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『地雷を踏む勇気』(小田嶋隆) [読書(随筆)]

 原発の本質はマッチョ、復興構想会議はポエム、今や恋愛は田舎くさい娯楽。身も蓋もないことをへっぴり腰で語るオダジマ流、日経ビジネスオンラインの人気コラムを書籍化。単行本(技術評論社)出版は2011年12月です。

 80年代の後半でしたか、パソコンやパソゲーまわりの奇妙なサブカルチャーを扱った雑誌を熱心に読んでいた時期があります。「月刊遊撃手」とか、「Bug News」とか。うん、「Bug News」は素敵だった。そういう雑誌で気勢を上げていたライターが小田嶋隆さん。

 とにかく小田嶋さんの記事は面白かった。社会現象や会社組織や何やらの駄目なところを、いい加減に脱力した感じで愚痴る。身も蓋もない事実をぼそっと指摘する。思わず失笑してしまう比喩。話題の対象の「しょぼさ」を表現することにかけては右に出るものがない、そんなコラム。

 その小田嶋隆さんが今や日経ビジネスオンラインにコラムを連載しているというから驚きです。「日経」、「ビジネス」、いずれもイメージに合いません。もしや「グローバルマーケットでビジネスチャンスをつかむには」みたいなことを書いているのか。オダジマよう。

 というわけで、単行本化を機会に、おそるおそる読んでみました。ところがところが、何とこれが、昔のまんま。一安心です。

 例えば、原発問題について語る言葉はこうです。

 「原子力シンパの皆さんは(中略)「エネルギー効率」であるとか「温暖化ガス排出ゼロ」であるとかいったクレバーに聞こえる言葉を使うことにしている。でも、心の中には、「かっけー」「つええ」「すげえ」ぐらいな間投詞が溢れているはずなのだ。男の子は、何歳になっても変わらない。われわれは、強力で、派手で、むちゃくちゃで、制御の難しいホットロッドなマシンが、心の底から大好きなのである」(単行本p.21)

 九電やらせメール事件についての考察。

 「これは、昨日今日の付け焼刃の無能さではない。きちんと筋金の入った、十分に訓練の行き届いた無能だ(中略)。関係者のすべてが無能であり続けることが組織存続の前提条件になるといったような何かが、九州電力の内部の、少なくとも原発に関連する部署には内在しているはずだ。そうでないと、説明がつかない」(単行本p.51)

 自衛隊について。

 「そうだった。軍隊ではない。撤回する。彼等は軍手だ。汚物や危険物に触る時に用いる使い捨ての手袋。権力者の手を汚さないための・・・・・・以下略。忘れてくれ。4月1日だ。オレだってデタラメを言いたくなる日が一年のうちに一回ぐらいはある」(単行本p.152)

 といった具合。80年代にパソコンメーカーや、パソコンユーザーや、パソコン雑誌について書いていた文章と同じです。

 「人間の中味について言うなら、私の心根は、上野行きの都営バスに乗っていた高校生の頃とほとんど変わっていない。ただ、外見が五十男になっただけだ」(単行本p.235-236)

 読んでいるこちらの心根も、あの頃と何一つ変わっちゃいません。

 タイトルだけ見て「批判をものともせず、毅然とした姿勢で自分の主張を貫く暑苦しいコラム」を想像する読者もいるかも知れませんが、それは誤解です。

 まわりくどい言い訳を長々と書いた挙げ句、へっぴり腰で地雷に近づいて、踏むポーズだけして、「えんがちょっ!」と叫びながら逃げてゆく、そんな感じのヘタレ記事が多いので、むしろそういうのを期待している方にお勧めします。それと「Bug News」を読んでいた人。


タグ:小田嶋隆
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