SSブログ

『赤い目のドラゴン』(著:アストリッド・リンドグレーン、絵:イロン・ヴィークランド、翻訳:ヤンソン由実子) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 農場の豚小屋で幼い姉弟が見つけたのは、全身エメラルドグリーンで目だけがルビーのように赤い、小さなドラゴンの赤ちゃんだった。一所懸命ドラゴンの世話をして大切に育てる二人。そんなある日、ドラゴンは翼を大きく広げる・・・。美しい挿絵がついたリンドグレーンの絵本。単行本(岩波書店)出版は1986年12月です。

正月に配偶者の実家に帰りました。そのとき、三歳になった甥に何かプレゼントしなきゃということで、夫婦で相談して、絵本と劇場版チェブラーシカのDVDを渡すことに。

 チェブはいいとして、問題は絵本です。やっぱり自分たちが子供の頃にお気に入りだった絵本がいいだろうということで、互いに推薦図書を挙げてみたところ、配偶者は『長くつ下のピッピ』、私は『名探偵カッレくん』が好きだった、ということが判明。実はどちらも同じ作者、アストリッド・リンドグレーンの作品でした。

 というわけで、リンドグレーンの絵本を買ってきましたよ。それが本書、『赤い目のドラゴン』です。

 幼い姉弟がグリーンドラゴンの赤ちゃんを育てる話です。特に劇的な事件が起こるわけでもなく、楽しく静かにときが流れ、やがて避けられない別れがやってくる、そんな物語。子供が読めば、最後のシーンで泣いてしまうでしょうが、それはとても大切な体験に違いありません。

 絵も素晴らしいし、何だか「ガキにやるのは惜しい」という本末転倒はなはだしい気持ちがわき起こってきて、配偶者にそう言ったところ、もっともである、こっそりとっておこう、ということに相談がまとまり、結局のところ甥っこには『ちいさなうさこちゃん』(最近は馴染みのない外国名を名乗っているようですが)のセットを送ることになりました。三歳児はうさこちゃんを読んでおればいいのだ。

 もう少し大きくなったら、UFO本をこっそり買ってあげようと思います。


タグ:絵本
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

2011年を振り返る(6) [教養・ノンフィクション] [年頭回顧]

2011年を振り返る(6) [教養・ノンフィクション]

 2011年に読んだノンフィクションのうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2011年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まずは、ここ一千年の日本史を「“中国化”と“再江戸時代化”のせめぎ合い」という観点から大胆に再構成し、驚くほど斬新な歴史像を提示してみせた『中国化する日本  日中「文明の衝突」一千年史』(與那覇潤)には大興奮。今年読んだ、サイエンス本を除くノンフィクションでどれか一冊、ということであれば、これです。

 難病に苦しみながら、日本社会における医療や福祉が抱えている問題に文字通り命懸けで立ち向かってゆく、セルフ難民救済運動の顛末を書いた『困ってるひと』(大野更紗)も素晴らしい。胸が熱くなります。続編に期待。

 人気ブロガー「ちきりん」さんによる、『ゆるく考えよう  人生を100倍ラクにする思考法』と『自分のアタマで考えよう  知識にだまされない思考の技術』の二冊は、とても親しみやすい文章で書かれていながら、思わずはっとするような鋭い指摘に満ちた好著だと思います。仕事が出来ない人には前者、成果を出せない人には後者が、それぞれお勧め。

 ウィトゲンシュタイン哲学をベースに、様々な哲学上の大問題にあっさり回答してしまう『あたらしい哲学入門  なぜ人間は八本足か?』(土屋賢二)は、哲学書としてもユーモアエッセイとしても面白く、好感が持てました。

 ハリウッド的な美しき建前をひっぺがし、目を背けておきたい人間の暗い側面を容赦なく描いた映画。子供の頃に観て衝撃を受けたそんな映画の数々を紹介する『トラウマ映画館』(町山智浩)は、映画ファン必読の一冊でしょう。著者の人生と映画が共鳴してゆくところに感動を覚えました。

 今年は歴史関連の本に面白いものが多かったような気がします。

 亡国論の歴史、土下座の歴史など、ごく「小さな」歴史問題を研究した『パオロ・マッツァリーノの日本史漫談』(パオロ・マッツァリーノ)は文句無しに楽しい。『スパイ・爆撃・監視カメラ  人が人を信じないということ』(永井良和)は、「不信感」が生み出してきたものの歴史、という面白い観点で書かれています。

 『戦争論理学  あの原爆投下を考える62問』(三浦俊彦)は、広島・長崎への原爆投下をどう評価するか、これについて徹底的に論じた本。あくまで論理学の演習問題という位置づけで書かれていますが、その結論は重い。同じ著者の論理学入門シリーズ最新作、『論理パラドクシカ  思考のワナに挑む93問』(三浦俊彦)も大いに楽しめます。

 新大陸から渡ってきた植物がいかに世界の歴史を大きく動かしたかを解説してくれる『文明を変えた植物たち  コロンブスが遺した種子』(酒井伸雄)や、日本SFの源流を探る『日本SF精神史 幕末・明治から戦後まで』(長山靖生)にも興味深いものがありました。

 2011年は、日本とは何か、日本人とは何か、が大いに論じられた年でした。同時に、隣国の動向が気になって仕方ない年でもありました。

 英語を母語としながらあえて日本語で書き続けているユダヤ系アメリカ人の作家が日本語に切り込んでゆく『我的日本語 The World in Japanese』(リービ英雄)は、その洞察の深さと切実さに胸を打たれます。

 日本における異常なほど正確な列車運行は、実際のところどのようにして実現されているのか。『定刻発車  日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?』(三戸祐子)はそのシステム、歴史的背景などを詳しく教えてくれる一冊。異色の日本論としても読みごたえがあります。

 正直なところ、政府による言論統制を中国人はどう思っているのか、プーチンのことをロシア人はどう見ているのか。『ネット大国中国  言論をめぐる攻防』(遠藤誉)と『ジョークで読むロシア』(菅野沙織)は、現地で人々がどう考え、どう行動しているのかを、活き活きと伝えてくれます。

 今の日本社会はどうしてこうも閉塞感に満ちているのか。『平成幸福論ノート  変容する社会と「安定志向の罠」』(田中理恵子)は、この問題について社会学者が包括的に論じた一冊。充実しています。

 一方、こうなったら国外脱出だ、という本も人気が出ました。

 『日本人が成功すんなら、アジアなんじゃねぇの?』(豊永貴士)は、すぐそばに経済成長著しいアジア圏があるのに日本で就活とかくすぶってる場合じゃねえだろ、と若者を煽ってくれます。

 もう少し対象読者の年齢が上の本としては、『アジアでハローワーク』(下川裕治)が面白い。また、海外で就職するときビザはどうすればいいの、といった具体的な話については『日本を脱出する本』(安田修)に詳しい。

 オカルト、陰謀論、懐疑論といった分野では、まずは何といっても『超常現象を科学にした男  J.B.ラインの挑戦』(ステイシー・ホーン)がお気に入り。ESP(超能力)をはじめて科学的な研究対象として取り上げ、超心理学の先駆けになったライン教授の伝記です。

 『ダイニングテーブルのミイラ  セラピストが語る奇妙な臨床事例』(ジェフリー・A・コトラー、ジョン・カールソン)は、オカルト本ではなく、精神疾患を治療するセラピストへのインタビュー集なのですが、何しろあまりにも奇妙な症例が次から次へと登場するために、むしろ超常現象など凡庸で退屈なものに思えてきます。

 超常現象の懐疑的検証を行っているASIOSからは、『謎解き古代文明』、『検証 陰謀論はどこまで真実か パーセントで判定』、『検証 大震災の予言・陰謀論  震災文化人たち”の情報は正しいか』、という三冊が出ました。どれも面白かった。

 肯定的立場から書かれているオカルト本としては、謎の超古代文明の遺物「オーパーツ」山盛り全部入りカタログ本『神々の遺産オーパーツ大全』(並木伸一郎)と、ロズウェル事件に関する証言を徹底的に収録した『ロズウェルにUFOが墜落した』(ドナルド・シュミット、トマス・キャリー)の二冊がめっぽう面白い。他に、『図解 UFO』(桜井慎太郎)は、そのあまにりも学習参考書としか形容しようがない作りに驚かされました。

 将棋ソフト「あから2010」と清水女流王将の対局を追った『コンピュータ VS プロ棋士  名人に勝つ日はいつか』(岡嶋裕史)は、きちんと棋譜の解説が載っており、まるで現場で対局を見ているような臨場感を味わうことが出来ました。

 IT革命は我々に何をもたらしたのだろうか。得られたものは空騒ぎに過ぎず、むしろ文化や芸術や人間性に対して大きな弊害を与えているのではないだろうか。そう問いかけたのが、『人間はガジェットではない  IT革命の変質とヒトの尊厳に関する提言』(ジャロン・ラニアー)です。

 女子中学生の「自由研究」がどれほどフリーダムであるかがよく分かる『女子中学生の小さな大発見』(清邦彦)は、科学の原点を見るような感動と共に大笑いできる素敵な本でした。

 他に、世界各国の(日本人から見て)奇妙に思える校則を集めた『こんなに厳しい! 世界の校則』(二宮皓:監修)や、身体で建築物への愛を表現する『けんちく体操』(チームけんちく体操)、ジャンクフード中毒の実態を暴く『ポテチを異常に食べる人たち  ソフトドラッグ化する食品の真実』(幕内秀夫)、アニメとパチンコのタイアップ企画の背景を探る『パチンコがアニメだらけになった理由(わけ)』(安藤健二)などが印象に残りました。

 最後に、翻訳をテーマにした本を二冊。

 『厄介な翻訳語  科学用語の迷宮をさまよう』(垂水雄二)は、誤訳の実例を挙げつつ、サイエンス本を翻訳する際にぶつかる難しい問題について語ります。

 『オタク的翻訳論 日本漫画の中国語訳に見る翻訳の面白さ 巻八「毎日かあさん(大陸版)」』(明木茂夫)は、人気シリーズの最新作。西原理恵子さんの『毎日かあさん』を題材に、同じ箇所が台湾版と中国大陸版でそれぞれどのように訳されているのかを比較するという新たな芸風、じゃなかった研究テーマに挑戦しており、すごく楽しい。早く次の巻が読みたい。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

2011年を振り返る(5) [サイエンス・テクノロジー] [年頭回顧]

2011年を振り返る(5) [サイエンス・テクノロジー]

 2011年に読んだポピュラーサイエンス本のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2011年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 『わたしを宇宙に連れてって  無重力生活への挑戦』(メアリー・ローチ)は抱腹絶倒の一冊。嘔吐や排尿など、有人宇宙飛行のあまり言及されることがない人間くさい側面をぐりぐり探求します。下品なエピソード満載。大笑いしながら、本当の宇宙開発とはどのようなものであるかを理解することが出来ます。

 『不死細胞ヒーラ  ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』(レベッカ・スクルート)も抜群に面白かった。ヒーラ細胞をめぐる波瀾万丈の実話が、知的にも情緒的にも強い感動を生みます。

 他に、医学まわりでは、『闘う!ウイルス・バスターズ  最先端医学からの挑戦』(河岡義裕、渡辺登喜子)も興味深い。最近話題になった、人工合成インフルエンザウイルスについても書かれています。

 『乾燥標本収蔵1号室  大英自然史博物館 迷宮への招待』(リチャード・フォーティ)は、巨大博物館のバックステージを紹介してくれる好著。勤続30年に渡って探索を続けてもなお未知の場所が残っているという、魔界めいた大英自然史博物館の内側。自然史学、博物学への興味と敬意がわき上がります。

 『青の物理学  空色の謎をめぐる思索』(ピーター・ペジック)は、「空はなぜ青いのか?」という疑問が解決されるまでの長い歴史を解説した一冊。一見素朴に思える疑問がどれほど奥深いものであるか、畏敬の念を覚えます。

 認知心理学まわりの本では、「バスケットボールをしている画面にゴリラが堂々と登場することに気がつかない」という有名な“見えないゴリラ”動画の作者による『錯覚の科学』(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ)が猛烈に面白い。人間の認知がいかに杜撰であるかを示す様々なエピソードには感嘆の他はありません。

 他に、『人はなぜだまされるのか 進化心理学が解き明かす「心」の不思議』(石川 幹人)や、『だまし絵練習帖 基本の錯視図形からリバースペクティブまで』(竹内龍人)なども、人間の認知の不完全性について具体的に教えてくれました。

 『背信の科学者たち』(ウイリアム・ブロード、ニコラス・ウェイド)は、現実の科学界で横行しているインチキ、犯罪的行為、捏造などの実態を明るみに出した古典的名著ですが、今読んでもそのインパクトは変わりません。科学者を目指す若者は必読でしょう。

 他に、『なぜ科学を語ってすれ違うのか  ソーカル事件を超えて』(ジェームズ・ロバート・ブラウン)も、科学という営みが社会から独立した純粋で合理的なものでは決してないことを教えてくれました。

 物理学・天文学まわりでは、ビッグバン直後に起きた宇宙の指数関数的膨張について提唱者自らが分かりやすく解説してくれる『インフレーション宇宙論』(佐藤勝彦)、地球に似た太陽系外惑星が次々と発見されている理由について解説してくれる『スーパーアース』(井田茂)、初等物理を学ぶためのパズル集『傑作! 物理パズル50』(ポール・G・ヒューイット、松森靖夫:編)などが印象に残りました。

 テクノロジー関係では、温暖化に対抗するために地球環境そのものを工学的にいじくってしまうというジオエンジニアリングの現状を解説した『気候工学入門  新たな温暖化対策ジオエンジニアリング』(杉山昌広)、宇宙空間に帆を広げ太陽風で加速する世界初のソーラーセイルの開発秘話『宇宙ヨットで太陽系を旅しよう  世界初!イカロスの挑戦』(森治)、TOTOの技術者が語るトイレの最新テクノロジー『世界一のトイレ  ウォシュレット開発物語』(林良祐)が面白かったと思います。

 生物学・進化論まわりでは、生物多様性と遺伝子バンクがなぜ重要なのかはっきりと教えてくれる『地球最後の日のための種子』(スーザン・ドウォーキン)がインパクト大。鳥のさえずりには「語彙」や「文法」がある、という驚愕の発見を追った『さえずり言語起源論  新版 小鳥の歌からヒトの言葉へ』(岡ノ谷一夫)にも興奮。他に、『身近な雑草の愉快な生きかた』(著:稲垣栄洋、画:三上修)も良かった。

 『イカの心を探る 知の世界に生きる海の霊長類』(池田譲)、『クモの網  What a Wonderful Web!』(船曳和代、新海明)、『ヒドラ』(山下桂司)、『ダンゴムシに心はあるのか』(森山徹)は、それぞれ特定の生物にスポットライトを当て、その知られざる生態や能力について熱く語る本。サイエンス本というより、むしろ「熱狂的ファンが書いたアイドル本」に近い印象があり、楽しめました。

 最後に、がんの再発と転移について最新の知見をまとめた『再発 がん治療最後の壁』(田中秀一)は、個人的に衝撃でした。何だか「今や、治る病気」などと云われているがんが、これほど手ごわい病気だったなんて。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

2011年を振り返る(4) [SF・ミステリ] [年頭回顧]

2011年を振り返る(4) [SF・ミステリ]

 2011年に読んだSFをはじめとするジャンル小説のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2011年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まず、今年はショーン・タンの作品に魅了されました。言葉のないグラフィックノベル『アライバル』が何といっても素晴らしい。岸本佐知子さんが訳してくれた『遠い町から来た話』も素敵だし、未訳ながら『Lost & Found』もぐっときます。

 著者来日にあわせて、雑誌「イラストレーション」の2011年9月号(No.191)がショーン・タンの小特集を組んでくれました。SFマガジンには著者インタビューが載るし、近所の書店にまで「著者サイン本」が並べられるなど、ショーン・タン旋風が吹き荒れた一年でした。

 日本作家の作品では、月村了衛さんが衝撃的なまでの面白さ。『機龍警察』も良かったのですが、続編たる『機龍警察 自爆条項』はその面白さに飛び上がりました。今年読んだ冒険小説では文句なし一番です。

 『11 eleven』(津原泰水)はその幻想的な雰囲気ときらめく文体で、『リリエンタールの末裔』(上田早夕里)はSFの手法により人間性というものを追求する姿勢に、そして『殺人者の空  山野浩一傑作選II』(山野浩一)は内宇宙の探索にかける意志で、それぞれ強い印象を残してくれました。今年読んだ日本SFから三冊選ぶならこれです。

 ちなみに、『鳥はいまどこを飛ぶか  山野浩一傑作選I』(山野浩一)も悪くありません。

 2011年は巨大ロボットや怪獣が大暴れした年でもありました。『ダイナミックフィギュア(上)(下)』(三島浩司)は、巨大ロボットSFなるものを本気で追求するこだわりと意地に感動しました。山本弘さんは、本格怪獣小説シリーズMM9の長篇『MM9 -invasion-』と、MM9短篇集『トワイライト・テールズ』を出してくれ、どちらも大いに楽しめました。今どき、円盤に乗った宇宙人が怪獣を使って地球を侵略してくる話を大真面目に読める幸せ。

 田中啓文さんは、噺家修行中の若者を主人公とした人気シリーズ最新作『ハナシはつきぬ! 笑酔亭梅寿謎解噺5』と、UMAハンター馬子の続編なのか何なのかよく分からないままとにかく馬子&イルカが活躍する『こなもん屋馬子』で笑わせてくれました。

 北野勇作さんの『どろんころんど』と『かめ探偵K』、椎名誠さんの『チベットのラッパ犬』、いずれも著者らしい奇妙な雰囲気にあふれており、魅力的でした。

 前年ほどではないとはいえ、当然のようにSFアンソロジーが何冊も出ました。『結晶銀河 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵)は堂々たる年刊傑作選として必読。

 一方、書き下ろしアンソロジー『NOVA』は4巻、5巻、6巻と順調に出版され、新人からベテランまで幅広い作家を紹介してくれました。7巻以降も楽しみ。海外SFアンソロジーでは、われらが心の故郷、50年代SFを集めた『冷たい方程式』(伊藤典夫:編訳)が印象に残りました。

 海外作品では、まずは『ミステリウム』(エリック・マコーマック)が素晴らしい。ミステリのように見えてそうでもない奇妙な作品ですが、とにかくマコーマックは冷静に読めないほど好き。もっと訳して。

 本格SFとしては、『ねじまき少女(上)(下)』(パオロ・バチガルピ)が圧倒的でした。たぶんベストSF海外篇2011で堂々一位、間違っても三位以内には入ることでしょう。今年は短篇集も出るし、春から盛り上がりが期待されます。

 『プランク・ダイヴ』(グレッグ・イーガン)は、さすがイーガンとしか言いようのない、色々な意味でハードSFを集めた短篇集。SF読者なら必読、そうでない読者は避けておいた方がいいかも。

 中世のドイツを舞台としたファーストコンタクトの成り行きを感動的にえがく『異星人の郷(上)(下)』(マイクル・フリン)、H・G・ウエルズを狂言回しに使い倒しSFと一般小説の境界上を駆け抜ける『時の地図(上)(下)』(フェリクス・J・パルマ)は、どちらも存分に楽しめました。

 ナポレオン戦争にドラゴンをからめた架空歴史小説『テメレア戦記IV 象牙の帝国』(ナオミ・ノヴィク)は、最後に劇的な展開になだれこんでそのまま「続く」になってしまうので悶絶ものでした。続編を早く訳して下さい。

 他には、SF界のグランドマスターによる傑作短篇集『奇跡なす者たち』(ジャック・ヴァンス)、SF史上最高の猫が活躍する『跳躍者の時空』(フリッツ・ライバー)、未来からの物理的攻撃というアイデアを真面目に書いた『クロノリス -時の碑-』(ロバート・チャールズ・ウィルスン)が良かったと思います。

 2010年はゾンビが流行った年らしく、遅ればせながら読んだ話題作『WORLD WAR Z』(マックス・ブレックス)および『高慢と偏見とゾンビ』(ジェイン・オースティン、セス・グレアム=スミス)がどちらも色々と凄かった。

 最後に、黒服を来た奇妙な女の子と黒猫たちのイラストで有名なエミリー・ザ・ストレンジを主人公とする小説『エミリーの記憶喪失ワンダーランド』(ロブ・リーガー)が意外と面白かった。おしゃべりなエミリーというのはちょっとイメージ違うような気もしますが、それはそれとして。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

2011年を振り返る(3) [随筆・詩] [年頭回顧]

2011年を振り返る(3) [随筆・詩]

 2011年に読んだ随筆と詩集のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2011年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 随筆ですが、まずは翻訳家という人々が何を考えているのか、どのような人生を送っているのか、読者に垣間見せてくれた、鴻巣友季子さんの『全身翻訳家』が素敵でした。

 穂村弘さんは、とぼけたユーモアと鋭い言語感覚で読者を笑わせる『絶叫委員会』と『君がいない夜のごはん』で強烈な印象を残してくれました。

 金井美恵子さんは、その高い教養と超絶文体から繰り出される辛辣な毒舌が冴え渡る『猫の一年』と『日々のあれこれ 目白雑録4』で色々となぎ倒してくれた感が。

 町田康さんは、犬がかわいいかわいいということを書いた『スピンク日記』と、猫がかわいいかわいいということを書いた『猫とあほんだら』で、パンク魂も犬猫にはかなわないということを明らかにしてくれました。

 他には、社会運動家として女傑っぽいイメージがある雨宮処凛さんの実態がよく分かる『小心者的幸福論』、ごく日常的に怪異と接している作家たちによる身辺雑記なのか実話怪談なのかよく分からない『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』(工藤美代子)と『猫怪々』(加門七海)がすさまじきもの。

 今年は、いまさらのように現代詩を読み始めた年でした。入門書として『詩を読んで生きる  小池昌代の現代詩入門』に感銘を受け、基礎教養として『通勤電車でよむ詩集』(小池昌代:編著)、『名詩の絵本』(川口晴美)、『名詩の絵本II』(川口晴美)で古今東西の名詩をざっと勉強。

 個人的にハマったのが、四元康祐さん。『言語ジャック』が素晴らしくて、慌てて『四元康祐詩集』、『妻の右舷』、さらには前述の小池昌代さんとの共著『対詩 詩と生活』(小池昌代、四元康祐)、田口犬男さんとの共著『対詩 泥の暦』(四元康祐、田口犬男)という具合に読みまくりました。

 町田康さんは、『残響  中原中也の詩によせる言葉』で中原中也がいかにパンクであるかを、粕谷栄市さんは『遠い川』で歳をとること死ぬことについて、教えてくれました。

 他に、『スウィートな群青の夢』(田中庸介)、『わたしの好きな日』(和田まさ子)、『宝物』(平田俊子)にそれぞれ感銘を受けました。

 最後に、詩集というよりいわゆるひとつのポエムですが、『choo choo 日和 愛のマタタビ。』(イラスト:Jetoy、文:こやま淳子)は、センスのいい猫イラストと、ちょっと毒のある文章がよくマッチしていて、好感が持てました。というか、choo chooブランドの文具を買いまくってしまいましたよ。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: