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『錯視芸術図鑑 世界の傑作200点』(ブラッド・ハニーカット、テリー・スティッケルズ、北川玲:翻訳) [読書(教養)]

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ぼくたちは見慣れているものをじっくり見なくなっている。錯視は見慣れた光景に揺さぶりをかける。そしてぼくたちは魔法にかけられたように、新たな意味をそこに見出すのだ。
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単行本p.220


 古今東西の錯視を利用した芸術作品から選び抜かれた200点の傑作を収録したフルカラー画集。単行本(創元社)出版は、2014年7月です。

 物理的に存在し得ない建築物を描いた絵、二つ以上の異なる解釈が可能な絵、実際には描かれてないものが見えてしまう絵。古典から最新作まで、錯視を効果的に用いた様々な芸術作品を収録した一冊です。

 書店に行くと、目が眩むような派手な錯視図形を多数載せた本が数多く並んでいますが、本書は一味違います。その収録基準は、芸術性。思わず見入ってしまうような、美しく、神秘的で、魅力的な作品がずらりと並べられています。抽象画もあれば写実的な作品もあります。写真もあれば、信じがたいことに、いくつか立体造形物さえ収録されているのです。


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錯視芸術作品を1冊にまとめた本として、これほど内容豊かで多彩なものは類を見ない。ページをめくると、世界的にその名を知られるオランダのアーティスト、M.C.エッシャーや、古典的なアイデアを新たな方向へと導いている革新的なジャンニ・A・サルコーネの作品に出会える。ホセ・マリア・イトゥラルデといった厳格な芸術家もいれば、北岡明佳のように目もくらむような作品を手がける科学者もいる。また、穏やかな雰囲気の風景画に“何か”をしのばせるロシアのエレーナ・モスカレヴァから、グラフィックによる大胆な謎かけを得意とするマレーシアのイラストレーター、チョウ・ホン・ラムまで、アーティストのスタイルも出身地もさまざまだ。
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単行本p.5


 よく見ると人物の顔が潜んでいる風景画、遠近法を大胆に打ち破り観る者を混乱させる絵、リアルな筆致で描かれ存在感あふれる不可能構造建築物、上下逆さに観ると別の文字になるアンビグラム、遠くから観ないと何が描いてあるのか分からない絵、ちらちらと動いているように感じられる絵、二つの両立しない光景が見事に融合した絵。

 曲がっているとしか思えない直線、立体視、色の錯視など、純粋な錯視図形はむしろ少なめ。たとえ錯視効果に気づかなくても鑑賞できるような美しい絵画作品が多く収録されています。

 芸術作品に錯視効果がどのように活かされているのか興味がある方や、単なる錯視図形に驚くだけでは物足りず何度も観て楽しめるような魅力的な作品を求めている方、エッシャーのアイデアを発展させた最新作を知りたい方、強くお勧めします。単に画集として眺めても魅力的な一冊です。


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