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『トップスケーターの流儀 中野友加里が聞く9人のリアルストーリー』(中野友加里) [読書(教養)]

 「選手たちももしかしたら、テレビカメラがあると意識してしまって答えてくれないことも、紙面ならば答えてくれる、そんな場面もあったかもしれません。また、相手が同じスケーターの私だから話してくれる本音もあったでしょうし、その立場を生かして、様々なことを聞き出せたのでは、と思っています」(単行本p.237)

 村上佳菜子、織田信成、鈴木明子、無良崇人、羽生結弦、小塚崇彦、浅田真央、安藤美姫、高橋大輔。日本を代表するトップスケーター達に、自身もトップスケーターだった中野友加里さんがインタビュー。単行本(双葉社)出版は、2013年12月です。

 何しろ聞き手は、友人、盟友、あるいは「お姉さん」である中野友加里さん。付き合いも長く、色々とお互いに知っている仲ということで、出てくる出てくる、カメラの前ではなかなか言わない本音やら裏話やら私生活やら、もうぼろぼろと、気安く。特に女性スケーターへのインタビューは、ほとんどガールズトークのノリ。

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佳菜子
 「そうなんです。美容院の人に、これもう髪の毛じゃない、ほうきだって言われた! でも今日は友加里お姉ちゃんに会うから、ちゃんとおしゃれしてきたんですよ。佳菜なりに!」

友加里
 「佳菜なりに!」

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友加里
 「真央ね、もう十分大人だから!」

真央
 「ふふふ、真央も23歳になるから、一応大人?」

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友加里
 「美姫ママは今、何してるの?」

美姫
 「今日は孫の面倒見てるよ」

友加里
 「いえいえ、あなたのことよ! 美姫はもう、ママでしょ?」

美姫
 「あ、美姫のことか! 毎日スケートしてるよ。子育てもしてるよ(笑)」

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 ほとんどじゃれ合っているような会話が続いたりして、ほんわか気分になります。まあ、インタビューした時期が、まだシーズン前というか、差し迫ってなかった、というのもあるかも知れませんが。

 もちろんスケートの話も出てきますが、これも本音というか、気心知れたスケーター同士の雑談という感じで、大変興味深いものがあります。

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友加里
 「以前、ゆづ(羽生結弦)と佳菜子の対談を読んだ時、「ループはしゅっ! て跳べばいいんだよ」って、ゆづがアドバイスしてたでしょ? 佳菜も困ってたけど、あれは私もわけがわからなかった(笑)」

佳菜子
 「そうそう。ループがうまい人って、なんだか変。雅ちゃん(大庭雅選手)も、すごくループが得意なんですよ。それで、佳菜が「ループ、どうやって跳んだらいいの?」って聞いたら、「空気を読めばできる」って言われた。雅ちゃん、ゆづよりもっと意味わかんない!」

友加里
 「もう聞かない方がいいよ(笑)」

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明子
 「長久保(裕)先生は、自分の後継者として、私に受け継いでほしいって気持ちみたい」

友加里
 「先生としては、あっこちゃんにコーチをやってほしいんだ?」

明子
 「私はジャンプが得意じゃなかったから、できればジャンプなんてなければいいと思ってる選手なんだけど、いいですか(笑)」

友加里
 「そうだ、アイスダンスやれば? 競技人口もまだ少ないし、すぐに日本代表になれちゃうかもよ。パートナー、誰か見つけてこようか? 鈴木明子&高橋大輔組とかどう?」

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 鈴木明子&高橋大輔組のアイスダンスは私も観たいと思う。こんな感じでスケート話でさえ女子トーク感がハンパないのですが、では男子へのインタビューはどうかというと、これがまた。

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友加里
 「もしかしてノブとも、パパ話的なことしてる?」

崇人
 「相談してます。夜泣きとかしてなかった、どうだった? とか」

友加里
 「現役選手同士でする話ですか(笑)」

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友加里
 「あの年、遠征先で私のパソコン使って奥さんにメールしてたでしょ! 当時はまだ彼氏彼女で」

信成
 「した! 自分のパソコンがなくて……」

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友加里
 「でも私は、突っ走っても、ちゃんとジャンプの計算はできるからね!」

信成
 「もうそれ、やめて! 否定できないです(笑)」

友加里
 「今まで何度、試合で計算間違えたのか! いったい何回、余計なジャンプ跳んでる? そんなにノブはジャンプを跳びたいのかと(笑)」

信成
 「でも聞いて。僕、今年の国体で初めて計算できたんですよ!」

友加里
 「初めて! 遅いよ(笑)」

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 ほとんどの選手が友加里さんに甘えている感じですが、やはり世代が違うというか、羽生結弦選手は一味違います。

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結弦
 「ジャパンオープン(09年)で「火の鳥」を滑った時……トリプルアクセルで転んで、友加里さん、肩が外れちゃったじゃないですか? あの時、滑りながら、肩、入れ直しましたよね! どうしたらあんなに冷静になれるのかなって、ずっと思ってた」

友加里
 「外れた瞬間、すっごくいろんなことが一気に頭を駆け巡って。いま棄権したら何点減点されて、誰に迷惑がかかって、いや、そもそもこの試合って棄権できるんだっけ? って思ってるうちに、ガッ! てはめたの(笑)」

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 格闘技家の会話かっ、というほどハードな話題がさらりと。他にも、小塚崇彦の股関節不具合とか、安藤美姫が子供を守るために外に出ることも出来なかったとか、ソチ五輪の後で引退する選手たちのその後とか、もちろん真面目あるいは深刻な話もちらほら出てきます。

 というわけで、上で挙げられたスケーターのファンなら文句なく楽しめる一冊です。そんなに詳しくないがフィギュアスケートに興味はある、あるいは最近になって興味が湧いた、という方には、まずは荒川静香さんの解説書をお勧めします。

  2013年12月18日の日記:
  『知って感じるフィギュアスケート観戦術』(荒川静香)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2013-12-18

 これを読めば、ループ、トリプルアクセル、ジャンプの計算、といった上に引用した会話に出てくる話題について何となく理解できるようになるでしょう。そして、実際に試合を観て、お気に入りの選手が何人か出来てから、本書を手にするといいでしょう。


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