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『あまからカルテット』(柚木麻子) [読書(小説・詩)]

 「うらやましいわ……。ピンチの時に助けてくれる仲間がいるなんて。助けて、と言えるあなたの素直さも」(Kindle版No.2394)

 恋に仕事にとそれぞれ悩みは尽きないものの、互いに助け合いながら乗り切ってゆく四人の仲間たち。女性の友情を描いた連作短篇集の電子書籍版を、Kindle Paperwhiteで読みました。単行本(文藝春秋)出版は2011年10月、文庫版出版は2013年11月、Kindle版配信は2013年12月です。

 二十代後半の女性たち四人の友情を描いた連作短篇集です。最初の四篇で登場人物を一人ずつ紹介し、最後に置かれた中篇は各自がそれぞれ自分の物語を完結させる群像劇、という構成になっています。

『恋する稲荷寿司』

 「なにそれ、ありえない。何やってんの? 超もったいない! あと二年で三十歳なんだよ? 出会いの大切さ、わかってんの?」(Kindle版No.66)

 花火大会の場で手作り稲荷寿司パックをくれた初対面の男性に一目惚れしてしまったピアノ教師の咲子。だが混雑に紛れて相手の名前も連絡先も聞き出せないままはぐれてしまう。話を聞いた友人たちは、手がかりとなる稲荷寿司(冷凍した)を手に、謎の男を手分けして見つけ出そうとするのだが・・・。シンデレラと三人の魔女が稲荷寿司にぴったり合う手を持つ王子様を捜す物語。

『はにかむ甘食』

 「一週間前、何気なく自分の名前を検索し、このスレッドを見つけて以来、由香子は料理が作れなくなった」(Kindle版No.470)

 ネットでの誹謗中傷にショックを受けて引きこもり状態になってしまった料理研究家の由香子。立ち直らせるべく、友人たちは彼女が子供だった頃の親友を捜し出そうとする。ヒントは由香子の思い出に出てくる甘食だけ。果たして、幻の甘食はどこに。

『胸さわぎのハイボール』

 「いやらしく疑っちゃうのは、あなた自身の問題だよ。いつも自分が一番じゃないと気が済まない、満里子自身の問題だよ」(Kindle版No.1103)

 大手化粧品ブランドショップに勤める美人の満里子は、恋人の浮気を疑っている。彼に特製ハイボールを飲ませている女は、どこの誰なのか。友人たちは満里子の疑いを晴らすべく、謎の女を捜すが・・・。

『てんてこ舞いにラー油』

 「今まで、できない人の気持ちなんてわからなかった。正直、皆のことも、甘えているとか努力が足りない、と思ったことも何度もあるよ。本当に嫌なやつだよね。でもね、今初めてわかったよ。私こそが駄目な人間だし、弱いんだって」(Kindle版No.1599)

 仲間のリーダー格である編集者の薫子は、仕事に忙殺されて家庭のことを顧みる余裕をなくしていた。何もかもが空回りして疲れ果てた彼女は、仕事を辞めようとまで思い詰める。そんなとき、彼女に送り届けられた謎のラー油。誰が、何のために。例によって友人たちの詮索、じゃなかった探索が始まった。

『おせちでカルテット』

 「それぞれ、きっと大変な夜を過ごしたのだろう。でも、きっと自分にとってベストなやり方で、切り抜けたのだ。三人の充実した表情を見れば、確かめなくてもそれがわかる。長い付き合いのたまものだ」(Kindle版No.2662)
 
 おせち料理をそれぞれ分担して用意し、大晦日に集まって四段組重の豪華おせちを完成させる約束をした四人。しかし当日は大雪に見舞われ交通機関が大混乱。しかも各自がそれぞれ窮地に陥ってしまう。「四人で一人」と誓い合った仲間と離ればなれになったまま、それぞれの難題に立ち向かってゆく四人。果たして全員が揃い、四段重おせちを完成させることが出来るだろうか。

 正直、最初の四話は展開が強引な上に登場人物も類型的に感じられ、さほど印象に残らないのですが、さすがに最終話は盛り上がります。

 何の準備もしてないところに義母が訪ねてきた、セキュリティシステムのせいで倉庫に閉じ込められた、再会した昔の恋人に旅館に連れ込まれた、元旦特別番組収録の準備が台無しになった。微妙な絶体絶命感が妙におかしく、それを各人各様のやり方と個性で切り抜けてゆく展開は、まるで海外ドラマのよう。大いに楽しめます。

 思春期の激しく揺れ動く心理を丁寧にえがいた『終点のあの子』の作風とは違いますが、こういう大味で軽い感触の作品も悪くないなー、と思います。


タグ:柚木麻子
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