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『幽界森娘異聞(講談社文芸文庫版)』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

 「彼女は私よりずっと愛される作家、私は愛されるよりも必要とされる作家、でも同じ世間に向かい合って、似たような風を今も受けているよ。幽明境を異にしても内面から肉声を放つ作家同士、趣こそちがっても騒音に消されがち」(文芸文庫版p.309)

 「論争歴も不発分まで入れれば既に二十年を越え、あちこちから追われ出入りしにくい場所も増えている昨今。それでも平成を纏める、文学史を編むという時に私はまだ入っている。売れてないし権威もない。ただ取り替えが利かない」(文芸文庫版p.307)

 シリーズ“笙野頼子を読む!”第82回。

 森茉莉を取り上げた代表作の一つが、講談社文芸文庫に入りました。単行本(講談社)出版は2001年07月、文庫版出版は2006年12月、Kindle版配信は2013年10月、講談社文芸文庫版出版は2013年12月です。

 『幽界森娘異聞』については、先日Kindle版を紹介したばかりなので、そちらを参照ください。

  2013年11月08日の日記:
  『幽界森娘異聞(電子書籍版)』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2013-11-08

 今回の講談社文芸文庫版では、電子書籍版に加えて、著者自身による「あとがき」、さらに「解説」(金井美恵子)と「年譜」「著書目録」(山崎眞紀子編)が含まれていますので、これから購入するのであれば講談社文芸文庫版の方が良いかも知れません。でも電子書籍の利便性も捨てがたいという方は、この際、両方買っちゃいましょう。

 さて、今回の「あとがき」、タイトルは『「殿堂」入りにも近況報告/年表代わりのさらなる後書き』ということで、文芸文庫版でもしっかり近況(2013年10月18日現在)を書いてくれました。読者としてはこの上なく嬉しい。

 というのも、最新作『日日漠弾トンコトン子(新潮2013年5月号掲載)』に、「入院しないと駄目な」「十万人に三人以下の病」が発覚した、などと書いてあり、おそらくそれはフィクションではないだろうと思いつつも、詳しい状況が分からず、半年以上もおろおろしていたのです。

 「今難病治療中なんですよ私、まあ病気自体は割りと早く寛解に持ち込めたんだけど、なんたって劇薬服用と血液検査はずーっと付いて回る」(文芸文庫版p.307)

 「難病の的確な治療で回復した私は、不調を残しつつも家事等劇的に出来るようになっている。(中略)今までの痛み疲れやすさ怪我の多さの理由が判って、そしてその多くが回避出来るようになって、皮肉でもなくなんだかほっとしている」(文芸文庫版p.310)

 「何があっても、彼らを、猫と共にいる事を私は選んだ。その結果荒れた家の中でさえこの世に稀な幸福を得る事になった。人間が先に死んではいけない、それをモットーに今は生きているそれにしても」(文芸文庫版p.311)

 などという記述があり、どうやら一安心、していいのか。

 また、電子書籍版『水晶内制度』における「電書版後書き」には、「2012年12月25日 (春に出す電書版後書きを他社のも含め全十冊分、イブから始めてどうにか、仕上げた夜明けに)」(Kindle版No.3651)という記述があり、楽しみにしていたのですが、その後に続々と配信された電書版にはどれも新しい「後書き」が含まれていなかったので、一体どうなったのか気にしていたのですが、その謎も解明されました。

 「電子書籍が纏めて出るので十冊分だか自分で解説書いて、結局編集の都合で載らなくなって(ていうか電子ってどこで何起ってるのか誰にも判らない)、ああ、だったらば宙に浮いたこの電書用の文をここに流用したら「楽っ」てことよ、ふふふふふ、と三週間だか前に思っていた。ところがあれあれれれ? 気が付くと私は結局新しいの書いちゃってる」(文芸文庫版p.306)

 とのことで、うわーっ、その十冊分だかの著者自身による「解説」を読みたい。それこそ電子書籍で軽ーく、安ーく、配信してくれないものでしょうか。

 「ふいに群像のための長編も書く事になったり」(文芸文庫版p.307)

 という嬉しい記述もあるのですが、では荒神様のシリーズはどうなるのか、結局『猫キャンパス荒神』の出版はどうなのか、読者としては不安が尽きません。

 金井美恵子さんによる解説は、『なぜ、「これなら私にも書けると思った」と、二人の女性作家(私の知るかぎり)は『幽界森娘異聞』を読んで考えたのだろうか、』というタイトル。(本書の授賞式の場で)笙野頼子さんとはじめて出会ったときのエピソードを紹介しつつ、解説へと進んでゆきます。

 「年譜」ですが、『現代女性作家読本4 笙野頼子』(清水良典 編)の巻末に、『笙野頼子 年譜』(山崎眞紀子)として掲載されていた年譜の更新版と思われます。旧版に比べて大幅に情報が追加され、もちろん2006年以降のことも載っており、現時点での決定版といってよい充実した内容。

 この「年譜」および「著書目録」を保存しておくために、本書をもう一冊購入しようかとさえ思いました。あ、でも、この講談社文芸文庫版もまた電子書籍化されるのでしょうか。そしたら検索も出来るし、そちらを待つのも手かなと。


タグ:笙野頼子
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