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『地球の変動はどこまで宇宙で解明できるか 太陽活動から読み解く地球の過去・現在・未来』(宮原ひろ子) [読書(サイエンス)]

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 地球の複雑な気候変動や地球史上の未解決の大事件は、どこまで、地球の外=宇宙からの影響で解明できるのでしょうか。宇宙気候学では、そのような問いに答えるため、地球を取り巻く太陽圏環境やそれを支配する太陽の物理、そして太陽圏を取り巻く宇宙環境の変動の解明に取り組んでいます。そして宇宙と地球とをつなぐ宇宙線の役割を解き明かそうとしています。
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単行本p.203

 天候、気温、さらには氷河期のサイクルや生物大絶滅期まで。地球の気候には、太陽の磁場変動、超新星爆発から放出される高エネルギー粒子、銀河系の回転運動など、宇宙規模の環境が大きな影響を与えているのかも知れない。驚愕の発見が相次ぐ「宇宙気候学」の研究を、一般向けに紹介してくれる一冊。単行本(化学同人)出版は2014年8月です。

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 「宇宙気候学」という言葉ができたのはまだごく最近のことです。(中略)
地球が宇宙とつながっていて宇宙からの影響を受けているという視点で地球の変動をとらえようとする試みが本格化したのは、ここ十数年のことです。宇宙がどうやって地球に影響するのか、話はそれほど簡単ではなかったのです。
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単行本p.1

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地球の変動と宇宙現象のつながりを示すデータが数多く得られてきています。それによって、両者の関係性は少しずつ確信へと変わりつつあります。(中略)
 宇宙気候学は、非常に多くの分野にまたがる巨大かつ複雑なジグソーパズルのような分野ですが、宇宙に目を向け、そのピースを少しずつ埋めていくことで地球の未解決の問題がすっきりと解けるかもしれません。本書でその面白さと大いなる可能性に思いを馳せていただけたらと思います。
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単行本p.4、5

 
 地球の気候は「宇宙天気」から大きな影響を受けている。新しい研究分野である宇宙気候学の驚くべき研究内容がたっぷり語られます。

 テーマは、太陽活動の周期から始まって、高エネルギー宇宙線、銀河運動へと進み、「地球はいつまでハビタブルゾーンにいられるか」という問いかけにまで及びます。実際の研究手法は、屋久杉から海底地層、南極の氷、月面地下、探査衛星まで広がります。

 というわけで、最初の話題は太陽活動の変動と地球気候について。


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太陽活動が地球に影響するという考えは、長らくそれほど重要視されることはありませんでした。しかし、2001年、太陽活動が気候の長期的な変動に重大な影響を及ぼしているということを示す決定的なデータが、コロンビア大学のボンドらによって科学雑誌『サイエンス』に発表され、状況は一変しました。北大西洋の海底から採取された地層のコアに残された氷河性堆積物の量が、太陽活動の1000年スケールの変動と非常によく一致していることがわかったのです。
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単行本p.119

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実は17世紀に黒点の観測が始まってすぐの頃、太陽物理学において現在でも解明されていない重大な出来事が起こっていたのです。それが「マウンダー極小期」です。(中略)1645年に始まったこのマウンダー極小期は、1700年頃にようやく終焉の兆しを見せ始め、1715年頃に終わりを迎えます。
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単行本p.28、29


 氷河の増減、つまり地球の平均気温の変動が、太陽活動の変動と連動している。特に顕著なのは、太陽の活動が少なくなる時期(極小期)には地球に小氷期がやってくるという発見です。当然、農作物は打撃を受け、飢饉と寒冷化によって人間の活動にも甚大な影響がありました。


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フランス、ドイツ、フィンランドなどで数十万~数百万単位での死者が報告されています
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単行本p.126

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サクラの開花日の推移をたどり、中世から現代にかけての毎年の気温を復元していますが、小氷期で京都の冬気温が2.5度程度低下していたことが示されています
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単行本p.127

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農業を基盤としていた時代の中国王朝の盛衰が、気候の変動と密接にリンクしていたという興味深い研究結果も報告されています
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単行本p.127

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気候変動と紛争については、最近さらに研究が進み、南米やアフリカ、東南アジアなど、エルニーニョの影響を強く受けやすい地域で、気候の変化にともなって内乱が2倍に増加するという統計も報告されました
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単行本p.128


 ですから研究者は、必死で太陽活動変動、特にマウンダー極小期について調べてきました。老木の年輪に含まれる放射性同位体の変化から始まって、サンゴの年輪や南極の氷、湖の堆積物、地中の温度勾配、さらに古日記などの文献調査から月面地下の温度勾配測定まで、あらゆる手を尽くして、当時の気候データを再現するのです。

 そして今、太陽活動が200年ぶりに顕著な低下を示しています。マウンダー極小期の前に起きていた「太陽周期のずれ」も観測されました。こ、これはもしや……。


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 2007年の春に開催された学会で、ひょっとするとひょっとするかもしれないなどと笑いながら話していたのが、2008年の春の学会ではみなの表情が一変していた記憶があります。
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単行本p.181

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1996年の極小期とそれほど変わらないだろうと予想されていた日射量も、1996年に比べて大きく落ち込んでしまい、2009年には太陽風も観測史上最低レベルになり、そして2010年の初めには、宇宙線の強度が史上最強のレベルに到達しました。それまでの記録をさらに6パーセントも塗り替えるほど急激に宇宙線が増加したのです。これほどまでの太陽活動の低下は誰も予想できていませんでした。
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単行本p.182

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 今後太陽活動がさらに低下することがあれば、一時的ではありますがさまざまな影響が見られるだろうと考えられます。ただし、温室効果ガスの増加や都市化の影響など、人間活動との影響を切り分けるのは非常に難しいといえます。
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単行本p.189


 結局、地球は温暖化するの、それとも寒冷化するの、と、おろおろしてしまいそうですが、そんな単純な問題ではないことはよく理解できます。影響が大きいだけに、地道に研究を続けてゆくことが大切。

 さらに太陽活動が地球に及ぼす影響については、太陽フレアで放出される荷電粒子の影響や、逆に惑星の動きが太陽活動に影響しているのではないかという驚くべき仮説など、様々な研究テーマが紹介されます。そして、話題はさらに広がってゆきます。


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1997年にデンマークのフリス・クリステンセンとスベンスマルクは、銀河宇宙線の変動と地球をおおう雲の量がよく一致しているという驚くべき論文を発表しました。(中略)日射よりも銀河宇宙線の変動に雲の変動が同期しているというものでした。
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単行本p.132


 超新星爆発で発生する銀河宇宙線が、地球の気象に強い影響を与えていた。にわかには信じがたい話ですが、これに刺激を受けた研究者たちは宇宙と地球気象との関係について、次々と新たな発見をしてゆきます。


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全球凍結が発生していた24億~21億年ほど前と8億~6億年前は、天の川銀河がスターバーストを起こしていた時期で、太陽系が暗黒星雲をかすめてもおかしくない状況にあったことがわかります。そのほか、1.4億年ごとに繰り返す寒冷化のタイミングは、太陽系が銀河の腕を通過するタイミングと一致していますし、生物種の数に見られる6000万~7000万年周期という変動は、銀河の中での太陽系のアップダウン運動と関連している可能性が指摘されています。
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単行本p.157


 さらに話題は広がってゆき、地磁気変動と寒冷化の関係を説明する「プルームの冬」仮説(話題作『華竜の宮』(上田早夕里)で全球凍結メカニズムとして使われたのでSF読者にはお馴染み)、恐竜を滅ぼした巨大隕石落下と銀河スターバーストとの関係を示唆する仮説、惑星がハビタブルゾーンに留まっている期間は従来の予想よりはるかに短いのではないかという可能性(これは異星文明との接触がいまだにない「ファクトA」問題にも大きく関連します)など、頭がくらくらするほど刺激的。

 というわけで、最近になって注目を集めている「宇宙気候学」の魅力と、その地味な研究活動の両方をバランスよく紹介してくれる好著です。降雨、気温、経済といった身近なものが、太陽の磁場変動や銀河系の運動に強く影響を受けているかも知れない、という話にびびんと来たらこの一冊。


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地球の中だけに目を向けていたときには必然性がないように見えた地球史上の大事件の究極的な原因は、宇宙の環境の変化にあるのかもしれないのです。(中略)
地球を、銀河系のシステムに組み込まれているひとつの要素という大きな視点でとらえ直すことで、地球でこれまで起こったさまざまな現象の理由が明確に見えてくる可能性がありますし、さらには、今後の地球の変動をより正確に予報できるようになる可能性をも秘めています。
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単行本p.159、203