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『トロカデロのドン・キホーテ』(振付:ジョゼ・モンタルヴォ) [ダンス]

 2013年12月15日(日)は、夫婦で東京芸術劇場に行って、パリ国立シャイヨー劇場公演『トロカデロのドン・キホーテ』を鑑賞しました。ジョゼ・モンタルヴォ振付による、映像とダンスを組み合わせた人気作です。

 古典バレエ『ドン・キホーテ』をベースにしており、音楽はミンクスのものがそのまま使われます。しかし、舞台設定は現代、場所はパリの地下鉄。

 舞台背景に投影される映像の中で、まるで退屈な日常(あるいは人生そのもの)に倦み疲れたような老人が、地下鉄ホームの薄暗い片隅にあるベンチに座り込んでいます。老人は次第に幻想に飲み込まれてゆき、やがて目に入る全てのものが輝いていた幼少期のことを思い出すと共に、周囲にいる普通の人々の様子が、愉快な男たちや艶やかな美女たちが浮かれ騒ぐ楽しい世界に見えてくるのです。

 舞台上では、中年太りのドン・キホーテ、軽快にヒップホップダンスをキメてみせるサンチョ・パンサ、スパニッシュダンスで力強く床を踏みしめ、あるいは激しいタップダンスで興奮を盛り上げる男たち、バレエやアクロバットで美しく舞い踊る女たちといった、総勢14名の出演者たちが華麗なパフォーマンスを披露します。

 バレエ、ヒップホップ、タップ、スパニッシュ、アフリカン、そしてコメディマイム。次から次へと息をつく暇もなく、拍手するタイミングがつかめないくらいの密度で愉快なダンスが繰り広げられ、思わず吹き出すような可笑しいパントマイムが披露され、ときにプティパの元振付が美しく踊られたり(そしてドン・キホーテが「ウィ、プティパ! プティパ!」と騒いだり)、ひたすら楽しい75分。

 私たちの人生の退屈さくだらなさをダンコフンサイすべく無謀にも突進してゆくドン・キホーテ(この作品では彼が主役)の姿に、心から拍手を送りたくなる舞台です。映像のラストでは老人の正体が暗示され、原作小説と古典バレエと現代ダンスが手を取り合って観客に力強いメッセージを送ってくれます。思い出せ、人生のすべてが退屈でくだらないわけじゃない、と。

 様々な種類のダンスをごった煮にしつつ、統一感が崩れないというのが素晴らしい。映像とライブアクションの組み合わせも効果的で、ドン・キホーテ役を演じたパトリス・ティボーのパフォーマンスも忘れがたいものがあります。

 というわけで、実はこれで今年のダンス公演は見納めなのですが、最後に有無を言わさぬ楽しい舞台を観ることが出来て嬉しい。来年もまた沢山の良いダンスとの出会いがありますように。


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