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『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』(川上和人) [読書(サイエンス)]

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 世のなかには2種類の人間がいる。恐竜学者と鳥類学者だ。
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Kindle版No.11

 鳥は恐竜の子孫だというのは今や常識。ならば、化石からは判断できない恐竜の生態も、鳥類のそれから類推できるのではないか。鳥類学者が知られざる恐竜の謎について大胆に推理する魅惑的な恐竜本。単行本(技術評論社)出版は2013年4月、Kindle版配信は2013年10月です。


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 本屋で愕然とした。大手出版社の図鑑で、鳥より先に恐竜の巻が出版されていたのだ。これは由々しき事態だ。なんとかしなくてはならない。(中略)先に鳥の図鑑だろ、普通。(中略)
鳥は特殊な趣味のように見られがちで、鳥類学の裾野はなかなか広がらない。ならば、恐竜人気に便乗するしかないじゃあないか。
 このような経緯が、本書を書き進める原動力となった。
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Kindle版No.4082


 鳥の専門家が恐竜について語ってもいいじゃないか。恐竜といえば鳥も同然なんだから。というわけで。


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現代社会において、鳥類が恐竜から進化してきたことを疑うことは容易ではない。というか、疑ってもらっては困る。なぜならば、この本は鳥類が恐竜から進化してきたことを大前提に書いているからだ。
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Kindle版No.15

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外見や行動、系統関係など、生物として興味深い津々浦々について、化石という断片的な証拠は決定的な解答を与えてくれない。だからこそ、私のような門外漢がしたり顔で妄想を語り、だってそうかもしれないジャン! と開き直ることも可能となる。この包容力こそが、恐竜人気の真髄である。
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Kindle版No.42

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この本では断片的な事実から針小棒大、御都合主義をまかり通すこともしばしば見受けられる。あくまでも、鳥の研究者が現生鳥類の形態や生態を介して恐竜の生活をプロファイリングした御伽噺だと、覚悟して読んでほしい。(中略)
包括的な大いなる愛をもって、ほころびに目をつぶり無批判に読み進めてほしい。愛とは、信じることと許すことである。言い訳と開き直りは、もう充分にお伝えできたはずだ。
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Kindle版No.51、69

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 小心者は批判に弱く、簡単に心が折れることも忘れないでほしい。くれぐれも、本書に関する批判的感想は、編集部への手紙はおろか個人のブログにも載せず、心の片隅にこぢんまりと収納していただきたい。
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Kindle版No.4123


 大胆な推理、開き直った断定、そして言い訳の山。個性的な恐竜本です。内容は非常に面白く、化石証拠からは判断できないため一般に恐竜本では深く追求されない問題についても「だって鳥だもの」ということでぐいぐいっと踏み込んでゆく姿勢に喝采。

 その恐竜愛に満ちた「無謀」さと、特定世代をぷんぷん感じさせるしつこい「ユーモア」には、まことに頭が下がる思いです。恐竜好きには是非読んで頂きたい好著です。(著者の強い希望により批判的感想は極力差し控えました)


「序章 恐竜が世界に産声をあげる」

 最初に、恐竜に関する情報をおさらいします。まずは恐竜学の基礎(第1章)から。


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恐竜が爬虫類であることは、発見当初から異論がなく認められてきたことだ。クラゲの仲間だと思っていたという人には、この本の内容は衝撃的すぎるので、ここで本を閉じてもらいたい。
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Kindle版No.358


 そして話題は恐竜研究の歴史(第2章)へ。


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 1824年に巨大爬虫類としてのっしのっしと歩きはじめた恐竜は、いつしか尾を支えとして2本足で立ち上がり、やがて尾を上げて駆け巡り、今では羽毛にまみれる日々だ。わずか180年の間に、とんでもない成長を遂げている。この勢いで行けば、目から怪光線を発する日も遠くない。
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Kindle版No.597


「第1章 恐竜はやがて鳥になった」

 鳥類が恐竜の子孫であるというのは、どういうことでしょうか。まずは生物種の分類とは何か(第1章)から始まって、恐竜学の現在(第2章)、鳥類と恐竜の類縁関係がいかにして明らかになったのか(第3章)、羽毛恐竜の発見により何が分かったか(第4章)、という順番で分かりやすく解説してゆきます。


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 今でこそ、鳥が恐竜から進化してきたことは、多くの研究者の共通認識となっている。しかし、ここに至る道は平坦ではなかった。鳥類が恐竜起源だということは、鳥類は恐竜の一系統であり、恐竜は絶滅していないことになる。(中略)
発見当初から、絶滅、絶滅といわれ続けて神秘性を誇った恐竜である。今更、じつは絶滅していませんでした、とはいいだしにくい。恐竜起源説が受け入れられるまで、多くの保守的な反論にさらされたのも無理のないことだ。
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Kindle版No.901

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鳥が恐竜の一系統であるとなると、現生鳥類を調べることによって、恐竜の生活をより信頼性高く類推することが可能となるということである。
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Kindle版No.1024


「第2章 鳥は大空の覇者となった」

 鳥と恐竜の身体構造にはどのような類似点が見られるのでしょうか。まずは鳥の身体構造(第1章)から始まって、飛翔に使われる前に進化した羽毛は恐竜にとってどのようなメリットがあったのか(第2章)、鳥類と恐竜に共通する「二足歩行」にはどのような意義があるか(第3章)という具合に進みます。

 続いてシソチョウ(始祖鳥)(第4章)と翼竜(第5章)をそれぞれ鳥類と比較し、なぜ恐竜には立派な尾があるのか(第6章)、消化器官とくちばし(第7章)の比較という話題へ。


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 行動は形態を進化させる。しかし、行動は必ずしも形態に束縛されない。たとえ最適な形態をもっていない場合でも、鳥類はそれを乗り越える潜在能力をもつ。形態から、その性能を見くびるのは、彼らに失礼だ。
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Kindle版No.1658

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 進化を考える上で、どんなことでも起こり得ると考えると御伽話となってしまう。しかしだからといって、いつもいつも最も合理的かつ節約的に考える必要はない。生物進化の実像に迫るためには、節度あるバランス感覚をもって単純な合理性の向こう側にある真実を探求していく必要があるのだ。
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Kindle版No.1387

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いずれ充分な化石証拠がそろった暁には、本当は最初からそう思ってましたよと自信満々に手のひらを裏返す準備もまた万端である。
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Kindle版No.1421


「第3章 無謀にも鳥から恐竜を考える」

 鳥の生態をもとに、恐竜の生態を大胆に推理する第3章。ここが、本書の最大の読み所といえるでしょう。

 恐竜行動学(第1章)、恐竜の色(第2章、第3章)、恐竜の鳴き声(第4章)、恐竜の毒(第5章)、恐竜の食事(第6章)、恐竜の渡り(第7章)、恐竜の歩行(第8章)、恐竜は樹上に営巣したか(第9章)、恐竜の子育て(第10章)、夜行性恐竜はいたか(第11章)。

 化石からは判断できない難問を、鳥類との比較という観点から探求してゆきます。次から次へと「なるほど」と膝を打つような魅力的な妄想、いや願望、いやいや仮説が提示され、否が応にも盛り上がる恐竜熱。

 それなりに慎重に学術的に議論を進めておいて、最後は開き直ってずばっと断定。そのバランスがまことに心地好い。


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恐竜の場合は、手にする図鑑によって、描かれている恐竜の姿が異なってしまうのだ。このため、恐竜の野外観察を志す若者達の怨嗟の声がこだますることになる。これでは、万が一野外で野生の恐竜を見つけた場合に、図鑑と見比べても種類がわからないじゃないか!
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Kindle版No.2266

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あの格好で飛べなかったら詐欺だ。科学的論拠はさておき、私はシソチョウは飛べたと直感的に信じている。
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Kindle版No.1559

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ある恐竜は、尺八のように音程を変えながら鳴く。ある恐竜は、オカリナのような声で、プゥーゥ、プゥーゥと繰り返し鳴き続ける。特に根拠はないが、多分そうだ。
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Kindle版No.3517


「第4章 恐竜は無邪気に生態系を構築する」

 恐竜と生態系の関わり合いについて考えてゆきます。食物連鎖における恐竜の役割(第1章)、恐竜の「通り道」は生態系にどのような影響を与えたか(第2章)、恐竜絶滅後のニッチはどのような状態にあったのか(第3章)、といった意外性のある話題が次々と。


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見えそうで見えないミステリアスさが美女と恐竜の共通点であり、その最大の魅力なのである。本章を執筆する過程で、化石にすべてが記録されていないことが、恐竜が備える最大の武器と改めて気づかされた。
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Kindle版No.3536

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感謝の気持ちがふつふつとわいてきた。もう白亜紀に足を向けて寝ることはできない。
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Kindle版No.3669


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