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『SFマガジン2015年4月号 ハヤカワSF文庫総解説PART1』(小田雅久仁) [読書(SF)]

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月刊最後のSFマガジンの編集を終えた夜のこと----。
「そうか、来月はSFマガジンがないのか」と、どこか寂しく、どこか手持ち無沙汰な、そしてどこか解放されたような、不思議な気持ちになりました。
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SFマガジン2015年4月号p.137


 隔月刊SFマガジン2015年4月号は、ハヤカワSF文庫の2000番『ソラリス』(スタニスワフ・レム)刊行記念ということで、特集「ハヤカワSF文庫総解説」の分割掲載がスタートしました。今号のパート1では、1番から500番までを紹介。

 また、引き続き円谷プロダクションとのコラボレーション企画、日本オリジナル短篇集の出版が予定されているケン・リュウ、小田雅久仁さんの中篇(後篇)、そして「新・航空宇宙軍史」読み切り短篇が掲載されました。


『ガニメデ守備隊』(谷甲州)
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 危機感を持ったオフェンダー2は、保澤准尉の指揮下を離れて独自の行動をとった。そして保澤准尉の望まない形で、戦闘を終結させようとしている。そうなる前に、オフェンダー2から指揮権を取りもどさなければならない。
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SFマガジン2015年4月号p.217

 SFマガジン2015年1月号掲載短篇『ギルガメッシュ要塞』の直接的な続編。タイタン防衛宇宙軍のガニメデ基地に潜入し、秘密兵器を盗み出そうとした犯罪者チームの生き残りを追撃する保澤准尉。だが、敵チームメンバーの思考を荒くトレースした人工知能は、独自の判断で「暴走」してゆく。第1次外惑星動乱終結後を舞台とする新・航空宇宙軍史、第6話。


『怪獣ルクスビグラの足型を取った男』(田中啓文)
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「もし、ルクスビグラが現れたら、足型を取ってくれ。それを『原色全怪獣大図鑑』に載せてくれ。----頼む……」
 それが、田中の最後の言葉だった。
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SFマガジン2015年4月号p.231

 70歳を過ぎてなお現役を続けていたベテラン怪獣足型採取士、田中啓文。ただ一つの心残りを弟子に託し、ついにこの世を去る。弟子は危険を省みず、無謀な足型採取作戦に挑むのであった。失われゆく怪獣文化を守るために命をかける男たちの熱いドラマが「まあ、結果としてこんな感じになってしまうというのは、これもまたひとつの「業」としか言い様がないですね」(著者コメントより。p.239)。おそらく若い世代にはたいへん伝わりにくいであろうダジャレをオチにするというのも、「業」としか言い様がありません。


『良い狩りを』(ケン・リュウ、古沢嘉通訳)
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 艶は稲妻のように跳躍した。音もなく、優雅に、香港の通りに駆けていく。自由で、野生に返って。この新時代のために作られた妖狐。
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SFマガジン2015年4月号p.254

 かつて見習いの妖怪退治師だった主人公は、美しい妖狐の娘、艶と出会う。奇妙な友情で結ばれた二人だったが、やがて時代は変わり、古い呪術や魔法は衰退してしまう。今や腕利きのエンジニアとなり、蒸気機関、機械工学、サイバネティクスといった新しい「魔法」を習得した主人公は、再会した艶の望みを、その力でかなえてやろうとするのだった。

 世界の変容と魂の再生を感動的に描いた短篇で、ごく短い枚数で聊斎志異の世界からスチームパンクへとスムーズに移行させる手際が素晴らしい傑作。


『長城〈後篇〉』小田雅久仁
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ここを出てお前が言う内世界とやらに戻ったら、そこで繰りひろげられるのは茶番ではないというわけだ。(中略)でもそこは、誰が創りあげた、何のなかの世界なのかな?
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SFマガジン2015年4月号p.367

 どこからともなく聞こえてくる「叫び」。それを聞くことの出来る者は「長城」に召集され、「夷狄」と呼ばれる得体の知れない存在に取り憑かれた人間を抹殺しなければならない。人間の悪と暴力衝動の根源に触れることで世界からはみ出し、破滅してゆく人々の姿を描くダークファンタジー中篇、その〈後篇〉。現実に対する信頼感を踏みつぶす。デビュー作『増大派に告ぐ』を思い出させる、パラノイア的雰囲気が圧倒的な作品。


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