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『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら vol.2』(川口晴美:詩、芦田みゆき:写真、小宮山裕:デザイン) [読書(小説・詩)]

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あなたは双花町にいる。
       どこにも行かなくても、
なにも見なかったとしても
  双花町はここにある。
  あなたはここにやって来た。
  何もないここへ。

迷うために。
ただ
それだけのために。
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「g 観光ガイド」より


 どことも知れぬ不可解な場所、双花町を訪れた「あなた」は、迷宮に足を踏み入れていることに気づく。長篇ミステリー詩と写真の幻想的コラボレーション、そのパート2。Kindle版(00-Planning Lab.)配信は2014年10月です。

 どこか不穏で心をざわめかせる写真と、幻想ミステリーのような謎めいた雰囲気の長編詩。二つの創作物が電子媒体の上で重なり合い、読者を否応なく双花町という名の迷宮へと引き込んでゆきます。


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はじめは暑さのせいで耳鳴りがしているのかと思ったのですが目を開けるとわたしの踵の横の真白く乾いた地面の上で枯れかけた草みたいな指がやわやわ動いていたのです。わたしは走ってサヤコの耳元で言いました。裏庭に女の人が埋められているって。
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「h 複数の昼」より

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あの男は暑さで気がへんになって女を木箱に押し込めて埋めてしまってそれから墓堀り男と呼ばれるようになったのですね。
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「h 複数の昼」より

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お父さんは僕に友だちがいるなんて知らなかったでしょう。ぼくはこの部屋の外へは行けないから誰にも会えないって思っているでしょう。でも友だちはできるんです。友だちはいつも窓の下の空地のところまで来てくれます。そこから僕の窓へ合図を送ってくれます。
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「i 紙を重ねる」より

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魚の目玉と魚の血と魚の鱗がある場所があたしは欲しい、びっしり並んだ魚の鱗は冷たく乾いてぬらぬら小刻みに震え続ける無数の銀色の粒々だから銀色の粒々が欲しい欲しくて、いつもあたしのおなかの奥ずうっと奥のあたしの手の届かないところで無数の銀色の粒々がぬらぬら震えて冷たい、指、指が欲しいあたしの手の届かないところまでたやすく届いて銀色の粒々を撫でるように掻きまわしてあたたかく眠く濡らしていくあの指、あたしはあたたかく眠く濡れた、魚の鱗そっくりの罅割れた爪を小刻みに震わせて動く白い指、いいえ指は動きませんでした、動いているのを観たのはサヨコです、
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「n 理由」より

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たった今見てきた花陰医院の様子が信じられなくてあなたは混乱している。あれは、廃院だったはず。いったいどういうことなのか、自分の頭がどうかしてしまったというのか。なすすべもなく寝台に横たわろうとして、あなたは上着を脱ぐ。するとそのポケットからばらばらと床にこぼれ落ちるものがあった。銀色の粒だ。あなたは身を起こしてそれを拾いあげる。ひとつ、ふたつ、みっつ……全部で4粒の錠剤があなたの掌にのる(最後の1粒は寝台の下に転がっていってしまったのだが、あなたはそのことに気づかない)。
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「q ピリオドのように」より


 殺された少女、つるされたその遺体を発見した「墓堀り男」、双子のサヤコとサヨコ、部屋から外に出られない少年、そして魚市場で出会った謎めいた女を探し求める「あなた」。

 vol.1ではちらりと書かれていただけの「墓堀り男」が、ばらばらに語られてきた断片を曖昧につなげてゆきます。だからといって、おぼろげにでも全体像が見えてくるか、というとそんなことはなく、むしろ困惑は深まるばかり。

 背景となっている写真と文字との強烈な相乗効果、様々な文体や字体や色彩を駆使した視覚的幻惑、詩の言葉そのものが持つ迫力が、渾然一体となって読者を幻想に誘い込んでゆく作品です。まだパート2なので、この先どうなるのか予想がつかず、どきどきします。先が楽しみ。

 ところで各断片にはアルファベットの記号が割り振られているのですが、まだ物語は始まったばかりというのに、すでにaからqまで消費してしまったのですが、大丈夫なんでしょうか。zまで使っちゃったら、その後はどうするのでしょうか。そんなことが気にかかって仕方ありません。


タグ:川口晴美
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