部SIPD(ポリス・ドラグーン)。通称「機龍警察」。

 龍機兵(ドラグーン)と呼ばれる三体の次世代機を駆使する特捜部は、元テロリストやプロの傭兵など警察組織と馴染まないメンバーをも積極的に雇用し、もはや軍事作戦と区別のなくなった凶悪犯罪やテロに立ち向かう。だがそれゆえに既存の警察組織とは極端に折り合いが悪く、むしろ目の敵とされていた。だが、特捜部にとって真の〈敵〉は、警察機構の上層部に潜んでいた……。


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我々はこの敵と戦う。我々だけが戦える。それが警視庁特捜部だ。
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Kindle版No.3950


 というわけで、本書は「機龍警察」シリーズの原点である第一長篇に、著者によるエッセイやインタビューなどを追加したものです。

 後の作品を読んで、登場人物たちの過去や人となりを理解してから再読すると、最初に読んだときよりもさらに強く引き込まれます。細かい伏線や、後の展開のための引き等にも気付き、否が応にも盛り上がる昂奮、そして高揚感。


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日本はどんどん薄気味の悪い国になっている。俺はな宮近、これからもっともっと異常なこと……そうだ、今までの常識では考えもつかないようなことが起きるような気がするんだ、この日本でな。
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Kindle版No.1044


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分からんのか、その方が君らのためでもあると言ってるんだ。それでなくても警察内部では特捜部の評判は悪い。いや、憎まれてると言ってもいい。
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Kindle版No.323


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従来のテクノロジーをはるかに超える機体を日本警察が突然持ち得たという事実は不可解という他ない。(中略)開発者及び開発過程を含めすべて極秘。なんなんですか、これは。
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Kindle版No.1385


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三機の龍機兵の中で最大の火力と大量殺傷能力を持つバンシー。私はあの機体が憎い。なのに一番愛着を感じてしまう。(中略)バンシーに乗れるのは確かにあの女(ひと)しかいない……上手く説明できませんが、分かるんです、はっきりと。悔しいんです、そんな自分が。
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Kindle版No.1853


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あの娘は私を憎んでいる。当然だ。なのになぜここまでできるのだろう? バンシーに乗るのは私だというのに。(中略)あの娘にほんの少しの勇気があったなら。いや、勇気の問題ではない。あの娘は勇気がある。
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Kindle版No.3746


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自分も、その、なんと言うか、偉そうに言えた身ではありません。恥ずかしながら荒れていた時期もあります。それでも今は警察官であることに誇りを持っています。(中略)先ほどの警部のお言葉で自分は確信しました。少なくとも今の警部はれっきとした警察官だと。
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Kindle版No.3397


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 自分は戻れるだろうか。初めて刑事を拝命したあの頃に。
 分かっている。その答えは、今を生き抜いてつかむしかない。
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Kindle版No.3668


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部長。だから俺はあのときあんたに訊いた。そんな気がしたんだ。あんたはそれくらいやる人だ。もっとも、そういう指揮官でなければ俺はついていきませんけどね。
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Kindle版No.1083


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危険な橋だが、我々はどんな手を使ってもこれを渡り切る。すべてを覚悟して立ち上げた特捜部だ。
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Kindle版No.553


 各人のセリフを抜き出しただけで、誰がどういう状況で口にしたものか、後の展開でそれがどのように展開してゆくのか、次々と思い出されてきて、じーんと来てしまいます。

 著者自身による解説や、評論なども抜け目なく収録されており、「完全版」と銘打つだけのことはあります。旧版を持っている方も、ちょうどいい再読の機会だと思って、改めて購入するだけの価値はあります。

 なお、後の作品の内容についても書かれているため、本書からシリーズを読み始めようという方は、とりあえず付録には目を通さない(第四長篇を読んでから本書に戻る)方がいいかも知れません。


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警視庁が突入要員として外部の傭兵と契約する、しかもうちひとりはテロリストである----どう考えてもあり得ない状況を〈アリ〉とするにはどうすればいいか。そこで思いついたのが機甲兵装というガジェットであり、〈自爆条項〉を含む契約です。(中略)
 荒唐無稽なフィクションを血の通うエンタテインメントとして最良の形に結実せしむるには、リアルな現実認識と、社会の狭間であがく個人の人間像、怨念や情念といったものの描写とが必要である、というのがかねてよりの私の考えでありました。〈リアルな荒唐無稽〉こそ無敵である、と言ってもいいでしょうか。フィクションでなければ伝えられない何かを伝える、という意味でも。
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Kindle版No.4089、4103


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初心を忘れず、自分を偽らず、ひたすらに手に汗握る、波瀾万丈の物語を綴っていきたいと思います。胸躍る、そして同時に途轍もなく苦い〈現代〉の物語です。
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Kindle版No.4142


タグ:月村了衛
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