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2011年を振り返る(6) [教養・ノンフィクション] [年頭回顧]

2011年を振り返る(6) [教養・ノンフィクション]

 2011年に読んだノンフィクションのうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2011年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まずは、ここ一千年の日本史を「“中国化”と“再江戸時代化”のせめぎ合い」という観点から大胆に再構成し、驚くほど斬新な歴史像を提示してみせた『中国化する日本  日中「文明の衝突」一千年史』(與那覇潤)には大興奮。今年読んだ、サイエンス本を除くノンフィクションでどれか一冊、ということであれば、これです。

 難病に苦しみながら、日本社会における医療や福祉が抱えている問題に文字通り命懸けで立ち向かってゆく、セルフ難民救済運動の顛末を書いた『困ってるひと』(大野更紗)も素晴らしい。胸が熱くなります。続編に期待。

 人気ブロガー「ちきりん」さんによる、『ゆるく考えよう  人生を100倍ラクにする思考法』と『自分のアタマで考えよう  知識にだまされない思考の技術』の二冊は、とても親しみやすい文章で書かれていながら、思わずはっとするような鋭い指摘に満ちた好著だと思います。仕事が出来ない人には前者、成果を出せない人には後者が、それぞれお勧め。

 ウィトゲンシュタイン哲学をベースに、様々な哲学上の大問題にあっさり回答してしまう『あたらしい哲学入門  なぜ人間は八本足か?』(土屋賢二)は、哲学書としてもユーモアエッセイとしても面白く、好感が持てました。

 ハリウッド的な美しき建前をひっぺがし、目を背けておきたい人間の暗い側面を容赦なく描いた映画。子供の頃に観て衝撃を受けたそんな映画の数々を紹介する『トラウマ映画館』(町山智浩)は、映画ファン必読の一冊でしょう。著者の人生と映画が共鳴してゆくところに感動を覚えました。

 今年は歴史関連の本に面白いものが多かったような気がします。

 亡国論の歴史、土下座の歴史など、ごく「小さな」歴史問題を研究した『パオロ・マッツァリーノの日本史漫談』(パオロ・マッツァリーノ)は文句無しに楽しい。『スパイ・爆撃・監視カメラ  人が人を信じないということ』(永井良和)は、「不信感」が生み出してきたものの歴史、という面白い観点で書かれています。

 『戦争論理学  あの原爆投下を考える62問』(三浦俊彦)は、広島・長崎への原爆投下をどう評価するか、これについて徹底的に論じた本。あくまで論理学の演習問題という位置づけで書かれていますが、その結論は重い。同じ著者の論理学入門シリーズ最新作、『論理パラドクシカ  思考のワナに挑む93問』(三浦俊彦)も大いに楽しめます。

 新大陸から渡ってきた植物がいかに世界の歴史を大きく動かしたかを解説してくれる『文明を変えた植物たち  コロンブスが遺した種子』(酒井伸雄)や、日本SFの源流を探る『日本SF精神史 幕末・明治から戦後まで』(長山靖生)にも興味深いものがありました。

 2011年は、日本とは何か、日本人とは何か、が大いに論じられた年でした。同時に、隣国の動向が気になって仕方ない年でもありました。

 英語を母語としながらあえて日本語で書き続けているユダヤ系アメリカ人の作家が日本語に切り込んでゆく『我的日本語 The World in Japanese』(リービ英雄)は、その洞察の深さと切実さに胸を打たれます。

 日本における異常なほど正確な列車運行は、実際のところどのようにして実現されているのか。『定刻発車  日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?』(三戸祐子)はそのシステム、歴史的背景などを詳しく教えてくれる一冊。異色の日本論としても読みごたえがあります。

 正直なところ、政府による言論統制を中国人はどう思っているのか、プーチンのことをロシア人はどう見ているのか。『ネット大国中国  言論をめぐる攻防』(遠藤誉)と『ジョークで読むロシア』(菅野沙織)は、現地で人々がどう考え、どう行動しているのかを、活き活きと伝えてくれます。

 今の日本社会はどうしてこうも閉塞感に満ちているのか。『平成幸福論ノート  変容する社会と「安定志向の罠」』(田中理恵子)は、この問題について社会学者が包括的に論じた一冊。充実しています。

 一方、こうなったら国外脱出だ、という本も人気が出ました。

 『日本人が成功すんなら、アジアなんじゃねぇの?』(豊永貴士)は、すぐそばに経済成長著しいアジア圏があるのに日本で就活とかくすぶってる場合じゃねえだろ、と若者を煽ってくれます。

 もう少し対象読者の年齢が上の本としては、『アジアでハローワーク』(下川裕治)が面白い。また、海外で就職するときビザはどうすればいいの、といった具体的な話については『日本を脱出する本』(安田修)に詳しい。

 オカルト、陰謀論、懐疑論といった分野では、まずは何といっても『超常現象を科学にした男  J.B.ラインの挑戦』(ステイシー・ホーン)がお気に入り。ESP(超能力)をはじめて科学的な研究対象として取り上げ、超心理学の先駆けになったライン教授の伝記です。

 『ダイニングテーブルのミイラ  セラピストが語る奇妙な臨床事例』(ジェフリー・A・コトラー、ジョン・カールソン)は、オカルト本ではなく、精神疾患を治療するセラピストへのインタビュー集なのですが、何しろあまりにも奇妙な症例が次から次へと登場するために、むしろ超常現象など凡庸で退屈なものに思えてきます。

 超常現象の懐疑的検証を行っているASIOSからは、『謎解き古代文明』、『検証 陰謀論はどこまで真実か パーセントで判定』、『検証 大震災の予言・陰謀論  震災文化人たち”の情報は正しいか』、という三冊が出ました。どれも面白かった。

 肯定的立場から書かれているオカルト本としては、謎の超古代文明の遺物「オーパーツ」山盛り全部入りカタログ本『神々の遺産オーパーツ大全』(並木伸一郎)と、ロズウェル事件に関する証言を徹底的に収録した『ロズウェルにUFOが墜落した』(ドナルド・シュミット、トマス・キャリー)の二冊がめっぽう面白い。他に、『図解 UFO』(桜井慎太郎)は、そのあまにりも学習参考書としか形容しようがない作りに驚かされました。

 将棋ソフト「あから2010」と清水女流王将の対局を追った『コンピュータ VS プロ棋士  名人に勝つ日はいつか』(岡嶋裕史)は、きちんと棋譜の解説が載っており、まるで現場で対局を見ているような臨場感を味わうことが出来ました。

 IT革命は我々に何をもたらしたのだろうか。得られたものは空騒ぎに過ぎず、むしろ文化や芸術や人間性に対して大きな弊害を与えているのではないだろうか。そう問いかけたのが、『人間はガジェットではない  IT革命の変質とヒトの尊厳に関する提言』(ジャロン・ラニアー)です。

 女子中学生の「自由研究」がどれほどフリーダムであるかがよく分かる『女子中学生の小さな大発見』(清邦彦)は、科学の原点を見るような感動と共に大笑いできる素敵な本でした。

 他に、世界各国の(日本人から見て)奇妙に思える校則を集めた『こんなに厳しい! 世界の校則』(二宮皓:監修)や、身体で建築物への愛を表現する『けんちく体操』(チームけんちく体操)、ジャンクフード中毒の実態を暴く『ポテチを異常に食べる人たち  ソフトドラッグ化する食品の真実』(幕内秀夫)、アニメとパチンコのタイアップ企画の背景を探る『パチンコがアニメだらけになった理由(わけ)』(安藤健二)などが印象に残りました。

 最後に、翻訳をテーマにした本を二冊。

 『厄介な翻訳語  科学用語の迷宮をさまよう』(垂水雄二)は、誤訳の実例を挙げつつ、サイエンス本を翻訳する際にぶつかる難しい問題について語ります。

 『オタク的翻訳論 日本漫画の中国語訳に見る翻訳の面白さ 巻八「毎日かあさん(大陸版)」』(明木茂夫)は、人気シリーズの最新作。西原理恵子さんの『毎日かあさん』を題材に、同じ箇所が台湾版と中国大陸版でそれぞれどのように訳されているのかを比較するという新たな芸風、じゃなかった研究テーマに挑戦しており、すごく楽しい。早く次の巻が読みたい。


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