SSブログ

『その「正義」があぶない。』(小田嶋隆) [読書(随筆)]

 時事ニュースや会社組織の駄目なところを、いい加減に脱力した感じで愚痴る。身も蓋もない事実をぼそっと指摘する。話題の対象の「しょぼさ」を表現することにかけては右に出るものがない。そんな小田嶋隆さんが日経ビジネスオンラインに連載している人気コラムが書籍化。単行本(日経BP社)出版は2011年11月です。

 80年代に、「月刊遊撃手」とか、「Bug News」とか、パソコンやパソゲーまわりの奇妙なサブカルチャーを扱った雑誌で気勢を上げていた小田嶋隆さんが、そのタチイチのまま時事ニュースについて語ってしまうコラム集。

 原発問題、サッカー、芸能人のスキャンダル、大相撲の八百長問題、表現規制問題、国旗起立問題、さらにはジョブズ死去に至るまで、旬ネタが集まっています。姉妹編『地雷を踏む勇気』と同じく、身も蓋もないことをぼそぼそと語り、しょぼい雰囲気を作り出すのが巧い。

 「子供を盾に何かを言ってくる人々は、正直なコラムニストにとっては、天敵だ。(中略)この人たちは、クレームを付けるに当たって、本人の名においてそれをせずに、子供の弱さやいたいけさをタマよけにして、その後ろでモノを言う」(単行本p.182-183)

 これは表現規制問題について語るコラムの導入部なんですが、これを見ても想像がつくように、社会問題を論じる部分ではごく凡庸な論調になるのに、個人的な愚痴をこぼすところはやたらキアイが入ってます。

 「小沢ガールズという言葉を使っている書き手も同じだ。彼らは読み手を侮っている。(中略)どうにもTOEIC 300点台っぽい和製英語以前の語感の、カラ駄目な用語を使っているという時点で、書き手の見識の低さは、隠蔽不能。どうにもならない」(単行本p.233)

 政局を論じるときも、「なぜ、小泉'sチルドレン、と云わないのか。なぜ、小沢'sガールズ、と云わないのか」を熱く語る(そこかっ)ところが、いかにも小田嶋隆さんらしい。

 野田政権について包括的に評価するコラムでは、自作の歌詞を全文掲載した上で、こうくる。

 「作詞者はオダジマ。まだ20代の頃、当時所属していたアマチュアバンドのために書いたものだ。だから、大丈夫、ジャスラックは手を出せない。引っ込んでろよ、シャイロック。オレの歌をオレが引用しているだけなんだから」(単行本p.243)

 正直なコラムニストというのも、いろいろとストレスが溜まる商売のようですね。

 というわけで、何を論じるにしても、裏付けデータなど一切出さないし、根拠はたいてい「若い頃、知人にこんなヘンなヤツがいた」といったものだし、論調もまあ常識的というか凡庸というか、あまりぱっとしないし、「内容」に期待して読むときっと失望させられます。

 しかし、その何かを「へっぴり腰で、ぼそぼそとけなす」という、しょぼい感じがツボに入ると、これが思いっきり笑えます。個人的にもときどき思わず失笑が漏れてしまいました。向き不向きはあると思うので、まずは『地雷を踏む勇気』(小田嶋隆)を読んでみて、面白いと思った方はためらわずにどうぞ。


タグ:小田嶋隆
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: