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『化学で「透明人間」になれますか? 人類の夢をかなえる最新研究15』(佐藤健太郎) [読書(サイエンス)]

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人類の夢をかなえるには、今まであるものを組み合わせるだけでは足りません。夢の実現には、どうしても根本的に新しい「もの」を創り出すことが必要ですが、それができるのは化学をおいて他にありません。
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Kindle版No.18

 地味な研究分野だと思われがちな化学。しかし、原子を操ってこれまで存在しなかった物質を一から作り出す化学は、とてつもない夢を実現する力を秘めている。最先端の化学研究を一般向けに分かりやすく紹介する一冊。新書版(光文社)出版は2014年12月、Kindle版配信は2015年1月です。


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 環境問題、貧困、資源枯渇、レアメタル問題、食糧増産など、人類の前にはいくつもの課題が横たわっています。まだこの世にないものを創り出す力を持つ「化学」は、これらの大きな課題を解決する先兵となることでしょう。この分野に関心を持ち、先行きを期待して見守っていただければ、と思います。
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Kindle版No.2870


 化学の最先端研究を一般向けに分かりやすく紹介してくれる本です。例えば、こんな感じで最新トピックスがぎっしり詰まっています。


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一本打てば15~30分間、呼吸せずに生存できる酸素注射ってのが最近発表された。(中略)
2~4マイクロメートルサイズの酸素の「泡」を静脈に注射することで、15~30分の間、血中酸素濃度が一定に保たれることが示されている。
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Kindle版No.1705


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現在の記録保持者は「ラグドゥネーム」という化合物で、砂糖の22万倍ほど甘いらしい。大さじ1杯のラグドゥネームが、砂糖2トンに匹敵する計算になる。
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Kindle版No.2051


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ボトリオコッカスとオーランチオキトリウムを組み合わせて、さらに効率よく油を生産する方法も研究されている。(中略)これにより、石油に近い価格で製造できる目処が立ってきた。日本国内の休耕田の5パーセントをこれに振り向ければ、国内で使う石油をすべてまかなえる計算になる。
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Kindle版No.2821


 海水から金やレアメタルなどの元素を取り出す、格安で宇宙旅行する、地球温暖化を止める、エネルギー問題を解決する、といった大きな目標から、人工ダイヤモンド、ゼリー状の水、透明マント、強力な調味料まで、便利な新物質を作り出す研究。

 医学まわりでは、細胞の老化を防ぐ技術、美容技術、惚れ薬、痩せ薬、知能向上薬、花粉症や風邪やガンの治療、など。

 様々な「夢」を目指す化学研究が、今どこまで成果が出ているのかが分かります。

 かたい論文調の文章ではなく、会話の形式で書かれているので、気楽に読むことが出来ます。例えば、こんな感じ。


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館員 ダイヤモンド工具を作る職人さんには、神業レベルの人がいます。指先の感覚ひとつで、5万分の1ミリメートルレベルの凹凸を検知するそうです。
博士 えっ! 電子顕微鏡レベルでしょ、それは。信じられん……。
館員 聴力障害を持っている方が多いそうで、指先の感覚が発達したんでしょうか。すごいものです。
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Kindle版No.980


 大半の会話は博士とその奥さんとの間で交わされているのですが、読者に親しみを持ってもらおうという工夫が、どうにも昭和くさいというか、そこはいただけません。妻がすぐに宝石や貴金属をねだるとか、乳がんの心配をする妻に博士が「大丈夫だよ。ほら、乳がんは胸の大きい人がなりやすいって」(Kindle版No.2284)とセクハラ発言かましたり。あかん。

 ちなみに、ところどころ「こぼれ話」的なコラムが挿入されています。これも意外に面白い。


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 複雑な化合物の見事な合成を見ると、よくできたパズルや詰将棋を味わうのに似た感動があり、しばしば芸術作品にもたとえられます。昔は数十工程かけて作った化合物が、今は十工程以下で出来上がるなど、技術的にも大いに進歩しています。
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Kindle版No.1026


 というわけで、全体的な印象はNHK教育番組「サイエンスZERO」の感じ。会話に点在する古くさい「ユーモア」はちょっと勘弁して下さいですが、内容的には非常に面白く、最先端研究の話題に興味がある方にはお勧めです。


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