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2011年を振り返る(5) [サイエンス・テクノロジー] [年頭回顧]

2011年を振り返る(5) [サイエンス・テクノロジー]

 2011年に読んだポピュラーサイエンス本のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2011年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 『わたしを宇宙に連れてって  無重力生活への挑戦』(メアリー・ローチ)は抱腹絶倒の一冊。嘔吐や排尿など、有人宇宙飛行のあまり言及されることがない人間くさい側面をぐりぐり探求します。下品なエピソード満載。大笑いしながら、本当の宇宙開発とはどのようなものであるかを理解することが出来ます。

 『不死細胞ヒーラ  ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』(レベッカ・スクルート)も抜群に面白かった。ヒーラ細胞をめぐる波瀾万丈の実話が、知的にも情緒的にも強い感動を生みます。

 他に、医学まわりでは、『闘う!ウイルス・バスターズ  最先端医学からの挑戦』(河岡義裕、渡辺登喜子)も興味深い。最近話題になった、人工合成インフルエンザウイルスについても書かれています。

 『乾燥標本収蔵1号室  大英自然史博物館 迷宮への招待』(リチャード・フォーティ)は、巨大博物館のバックステージを紹介してくれる好著。勤続30年に渡って探索を続けてもなお未知の場所が残っているという、魔界めいた大英自然史博物館の内側。自然史学、博物学への興味と敬意がわき上がります。

 『青の物理学  空色の謎をめぐる思索』(ピーター・ペジック)は、「空はなぜ青いのか?」という疑問が解決されるまでの長い歴史を解説した一冊。一見素朴に思える疑問がどれほど奥深いものであるか、畏敬の念を覚えます。

 認知心理学まわりの本では、「バスケットボールをしている画面にゴリラが堂々と登場することに気がつかない」という有名な“見えないゴリラ”動画の作者による『錯覚の科学』(クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ)が猛烈に面白い。人間の認知がいかに杜撰であるかを示す様々なエピソードには感嘆の他はありません。

 他に、『人はなぜだまされるのか 進化心理学が解き明かす「心」の不思議』(石川 幹人)や、『だまし絵練習帖 基本の錯視図形からリバースペクティブまで』(竹内龍人)なども、人間の認知の不完全性について具体的に教えてくれました。

 『背信の科学者たち』(ウイリアム・ブロード、ニコラス・ウェイド)は、現実の科学界で横行しているインチキ、犯罪的行為、捏造などの実態を明るみに出した古典的名著ですが、今読んでもそのインパクトは変わりません。科学者を目指す若者は必読でしょう。

 他に、『なぜ科学を語ってすれ違うのか  ソーカル事件を超えて』(ジェームズ・ロバート・ブラウン)も、科学という営みが社会から独立した純粋で合理的なものでは決してないことを教えてくれました。

 物理学・天文学まわりでは、ビッグバン直後に起きた宇宙の指数関数的膨張について提唱者自らが分かりやすく解説してくれる『インフレーション宇宙論』(佐藤勝彦)、地球に似た太陽系外惑星が次々と発見されている理由について解説してくれる『スーパーアース』(井田茂)、初等物理を学ぶためのパズル集『傑作! 物理パズル50』(ポール・G・ヒューイット、松森靖夫:編)などが印象に残りました。

 テクノロジー関係では、温暖化に対抗するために地球環境そのものを工学的にいじくってしまうというジオエンジニアリングの現状を解説した『気候工学入門  新たな温暖化対策ジオエンジニアリング』(杉山昌広)、宇宙空間に帆を広げ太陽風で加速する世界初のソーラーセイルの開発秘話『宇宙ヨットで太陽系を旅しよう  世界初!イカロスの挑戦』(森治)、TOTOの技術者が語るトイレの最新テクノロジー『世界一のトイレ  ウォシュレット開発物語』(林良祐)が面白かったと思います。

 生物学・進化論まわりでは、生物多様性と遺伝子バンクがなぜ重要なのかはっきりと教えてくれる『地球最後の日のための種子』(スーザン・ドウォーキン)がインパクト大。鳥のさえずりには「語彙」や「文法」がある、という驚愕の発見を追った『さえずり言語起源論  新版 小鳥の歌からヒトの言葉へ』(岡ノ谷一夫)にも興奮。他に、『身近な雑草の愉快な生きかた』(著:稲垣栄洋、画:三上修)も良かった。

 『イカの心を探る 知の世界に生きる海の霊長類』(池田譲)、『クモの網  What a Wonderful Web!』(船曳和代、新海明)、『ヒドラ』(山下桂司)、『ダンゴムシに心はあるのか』(森山徹)は、それぞれ特定の生物にスポットライトを当て、その知られざる生態や能力について熱く語る本。サイエンス本というより、むしろ「熱狂的ファンが書いたアイドル本」に近い印象があり、楽しめました。

 最後に、がんの再発と転移について最新の知見をまとめた『再発 がん治療最後の壁』(田中秀一)は、個人的に衝撃でした。何だか「今や、治る病気」などと云われているがんが、これほど手ごわい病気だったなんて。


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