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2011年を振り返る(4) [SF・ミステリ] [年頭回顧]

2011年を振り返る(4) [SF・ミステリ]

 2011年に読んだSFをはじめとするジャンル小説のうち、印象に残ったものについてまとめてみます。なお、あくまで「2011年に私が読んだ」という意味であって、出版時期とは必ずしも関係ありません。

 まず、今年はショーン・タンの作品に魅了されました。言葉のないグラフィックノベル『アライバル』が何といっても素晴らしい。岸本佐知子さんが訳してくれた『遠い町から来た話』も素敵だし、未訳ながら『Lost & Found』もぐっときます。

 著者来日にあわせて、雑誌「イラストレーション」の2011年9月号(No.191)がショーン・タンの小特集を組んでくれました。SFマガジンには著者インタビューが載るし、近所の書店にまで「著者サイン本」が並べられるなど、ショーン・タン旋風が吹き荒れた一年でした。

 日本作家の作品では、月村了衛さんが衝撃的なまでの面白さ。『機龍警察』も良かったのですが、続編たる『機龍警察 自爆条項』はその面白さに飛び上がりました。今年読んだ冒険小説では文句なし一番です。

 『11 eleven』(津原泰水)はその幻想的な雰囲気ときらめく文体で、『リリエンタールの末裔』(上田早夕里)はSFの手法により人間性というものを追求する姿勢に、そして『殺人者の空  山野浩一傑作選II』(山野浩一)は内宇宙の探索にかける意志で、それぞれ強い印象を残してくれました。今年読んだ日本SFから三冊選ぶならこれです。

 ちなみに、『鳥はいまどこを飛ぶか  山野浩一傑作選I』(山野浩一)も悪くありません。

 2011年は巨大ロボットや怪獣が大暴れした年でもありました。『ダイナミックフィギュア(上)(下)』(三島浩司)は、巨大ロボットSFなるものを本気で追求するこだわりと意地に感動しました。山本弘さんは、本格怪獣小説シリーズMM9の長篇『MM9 -invasion-』と、MM9短篇集『トワイライト・テールズ』を出してくれ、どちらも大いに楽しめました。今どき、円盤に乗った宇宙人が怪獣を使って地球を侵略してくる話を大真面目に読める幸せ。

 田中啓文さんは、噺家修行中の若者を主人公とした人気シリーズ最新作『ハナシはつきぬ! 笑酔亭梅寿謎解噺5』と、UMAハンター馬子の続編なのか何なのかよく分からないままとにかく馬子&イルカが活躍する『こなもん屋馬子』で笑わせてくれました。

 北野勇作さんの『どろんころんど』と『かめ探偵K』、椎名誠さんの『チベットのラッパ犬』、いずれも著者らしい奇妙な雰囲気にあふれており、魅力的でした。

 前年ほどではないとはいえ、当然のようにSFアンソロジーが何冊も出ました。『結晶銀河 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵)は堂々たる年刊傑作選として必読。

 一方、書き下ろしアンソロジー『NOVA』は4巻、5巻、6巻と順調に出版され、新人からベテランまで幅広い作家を紹介してくれました。7巻以降も楽しみ。海外SFアンソロジーでは、われらが心の故郷、50年代SFを集めた『冷たい方程式』(伊藤典夫:編訳)が印象に残りました。

 海外作品では、まずは『ミステリウム』(エリック・マコーマック)が素晴らしい。ミステリのように見えてそうでもない奇妙な作品ですが、とにかくマコーマックは冷静に読めないほど好き。もっと訳して。

 本格SFとしては、『ねじまき少女(上)(下)』(パオロ・バチガルピ)が圧倒的でした。たぶんベストSF海外篇2011で堂々一位、間違っても三位以内には入ることでしょう。今年は短篇集も出るし、春から盛り上がりが期待されます。

 『プランク・ダイヴ』(グレッグ・イーガン)は、さすがイーガンとしか言いようのない、色々な意味でハードSFを集めた短篇集。SF読者なら必読、そうでない読者は避けておいた方がいいかも。

 中世のドイツを舞台としたファーストコンタクトの成り行きを感動的にえがく『異星人の郷(上)(下)』(マイクル・フリン)、H・G・ウエルズを狂言回しに使い倒しSFと一般小説の境界上を駆け抜ける『時の地図(上)(下)』(フェリクス・J・パルマ)は、どちらも存分に楽しめました。

 ナポレオン戦争にドラゴンをからめた架空歴史小説『テメレア戦記IV 象牙の帝国』(ナオミ・ノヴィク)は、最後に劇的な展開になだれこんでそのまま「続く」になってしまうので悶絶ものでした。続編を早く訳して下さい。

 他には、SF界のグランドマスターによる傑作短篇集『奇跡なす者たち』(ジャック・ヴァンス)、SF史上最高の猫が活躍する『跳躍者の時空』(フリッツ・ライバー)、未来からの物理的攻撃というアイデアを真面目に書いた『クロノリス -時の碑-』(ロバート・チャールズ・ウィルスン)が良かったと思います。

 2010年はゾンビが流行った年らしく、遅ればせながら読んだ話題作『WORLD WAR Z』(マックス・ブレックス)および『高慢と偏見とゾンビ』(ジェイン・オースティン、セス・グレアム=スミス)がどちらも色々と凄かった。

 最後に、黒服を来た奇妙な女の子と黒猫たちのイラストで有名なエミリー・ザ・ストレンジを主人公とする小説『エミリーの記憶喪失ワンダーランド』(ロブ・リーガー)が意外と面白かった。おしゃべりなエミリーというのはちょっとイメージ違うような気もしますが、それはそれとして。


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